醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより   177号

2015-12-19 10:42:40 | 随筆・小説
 
 呑助 今年も、もう少しで終わりますね。
侘助 一年なんて、あっと云う間だよ。歳とともに歳月は加速度的に速く過ぎていくような気がするよ。
呑助 そうですかね。私などはまだまだ長いと感じる一年もありますよ。
侘助 なるほどね。一年が長く感じるのはまだまだ若いということなんじゃないかな。若いときはいろいろあるじゃない。仕事でも私生活にあってもいろいろあるでしょ。
呑助 そうですね。私はまだ独身ですからね。
侘助 独身時代は一時間、一時間がいっぱい詰まっているような感じがするよ。濃密な時間というか、時間が濃縮されているような感じがするね。
呑助 わかりますね。私もだんだん時間が希薄になっていっているように感じることがありますね。
侘助 酒蔵の冬は濃縮された時間が過ぎていくようだよ。酒造りの真っ最中に酒を仕込むんだからね。
呑助 酒蔵の冬は厳粛な時間が過ぎていくんですね。
侘助 確かに寒造りの最中の蔵はしんと静まりかえっている。人の気配が感じられない。神聖な雰囲気があるねぇー。
呑助 酒造りの神さまが山から下りてきているような雰囲気ですかね。
侘助 そうかもしれないな。杜氏さんは今も毎朝、松尾様に祈りを奉げて仕事を始めるようだからね。
呑助 松尾様というのは酒造りの神様なんですか。
侘助 うん、そうなんだ。松尾大社というのは京都・嵐山の麓を流れる保津川に架かる渡月橋を渡り、少し行くと北側にある。昔は別格官幣大社だったそうだ
呑助 酒蔵が祀る神様はどうして松尾様が多いんですかね。
侘助 奈良時代から松尾様は酒造りの神様だったみたいだよ。
呑助 お酒は神様からの賜りものだったということですかね。
侘助 そうなんだろうね。米と水から酒はできるんだから、不思議と云えば不思議だったに違いないんだ。黴という微生物から酒ができるということが解ったのは近代になってからのことだから、それまでは神様の領域だったに違いない。
呑助 松尾大社の神主が酒を造っていたからなんですかね。
侘助 酒造りの技を伝えたと云われている秦氏の氏神が松尾大社の起源のようなんだ。
呑助 日本酒は日本古来のものなんじゃないんですか。朝鮮や中国にも日本酒と同じようなお酒があるんですか。
侘助 酒造りの技を持った渡来人が日本の風土、米と水で酒を醸したら日本酒になったんじゃないのかな。中国にも朝鮮にもない日本独特の酒ができたんじゃないかな。
呑助 それで松尾大社が日本の酒造りの神様になったですかね。
侘助 千年以上にわたって松尾神社が酒造りの神様として信じられ続けてきた理由はほかにもあるように思うんだ。松尾大社は二百数十メートルある松尾山の懐にあるんだ。松尾山の森は照葉樹、特に椿の木におおわれている。この木を燃やした灰を麹米にまぶすと麹がよくハゼルと云われているんだ。これは蔵の企業秘密だった。今でも種麹屋さんは大きな所が三社しかない。半ば独占だね。

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