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鏑木保ノート

ブックライターの書評、本読みブログ。

【書評】『聞き歩き福島ノート 福島のこれからを話そう』物江潤・近未来社

2014年03月29日 | マジメ
 東日本大震災から三年(本稿は2014年に書いている)。
 原発の再稼働や被災地の復興など問題は山積みで、みんなで議論しなきゃいけないことは本当にたくさんある。

 でも議論をするためには被災地や原発問題をめぐる「いま」と、三年経ったことによって起こってくるまた新たな問題も考えていかなければいけないわけで。

 肝心の「あの場所」の「いま」を知らないのに、顔を真っ赤にして「原発反対!」と叫んでみても、僕にはただの感情論にしか思えない。たとえどんなに正しい意見だとしても、それはちょっと違うんじゃないだろうか。
 賛成反対以前に、もうちょっと落ち着こうよ。
 でないとまた違う「安全神話」や「想定外」とかいった思い込みを信じて同じ失敗をくり返してしまうかもしれない。そうなったらもう今度こそ本当にダメかもしれないんだから。


 そんなわけで本書。

聞き歩き 福島ノート -福島のこれからを話そう-聞き歩き 福島ノート -福島のこれからを話そう-
価格:¥ 1,215(税込)
発売日:2014-03-12


 著者・物江潤氏は福島県喜多方市生まれ。
 福島で生まれ育ち、東京電力(訂正;東北電力の間違いでした。僕の勘違いです)東北電力に入社して2011年2月28日に退職。著者が東電東北電力を辞めた11日後に「あの」東日本大震災が起こった。

 このプロフィール。僕はなにかの運命のようなものを感じてしまう。


 本書では福島に育った著者だからいえる、福島県内での微妙な地域差や県民感情みたいなものを紹介し、現在の原発問題のあらましなどを踏まえてこの事実を知ってみんなで議論をしようと呼びかけるている。

 文章は終始穏やかで、なんだか著者の講演を聴いているようなやさしい口調だ。装丁もとても優しい色だよね。
 本書のサブタイトルは「福島のこれからを話そう」だ。


→『聞き歩き 福島ノート 福島のこれからを話そう』物江潤・近未来社

 本書の第一章では福島に「いま」住んでいる方々と同じ目線で取材をして福島の「いま」の問題を見ていく。
 個人的な友人は別として、私は避難者の方々に対し、過去を振り返させるような質問や話題は避けるようにしているため、そのご婦人にかつての生活について聞くことはしませんでした。それに聞かずとも、ご婦人が望むものがお金などではなく、かつての平穏な生活であることは明らかでしたので、聞く必要もありませんでした。
 ときにはバーに通って一緒にお酒を飲んだりしながら「地元住民」「被災者」「避難民」と呼ばれる方々に肩を寄せるように取材をしていく。この姿勢は、僕には取材ではなくて愚痴を言い合える人間同士の付き合いに思えた。

 そこにはワイドショー的な面白さはない。
 でも人間同士のつきあいを通して朴訥に、そして淡々と語られていく内容は地味だけれど生活に強烈に密着しているんだ。福島県内の地域ごとの微妙な文化の違いから避難者と地元住民の間での軋轢が少しずつ歪みとなってきている三年目の「いま」の状況が、僕にはとてもよく理解できた。
 当事者は辛いだろう。本当に。

 プロフィールを見ると著者はまだお若い(昭和60年生まれらしい)のに、この取材姿勢は本当にすごい。これは僕の想像なのだけれど、著者は震災直前まで東電東北電力で勤めていたわけで、そういうのってやはり心無い事を言われたりしたんじゃないだろうか。でも根に持ったりせず、それどころか「故郷のいま」を黙々と取材していく姿勢には本当にもうなんと言っていいのか、言葉がなくなったんだ。僕は。


 同じようにして二章では原発問題を見ていき、三章では本当にたいせつなものを考える。
 そして。第四章では事実を知ってみんなで議論していこうと呼びかけていて、これが著者の本心なのだろうなと思えた。
 少し長いが引用してみる。
 この問題を議論する場合、まず大切なことは犯人捜しを前提とした議論から始めないことです。「マナーの悪い避難者のせいだ」とか、「心の狭い地元住民の態度が問題だ」とか、「東電が全ての元凶ではないか」といったレッテル張りをやめることです。こういった話し合いや議論をいくらしても埒《らち》があくわけではなく、お互いの溝が深まるばかりです。
 福島と原発をめぐる問題が難解であることは間違いありません。しかし、議論に参加することは、思いのほか簡単なことなのです。まずは、開かれた議論の場づくりが必要です。それは、今後の私の仕事になると思います。その次に必要なのは、肩肘《かたひじ》を張らずに皆さんに議論に参加していただくことです。解決に向けては、どうしても皆さんの協力が必要となります。福島の問題を自分のことのように考え、ひとりでも多くの方が議論に参加してくだされば、ほんの少しでも問題は解決に近づいていくのです。


 難しい内容であることは確かだ。
 だけど難しいことばを使わず著者の丁寧な語り口と等身大の取材、そして装丁のやさしさで僕にもすんなりと理解できた。彼ならきっと、「開かれた議論の場」を作れるんじゃないだろうか。


 まずは知ること。
 知って、どうすればいいのかを考え、そして自分はこう思うんだと声を出していかなければいけない問題がここに書いてある。

 南海地震は明日にでも起きるかもしれないわけで、そうなったらきっとまたいろいろな「想定外」が起こるだろう。もしかしたら地震じゃなくてなにか「想定外」の大災害が今この瞬間にも起こるのかもしれない。

 著者も言うように「自分のこととして」みんなでいま考えなければいけないときがきているんだ。


 ぜひ一度読んでいただきたい名著だと思う。


聞き歩き 福島ノート -福島のこれからを話そう-聞き歩き 福島ノート -福島のこれからを話そう-
価格:¥ 1,215(税込)
発売日:2014-03-12



2014/03/30一部訂正

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【書評】『書店員が本当に売りたかった本』ジュンク堂書店新宿店・飛鳥新社

2012年07月15日 | マジメ
『書店員が本当に売りたかった本』ジュンク堂書店新宿店・飛鳥新社(リンク先は丸善&ジュンク堂ネットストア)
書店員が本当に売りたかった本
閉店が決まった後、スタッフ全員が
POPに込めた熱い想い!!
店はなくなっても想いは消えない
そんな気持ちが、この1冊の本になりました
 プライベートのブログにもだいたいを書いた(→もげきゃっち:ジュンク堂書店千日前店の本気を見た。 - 『書店員が本当に売りたかった本』ジュンク堂書店新宿店著・飛鳥新社)のだけれどもう一度。


 2012年3月。
 ジュンク堂書店新宿店が閉店することになり、最後のフェアをやった。

 その名も『本当はこの本が売りたかった!』フェア。
どうせなら最後に自分たちが本当に売りたい本に手描きPOPをつけて売ろう!
 柵《しがらみ》や建前抜きで「この本が売りたかった」と本音丸出しのフェアをやったのだ。
 このフェアはネット上で話題になり、関係各所に「すごいフェアだ」といわれつつ、ジュンク堂書店新宿店は三月末をもって閉店した。



 で。
 その最後のフェアと、ジュンク堂書店新宿店閉店のあらましが一冊の本になった。


『書店員が本当に売りたかった本』ジュンク堂書店新宿店・飛鳥新社
2012年3月、惜しまれつつ閉店を迎えたジュンク堂書店新宿店。ネットで大きな話題になった「本当はこの本が売りたかった!」フェアより、本への愛情あふれる手描きポップを当時の売り場担当者からのメッセージや新宿店最終日の様子とともに紹介します。
 本書の主役は本当にたくさんのPOPたちだ。

 途中に売り場担当者の回想を挟みながら、各ページに当時の売り場を飾ったPOPの写真が、書かれていることばが読める状態でつぎつぎと、本当につぎつぎと出てくる。それはもうすごい量で、数えてはいないんだけど二、三百はありそうな勢いだ。

 もちろん読んだことない本が多い。でもなかには読んだことのある本のPOPもあって、その紹介文なんか読んでると「そうだよねー」と会話している気がしてくるから不思議だ。きっと、本が好きな人が書いてるんだろうな。


 知ってる本も知らない本も、その本への熱い想いが詰まったPOPを読んでいると、この気持ちを伝えることばが僕にはどうしても見つからない。こういうの、ライターとしてはまことに情けないことなのだけれども今回はしかたない。本当に見つからないんだ。


「もう、すごいよ。本当に。読んでみて」


 くらいしか言えない。


 だって、本がすべてを語ってくれてるから。


『書店員が本当に売りたかった本』ジュンク堂書店新宿店・飛鳥新社
 今回の新宿店の閉店に際しては、リアル書店としての店舗の役割が、まだまだあるのだ、ということを肌身で感じることができました。それを実感することのできた閉店時の評判が、ネットでの読者の方々のお声であったことに、今の時代というものを強く感じさせられました。リアル書店の脅威として考えられているネットという存在が、このような追い風となることもあるのです。
 後半の閉店当日の風景は胸に迫る。……みんな、本が好きなんだね。



 ちなみに。
 収録されたPOPを見ながら読みたい本に付箋をつけていったらこんなになってしまった。
『書店員が本当に売りたかった本』ジュンク堂書店新宿店・飛鳥新社

 暗く撮れてしまってみえにくいのだけれど、小口(本を開く側)に約二、三十枚ほどの付箋がついていて、天(本の上部)と地(本の下部)にそれぞれ半分くらいは付いているはず。

 さて。
 これがすべて剥がれる日が来るのかな?


 少しずつ剥がしていきたいな。




追伸:
 なるほど。
 カバーを取るとああなってるんだねぇ。
 こういう仕掛け、僕は大好きだ。


 ヒントは「知っている人は知っている」そして「僕は初めて見た」。


『書店員が本当に売りたかった本』ジュンク堂書店新宿店・飛鳥新社
『書店員が本当に売りたかった本』ジュンク堂書店新宿店・飛鳥新社


もくじ
第1章 ありがとう
   ??新宿店スタッフが感謝をこめてお客様におススメしたい一冊
売り場担当より ”ありがとう”がいっぱいです。(文芸書担当・村尾啓子

第2章 本音を言えば、この芸術書が売りたかった!!
売り場担当より 本音を言えばこの本を売りたかった!!(芸術書担当・松尾千恵)

第3章 わたしたち、本にはいつも片想い?
   ??書物に対する欲望と快楽、その時代的考察
売り場担当より 最後のラブレター(児童書担当・兼森理恵)

第4章 さようなら新宿
   ??社会科学担当者が本当に売りたかった本

売り場担当より 20年目にして分かった手描きポップの大変さ(社会科学書担当・伊藤美保子)

第5章 2012年3月31日
   ??その日を忘れない
巻末特集 すべてのお客様に、ありがとう(新宿店元店員さん座談会)

あとがきにかえて(旧新宿店店長・毛利聡)
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