次世代総合研究所・政治経済局

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ウクライナ憲法の不備

2006年08月09日 01時45分57秒 | Weblog
ウクライナでは、ユーシェンコ大統領が親欧米路線を条件に元首相のヤヌコビッチ氏を首相に任命した。これで議会解散は回避され、専門家は混乱を回避したことで決断を評価しているというが、FT3日(電子版)の記事はなかなか興味深い。

 まず、ウクライナの国家債務に利害関係のあるリーマン・ブラザーズの副社長が「ヤヌコビッチもユーシェンコのいずれの陣営もビジネス上の利害関係に大きく関与している」ことを指摘している。

 また、合意文書では①ウクライナのNATO及びEUへの接近、②中央銀行と司法の独立性、がうたわれていると報道した。議会ではヤヌコビッチの地域党が450議席中186議席を獲得、ユーシェンコの「われらのウクライナ」は86議席にとどまっている。連立に参加する社会党、共産党は51議席である。

 一方、2年前「オレンジ革命」を推進したティモシェンコ女史は今回の合意を「オレンジ革命」への背信と位置づけ合意文書の9割は空疎な文言と厳しく非難している。


 ところで、そもそも今回の政治的空白を招いた原因はウクライナ憲法の不備にある。このあたりの事情はNZZ(電子版7月28日)に詳しい。

 同紙によれば、現憲法を起草したのはクチマ前大統領とユーシェンコ現大統領であるが、①現行憲法では大統領が議会の選出した首相候補を拒否できるかどうか不明なのだ。

 憲法の106条9項では「国家元首は議会へ議案を拒否するまで15日の猶予がある」とされているが、この議案に首相候補者が含まれるとは明記されていない。この点についてユーシェンコは可とし、ヤヌコビッチは不可としたのである。

 大統領側が首相任命拒否に代える手段としては下記憲法条項を根拠にした議会の解散の可能性があった。憲法90条2項では、議会は内閣総辞職ののち60日以内に新内閣を決定しなければならないとしているからである。60日のタイムリミットが8月1日だったのだが、、②ヤヌコビッチは(前)内閣は統治機能不全に陥っているだけで解任されてはいないので日数のカウントダウンは始まらないと主張していたのだ。

 このように憲法の解釈が二義的に可能であることは大統領顧問でさえ認めていたありさまだった。また憲法裁判所は存在しているものの提訴されず機能しなかった。

 実は選挙になればユーシェンコは与党勢力を更に減らす可能性があり、解散に踏み切ることは不可能だったのが実情であった。従って、極めて政治的な決着として、今回のヤ氏の首相任命があったのであり、今後のウクライナ政局は実に波乱含みといえるだろう。

 そもそもウクライナは東側はロシア語圏、西はウクライナ語圏であり、それぞれ親ロシア、親欧州という内在的分裂がある。人口の73%がウクライナ人の一方でロシア人も22%居住している。

 欧州とロシアの境界に位置するウクライナの地政的位置は極めて重大で政治的、経済的に大きな影響を与える。例えばエネルギー政策ひとつとってもその影響力は甚大であり、日本への影響も決して少ないとはいえまい。今後とも注視すべき地域といえるだろう。


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