新古今和歌集の部屋

絵入自讚歌注 定家1

絵入自讚歌註 宗祇




           定家卿
  春の夜の夢のうきはしとだえして
   みねにわかるゝよこ雲のそら
此うた心はあらはにして凡慮およびがたき
さまなり。くらゐゆかずしてはたゞかくのごときの
上にはさだめていはれ有事にぞ侍らんなど
思ふほどに其ことはりをしらではつる成べし。
ある註に後鳥羽院そきなきよしおほせられけ
るとなん。春の夜の夢のあだなるをよこ雲まで
いかんとなり。これは春の歌は夢しげくたえ/"\にて



よこ雲までありつるなり。
  こまとめて袖うちはらふかげもなし
   さのゝわたりの雪のゆふぐれ
萬葉にくるしくてふりくるあめかみわがさき
さのゝわたりに家もあらなくに。といふ哥をと
りて袖うちはらふかげもなしとかへ雨を雪に
かへてよめり。このうたを本哥をとれる哥の本と
いへり。心はあきらか也。しかも雪の夕ぐれなどといへる
はての句思ひ入てみ侍るべきにこそ。
ある註に今ふる當意ならばよそにてはみえし
なればかげもなしとはほかまではいひがたし。ゆき



ふりしきてはれたるゆふべの雪すこしちるとおぼ
えたり。けしきいかにともせぬおもしろさなるべし。
  まつがねをいそべのなみのうつたへに
   あらはれぬべき袖のうへかな
うつたへといふことばうちつげの儀なり。又うつた
ひといふ心あるべし。たゞしこの哥にとりて人
を思ふこゝろのうちづけにあらはれぬべきよしをな
げく儀なり。まつがねはなみにあらはるゝ物なれば
よそへいづるなり。
  としもへぬいのるちぎりははつせ山
   おのへのかねのよその夕ぐれ





此うたのこゝろ正廣にたづね侍しに申侍しは
たとへばこの山は恋をいのるところなれば毎日きた
りていのるに毎日又このかねをきゝ侍りけるに
あるとき此かねにおどろきて思ふこゝろは入
あひのかねは人のたのむたよりとなるもの也。
よその夕ぐれはけふのかねにもあふ人こそ侍らめ
とおもふに、我いのるちぎりははやはてゝ侍りけ
り。いかんとなればすでにとしもへぬればといふ心也。
大かたにもいのりたらばなをたのみ侍るべきをとし
へていのるかひなきに身上おどろきなげくよし也。
又東二郎の儀にはまへは同事にてよその夕ぐれ



といふところいさゝかかはりよその夕ぐれとはわが
思ふ人はやいかなる人のちぎりとかなるらむとな
げきうたがひ思ふよしとぞかくのごとくの用捨
人のこのむ所にしたがふべし。
  かへるさのものとや人のながむらん
   まつ夜ながらのありあけの月
心はあきらかなり。すがたありがたきやうにこ
そ。まつ夜ながらなど云ことば比類なき物なり。
  あぢきなくつらきあらしの聲もうし
   などゆふぐれまちならひけむ
これもこゝろはあきらかなり。など夕ぐれと云ところ




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