goo blog サービス終了のお知らせ 

鏑木保ノート

ブックライターの書評、本読みブログ。

【書評】『哲学者ユングの誘い』君塚正太

2014年10月04日 | その他
『哲学者ユングの誘い』
(今回はamazonのページが見当たらなかったのでGoogleBooksのページを載せています)


 女嫌いで、自分の気にくわない妻と暮らすダランベールという男がいた。
 男はその憂さを晴らすように哲学に没頭しているのだけれど、妻のキンキン声に毎日我慢がならない。
 ダランベールは中庸を知らない。極端から極端に走る。
 だからなおのこと哲学に没頭していく。
 なにしろ本作の文章の八割以上が哲学的考察なんだから恐れ入る。

 そんな鬱陶しいと思っていた妻が、ある日癌で死んでしまった。
 それから男の世界は動き出す。

 というのが本書のだいたいのあらましだ。


 いままで「あたりまえ」と思っていたことが、じつは「あたりまえ」ではなかった。「なくして初めてわかるものがある」とはよく言うけれど、男が感じたのもそれだった。自分は妻を愛していたかもしれない。その愛していた妻をないがしろにして、昼は役所で働きつつ自由な時間のすべてを哲学の思索に充てて理想を追い求めていた。自分は理想主義者でありすぎた。
 妻の死をきっかけに男は実存主義哲学に変わる。

 それだけ悔やんでても哲学はやめないんだね(笑)。とツッコミそうになったんだけれど、まあ哲学は男の生きがいともいうべきものであるらしくて「やめる」という選択肢はないようだ。

 妻を喪った男の哲学はどんどん深いところにいって、ついには日常のなんでも気にかかるようになった。さらには「哲学とはなんなのか」という、いわゆる「そもそも論」の深い沼にハマってしまい自分でも躁鬱病や分裂症のケがあるように感じるようになった。ヤバイです。相当。
なにも俺は難しい話をしようとしている訳ではない。ただ、単に激しく入り乱れる想念がいろんなことを連想させるのである。まるで熱にうなされたかのうように筆を走らせていると、疲れも感じない。そんな日が何日か続いた日、俺はとうとうこれは危ないと判断し、著名な医者の下に向かった。彼の名前はカール・グスタフ・ユング。誰もが知っている精神分析医だ。
(引用部はすべて原文ママ)

 ユングキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!!

 なんでもダランベールにとってあのユングは大学時代の知り合いであるらしい。
 そのツテがあってかダランベールは結局、ユングの自宅で入院する(医者の自宅でも「入院」っていうのかな? 病院に入るのが「入院」だと僕は思ってたんだけれど?)ことになった。もちろん入院しているあいだも哲学的思想は襲ってくる。

 そういう日々のなか、マリアという女性に出会った。
 マリアとの交流のなかで、男の哲学はだんだんと変わっていく。


 最後は急転直下の展開だった。
 まさかあのひとがあのひとを××するなんてねー。


 本書を読んでて僕は思ったんだけれど、これって一種の『ドグラ・マグラ(→青空文庫版)』なんじゃなかろうか。

 本書60ページでダランベールはこう言っている。
書き物とは苦労して書いたものより一気呵成に、それも楽しんで書かれた作品が評価されるに値されるのだ。
(原文ママ)

 本書は展開と推敲の甘い部分がところどころ……というか本当にひんぱんに見当たるんだけれど、これってつまり、主人公ダランベールがその「評価されるに値される」書き物として一気呵成に書き上げた作品なんじゃないだろうか。
 つまりは躁鬱病に悩まされて自分は分裂病かもしれない考えた人間が書いた手記。ダランベールが己の信じるように書いた文章ってこと。

 だから物語中で言っているとおり、いっぺんに書いて推敲をしていない文章なのだろう。話の展開もいろいろな哲学的思考を行きつ戻りつする。それが僕にはとても読みにくい。ゴツゴツとひっかかるんだ。でも読むといろいろな思考の断片が落ちている。


 そのあたりの感じが、僕にはとても『ドグラ・マグラ(→青空文庫版)』なんだよ。


『哲学者ユングの誘い』
(今回はamazonのページが見当たらなかったのでGoogleBooksのページを載せています)


→【本がもらえる】レビュープラス

●こんな本も
『荒野の狼へのレクイエム ヘルマンヘッセへのオマージュ』君塚正太・テクネ
『竜の小太郎第一話』君塚正太・テクネ
『竜の小太郎第二話上』君塚正太・テクネ
『竜の小太郎 第二話 中』君塚正太・テクネ
『竜の小太郎 第二話 下』君塚正太・テクネ
『天才と狂人 対話篇』君塚正太・テクネ
『第二の少年A狂気の時代』君塚正太・テクネ

【書評】『連番禁止ナンプレ』マグナム・ハート・パブリック・ブレイン

2012年01月20日 | その他
 最近ナンプレ(数独)にハマっている。


 ナンプレとは、
 9×9マスのなかにいくつか数字が書かれたパズルで「数独《すうどく》(※1)」とも言う。

 マスのタテヨコのラインとブロック分けされた9マスのなかに1~9までの数字が入り、ラインやブロックの中では同じ数字を使ってはいけない。
 以上のルールを使ってマス目をすべて埋めていく数字パズルのことだ。


Sudoku(※2)
 雑誌の後ろとかにこんなパズルを見たことがあるかもしれない。
 これがナンプレである。


 電車待ちの時間ツブシとかに最適のパズルなんだけれど、いかんせんちょっと単調なんだよな。
 最初は適度に難しくて頭の体操になるのだけれど、数字の選択のしかたに慣れてくるとあっという間に解けてしまうんだから。かといってハードな問題に挑戦すると、今度は最初のとっかかりすらわからないという事態に陥って、いつまで経ってもパズルが進まなくてイライラする。

 あくまで僕の主観なのだけれど、このパズルって慣れるほど簡単か難しいかの両極端になってしまうんじゃないだろうか。


 でだ。
 少しだけルールの違うナンプレに挑戦してみた。


連番禁止ナンプレ連番禁止ナンプレ価格:¥ 693(税込)発売日:2011-10-10



連番禁止ナンプレ


 なにが「連番禁止」なのか。
 それは「隣り合ったマス目は連番になってはいけない」というものだ。

 たとえば先の画像だと
Sudoku
 左上のブロックにある5と6,9と8は連番なのでダメ。ということになる。


 たったこれだけのルールの追加なのだけれど、
 これでまったく違った展開になるから不思議。


 いままでどおりの頭で普通にナンプレをしていたら「あれ? 詰まり?」と思うことが何度もあったり、2マスだけ空いている状況で「隣の数字がこれだから連番は入らない。だから……」と重要なヒントになることも多々あった。

 後半、
「そっか。足かせが一個増えたのなら、その足かせを利用して謎を解きゃーいいんじゃねぇか」という感じの、なんか切れ者の名探偵みたいな気持ちになれた不思議なナンプレ。


 一般のナンプレとは、少し頭の使う場所が違うようだ。
 普通のナンプレに飽きたら一度チャレンジしてみよう。
→『連番禁止ナンプレ』マグナム・ハート・パブリック・ブレイン


※1 文中の「数独」は株式会社ニコリの登録商標です。
 説明を平易にするために使わせていただけで他意はありません。

※2 ナンプレの例題画像はWikipediaより


 いつもなら以下は目次を引用しているのだけれど、今回はさすがにいらないだろうから割愛する。


 そのかわり。
 今回書評を書くにあたり、ちょっと小耳に挟んだナンプレ無駄話を二つ。


1.「数独」の意味。
 ナンプレのもうひとつの言い方である「数独」とは、
 株式会社ニコリが発行するパズル雑誌『パズル通信ニコリ』なかで、アメリカのパズルを『数字は独身に限る』というタイトルで日本に紹介したことに始まる。
 『数字は独身に限る』略して『数独』となった。
 以後、数独はイギリスの新聞社でも紹介され大ブームとなり、いまでは英語の辞書にも「sudoku」として載っている。

 ちなみに「ナンプレ」は「ナンバープレイス」の略称である。


2.パズル作家がいる。
 ナンプレの問題集を見るとわかるのだけれど、日本国内のナンプレは初期配置の数字がなにかしらの絵柄になっているものが多い。げんに本書『連番禁止ナンプレ』の表紙はハートマークだし、表紙をめくった一番初めにある問題もハートマークから始まっている。

 それはなぜか。
 パズル作家がいるからだ。

 だからいろんな絵柄やモチーフにしたパズルが作れるし、今回紹介した『連番禁止ナンプレ』みたいな新しい要素を足したりできるわけだ。

 ちなみに本書の著者名にあるマグナム・ハート氏もパズル作家である。
 ブログもあるので興味のある方は覗いてみるといい。

浮世忘れ

連番禁止ナンプレ連番禁止ナンプレ価格:¥ 693(税込)発売日:2011-10-10

→【本がもらえる】レビュープラス

●こんな本も
『羽生の一手詰』監修・羽生善治・マガジン・マガジン

【書評】『集めてみました 開運 世界お守り』世界のお守り研究会・講談社

2011年04月29日 | その他
 世界中のかわいいお守りたちが、合計百五十五種類も収録された本書。

集めてみました 開運 世界のお守り集めてみました 開運 世界のお守り価格:¥ 1,000(税込)発売日:2009-01-30


 それぞれのお守りには写真と簡単な効能、プロフィール、そしてそれをどこで手に入れられるかがコンパクトにまとめられていてとても便利。


 たとえばエジプトに伝わる「アンク」だとこんな感じ
58.生命の象徴
アンク
アンクは、世界最古のお守りのひとつです。「Ankh」という古代エジプト語そのものが、生命を表すといわれています。
十字架の上部がループ状の楕円となっているのが特徴で、あのツタンカーメン王も「Tut-ankh-amen」と名前の一部に「Ankh」を使い、永遠の命を願いました。古代エジプトでは不死と生命のシンボルであり、幸運を招くと信じられ、長寿や厄よけのお守りとして身に着けられていました。
 これに写真が添えられ、どこで手に入るかが書いてある。


 巻末には、
 紹介されたお守りをまとめて買えるショップやお守りを授けてくれる神社・お寺が簡単な地図付きで載っているので、本書を読んで気に入ったら実際に手に入れることもできるのだ。

 値段も安い本だし(税込千円)、読んでおけば話のタネくらいにはなるかもしれない。

集めてみました 開運 世界のお守り集めてみました 開運 世界のお守り価格:¥ 1,000(税込)発売日:2009-01-30

→『集めてみました 開運 世界のお守り』世界お守り研究会・講談社

もくじ
恋のお守り
開運のお守り
厄よけ・魔よけのお守り
安産・子宝のお守り
■コラム
人間と魔よけ
魔よけとお守り
現代のお守り事情1
現代のお守り事情2
欲しいお守り、ここで買えます
贈って伝わる思いがあります。
信じて強くなる絆があります。
ここに集めたお守りのどれかひとつが、
あなたに、あなたにとって大切な人に、
幸せを運んできますように。
 読んでいたら、以前イタリアみやげでもらったウシのツノ型キーホルダーも載っていて驚いた。

 このツノの名前は「コルネ」といって、イタリアでは神の象徴や力のシンボルとされていてそれはそれはとても神聖なモノなんだそうだ。んで、かんじんの効能はというと……うーん、ちょっとショックだったので書かないでおく。

 心配してくれてたんだね。ありがとう。友人。
(T_T)

集めてみました 開運 世界のお守り集めてみました 開運 世界のお守り価格:¥ 1,000(税込)発売日:2009-01-30


●こんな本も
『書ける!遊べる!古代文字ヒエログリフ』未智研・国際語学社
→『『猫神様の散歩道』八岩まどか・青弓社