新古今和歌集の部屋

唐詩選画本 五日観妓 万楚




 五日観妓

         萬楚

西施謾道浣春紗碧玉

今時闘麗華眉黛奪将

萱草色紅裙妬殺石榴

花新歌一曲令人豔醉


舞雙眸斂鬢斜誰道

五絲能續命卻令今日

死君家   東岳○○書印印


○せいしまんにいふしゆんしやをあらふと。へきぎょくこんじれいくわにたゝかふ。びたいだつしやうすけんさう
のいろ。かうくんとさいすせきりうくわ。しんかいつきよくひとをしてゑんせしむ。すいぶさうぼうばうびん
をおさめてなゝなり。たれかいふごしよくめいをつぐと。かへつてこんにちきみがいゑにしせしむ
 
昔西施が苧蘿に布をさらしていた事をすぐれた事のゆらにいふが是はめつたないひぶんじゃ。今日
いにしへの麗華といふやうな妓女共が大勢藝をするを見れば西施が一人してさわいだとしつてもつゞ
くものではない。まゆずみのうつくしい事も萱草の色を奪ふといふきみで妓女が赤いうらのついた下
ばかまも石榴花の上に出るてあらかの妓女が今やうの哥をうたひ出すと余り面白さに心がとけ/\と
なら酒もりの場で人をみる目つきもうつくしく舞をまふて髪のそしそしけたる所を猶して客の前に
横すじかひに成て居るやうす命もたまらぬ昔より五月五日は續命と云で命をつなぐと
いふがけふは中/\命をつなぐの段ではない美女どもに命をとられそふなりとなり。
 

五日観妓    五日妓を観る

     万楚

西施謾道浣春紗 西施謾(みだ)りに道(い)ふ春紗を浣(あら)へりと。

碧玉今時闘麗華 碧玉今時麗華を闘はす。

眉黛奪将萱草色 眉黛は奪将(うば)ふ萱草の色。

紅裙妬殺石榴花 紅裙は妬殺(とさつ)す石榴(せきりゅう)の花。

新歌一曲令人豔 新歌一曲人をして豔(うらや)ましめ、

醉舞雙眸斂鬢斜 酔舞双眸(すいぶそうぼう)鬢の斜めなるを㪘(おさ)む。

誰道五絲能續命 誰か道ふ五糸能く命を続ぐと。

卻令今日死君家 卻(かへ)って今日君が家に死せしむ。

 

意訳
西施が春の薄衣を谷川で洗う姿を艶やかといい加減な事を言ったものだ。
碧玉の樣な美人が今花のかんばせを競い合っている。
その眉黛の色は勿忘草の紫をも色褪せて奪うほどだ。
紅の裳裾は、石榴の花さへ深い嫉妬をもたらす。
新しい歌の一節は、聞く人を羨ましさせ、
酔って舞う二つの瞳はほつれた鬢の毛を撫でつかせうっとりしてしまう。
私の腕に巻き付けた五糸のが、長寿を保つ力があると誰が言ったのだろうか。
それどころではない、私は彼女の家で死のうとまで思いつめらせているのだ。

 

※五日 五月五日端午の節句

※万楚 盛唐の詩人。その他不詳。

西施 春秋時代。越王勾践が、呉王夫差に、復讐のための策謀として献上した美女。中国古代四大美人の一人。

※春紗 春蚕で織った薄衣。西施は春紗を川で洗って晒していた。

※碧玉 美しい娘。劉宋の王族の妾の名とも。妓女をさす。当時、「碧玉破瓜の時、郎為に情顚倒す」とあった。

※麗華 美しい花。美人の事。

※萱草 忘れ草

※石榴 端午の時期に咲き、女性の赤い裾裳を石榴裙と言う。

※豔 いとしみ

※㪘む 乱れた髪をを撫で付ける事。

※五糸 五月五日には疫病退散の為、五色の糸を臂に括り付ける風習があった。続命縷と言う。

※東岳○○書 原田東岳(宝永六年(1709年)-天明三年(1783年))江戸時代中期の儒者。豊後日出藩士。京都の伊藤東涯,江戸の服部南郭に学ぶ。宝暦のころ京都などを歴遊。のち豊前中津藩で子弟に教えた。本姓は酉水(すがい)。名は殖,直。字は温夫。通称は吉右衛門。著作に「臥遊漫抄」「詩学新論」など。

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