斜めから降り注ぐ人付き合い

ふれあいの人付き合いについて綴っていこうかと思います。

人付き合いがうまくいかない家庭

2023-06-29 21:35:05 | 人付き合い

100マイルも離れて住んでいたので、バリーの母親はたびたび電話をかけてきた。

そしてそのたびにバリーにいろいろと頼みごとをしたが、彼はそのつど快く引き受け、そのとおりにしてやった。

母親を喜ばせたい、その一心だった。

バリーだって、時には、母親が自分を頼りにしるぎると思うこともあったが、そんなことをちょっと口にしても、ひどい罪悪感を覚えた。

子どもができたことでメリーの作り話は、これまでとはちょっと赴きの違うものになった。

二人の間に生まれたのは、男の子が二人と女の子が一人である。

しかし、子どもが育つにつれ、二人の関係にひびが入り始めた。

子どもたちから、いろいろな感情を向けられるうちに、どうしてもメリーは自分の気持ちの変化に、気づかないわけにはいかなくなった。

表向きは社会的に恵まれているけれど、内面は空しさを感じている。

夫は週末以外は出張だし、子ども相手に淋しい毎日だった。

メリーは、でき上がった結婚生活のしきたりを変えたい、と思うようになった。

しかしバリーは、妻の気持ちを理解しなかったし、夫との生活の共有、感情面での成長、もっとたくさんのコミュニケーションなどを求める妻の希望を、むしろ脅威に感じた。

よくある中年女性の危機だとなだめ、働くなり、もっとテニスでもしたらどうかと勧めるのだった。

そして内心、母親と妻、この二人の女から向けられる現実離れした要求を考えると、パニックを起こしそうだった。

そこで彼も気持ちが落ち着かなくなって、ラケット・ボールに夢中になったり、アルコールに頼ったりしはじめた。

情事の機会も求めてはみたが、深入りすることは恐ろしかった。

長男のコリンは、そうした両親の無言の緊張の中で育った。

彼は両親の不和を暴くほど大人になってはいなかったが、自分のまわりのほとんどすべてのことに無責任で不注意になった。

メリーは口だけ達者になった息子に、合理的な躾をする代わりに腹を立て、もう14歳にもなっているというのに、ガミガミ叱り飛ばした。

そのため息子はますます反抗的になり、母親の言うことをきかなくなった。

この時点、心理療法を受けていれば、メリーは、息子のコリンへ自分の不満をぶつけることは、実は夫への怒りの置き換えであると知らされたはずだ。

それだけではない。

彼女は、自分の育ちを偽ることで、幼い時のよい思い出までもすべて否定しようとしていた。

しかもそのことで内心自分を責めている。

心理療法を受ければ、メリーは当然そこにも気づいたにちがいない。

本当は、メリーの受けた躾のほうが、いま自分の子どもが受けている躾より、比べようもないほどはるかに素晴らしいものだった。

そのこともメリーはさっぱりわかっていない。

しかも、心理療法を受けたことが知れたら、社交界で何と言われるか、それを心配してせっかくの予約を、そのすぐ後でキャンセルしてしまった。

私の知るかぎり、二人はまだ結婚している。

メリーは、いくつもの委員会の委員長を兼ねているし、いまやバリーは次期社長の有力候補である。

現在バリーには、愛する若い恋人がいるが、二人とも、離婚したらせっかくの地位もすべておしまいになる。

だとしたら、ここはひとつ波風立てずに、共存していこうということになった。

コリンは24歳になったが、いまだに大学を卒業できないでいる。

酒好きで、アルバイトも二ヵ月以上続いたためしはないし、人付き合いが怖くなり最近はひどい抑うつ状態に落ち込むようになった。

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コリンの弟や妹は、ピーターパンシンドロームにならずにすんだ。

隠されたメッセージは年上の息子に、いちばんひどい打撃を与える。

彼らはすべての問題の解決を「ないない島」に求め、そこで答えを得るのである。


エンジェルベイビーの人付き合い

2023-06-01 20:36:24 | 人付き合い

リッキーが、医師のオフィスへやってきたときの会話の様子を紹介しよう。

医師は、このエンジェルベイビーの心の秘密の鍵を開けたのだ。

10~15分、あたりさわりのない話をして気分をほぐしたところで、医師はニヤッと笑ってみせ、身を乗り出してこう言った。

「キミ、なかなかやるそうだね、リッキー」

彼は上機嫌で「何の話?」と、とぼけてみせる。

「ま、なんだかすごく変わったことをするそうじゃないか。ウィルソン夫人の背中に飛び降りるとか」

「ああ、あれ、何でもないさ」、リッキーはまったく落ち着いている。

「彼女、僕を避けることだってできたのに。どっちにしろ、僕、ちょっと触れただけさ」

私は、もっとちゃんと思い出させようと決心した。

「ちょっとだけだって?」

「うん」

「ほんと?」医師は、そこでさらに身を乗り出した。

「お母さんの話だと、ウィルソン夫人は足を怪我したそうだよ。それもずいぶんとひどい怪我らしいよ」

「そんなつもりでやったんじゃないよ」リッキーは、すこしたじろいだ。

「僕のママ、ほかにどんなこと言ってた?」

「うん、そうだね。キミが、ものすごくイタズラするとか、だらしないとか、それでいながら、上手に言い訳するとか、いろいろ言っていたよ」

「ヘエー」

「ママに見つかるとキミは、お母さんのことをこうやって、眼を大きく見開いて、何も知りませんでした、という顔をして見つめるんだってね」

医師は、人付き合いが怖い彼のお得意のポーズをしてみせた。

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大人がエンジェルベイビーになるのを見て、リッキーは少々、調子が狂ったようだ。

しかし、そこで気づいたのだが、私もリッキーのブルーの瞳に吸い寄せられそうになった。

用心しないと彼の母親と同じめに遭うのではないかとゾッとした。

なんと、言い終わるか終わらないうちに、私自身が11歳の少年の高度なテクニックにひっかかりそうになったのだ。

何が起こっているのか気づくまで、ずいぶん長くかかったような気がする。

リッキーは、自分に立ち向かう大人たちにやるのと同じことを、医師にもやっていたのだ。

彼は、その悪魔の力を揮いはじめたのだ。

そこで医師は態勢を整えて、また今度は彼の口調や身振りを真似てみせた。

それが私にできる唯一のことだったからだ。

「やるねー、キミ、なかなかのものじゃない?」