ドッグマン
マーサ・シェリル 著 アメリカン・ブック&シネマ / 2011.4
戦後、絶滅に瀕していた秋田犬に強い信念と人生をかけ再生させた(故)澤田石 守衛の本。
ワシントンポストの元記者が書き、米国大手出版社より発刊された本の翻訳書であり、
リチャード・ギアが、『HACHI 約束の犬』に出演を決める際にこの本を読み、
秋田犬への関心を深めたと言う逸話のある本です。
これは、遠く離れた雪国の夢の物語である。
これは、たとえ他の人たちにはどんなに滑稽に見えようとも、
一人の男が自身の在り方に揺るぎない信念をもち、ある地を献身的に愛し、
そこでどんなに穏やかな、そして、時にはさほど穏やかでない人生の舵取りをしたかを語る。
1 山開き
2 名無し
3 三吉号
4 裏形質の犬たち
5 フェンスで尻尾をなくした犬
6 勝姫号
7 伊達虎号
8 シロ
9 守衛と喜多子
※以下、ちょっと長いです(笑)。
戦後、絶滅に瀕していた秋田犬を救った澤田石守衛(さわだいし・もりえ)さんと守衛さんが愛した秋田犬を通し、戦中、戦後の東北の様子がありのままに描いている、とても読み応えのある一冊でした。
守衛さんについては、2002年発刊の『秋田犬の父 澤田石守衛(畠山奏英著)』を読んでいたので知っていたこともあり、私としては、どちらかというと、戦中、戦後のお話の方に印象が残ったかもしれません。
特に、秋田犬一筋な守衛さんに付いて東北の山奥に越す羽目になった奥さんの喜多子さんが語るお話には、昭和の女性とは言いつつも、大変な人と結婚してしまったんだな~と、つい喜多子さんに気持ちを寄せてしまいがちになりました。
なんせ、喜多子さんは東京生まれ、東京育ち。
何にもない田舎の暮らしに縁があるワケもなく、辿り着いた時の衝撃はもの凄かっただろうなと思いました。
しかも、秋田犬にしか興味のない守衛さんが相手です。
冬の長さや寒さ、友達も誰もいないところで、ひたすら孤独に耐え生きてきた多喜子さんはやっぱり凄い人だなと思います。
そして、守衛さんが体験した戦争については、守衛さんが受けた心の傷の深さなど、語らずとも伝わってくるのですが、今だからこそ口を開けたのだと思うその一言に胸が締め付けられました。
誰ひとり、「天皇陛下、万歳!」と叫んで亡くなっていく人はいなかった。
敢えて言葉で表現したくないほど、戦争って何だったんだろうとやり場のない思いが押し寄せてきました。
また、多喜子さんのお話で、終戦の玉音放送が終わるか終わらないかの段階で米軍のB29がやってきたんだそうです。
しかも低空飛行。何をされるかと思ったと思います。
ところが、飛行機からは色とりどりの樽が投下されたそうです。
色ごとに分けて様々な物資を投下していったのだそうです。
いろいろな考え方が出来るとは思うけど、私は、アメリカの素早い行動は、戦争を終わらせたかったということでもあるのかなと思いました(もっと前に負けは決定的だったと思いますが)。
その後の日本の復興にも、今回の東日本大地震での救援を思い浮かべてしまい、複雑に思うよりも友情みたいなものの気持ちの方が強く感じました。
誰も戦争なんかしたくないし、人が死ぬところを見たいわけではないはずだから……。
戦争については、著者がアメリカ人ということもあるかもしれませんが、守衛さんや喜多子さんの言葉で語られるお話なので、そのまま受け取ってもよいだろうと思います。
さて、澤田石守衛という人、そして、秋田犬についての感想を。
まず、なんといっても、当時の秋田犬と現在の秋田犬のあまりにも違う姿に驚きます。
終戦直後は、それまでの闘犬としての秋田犬(より強く闘わせるために洋犬と掛け合わせていた)が残っている感じでしたし、派閥や好みによりバラツキがあったそうです。
そこで、守衛さんが登場します。
頑に秋田犬とは……を追求し、ようやく秋田犬らしい犬が出てきますが、それも、現在の秋田犬とはやはり違います。
やはり、審査員や世間の流行というのがあり、それは10年単位で変わっていくものなのだそうです。
シロという国宝の秋田犬が、現在の秋田犬そのものだと思います。
ただ、それはあくまで容姿が、です。
守衛さんが求めてきたのは、あくまで、秋田犬の“気性”。
私が秋田犬を見て、絶対に思うのが「カッコいい!」です。
寡黙なんです、犬なのに。
全てを見通しているような人間のような雰囲気があり、いえいえ、もしかしたら人間以上であり、それは神々しさと言えるかもしれません。
山の神様が唯一認めていて、もしや神様の使者じゃないかと思えるくらいの神々しさがあると思います。
あの貫禄はタダモノではないのです。
といっても、最近はめっきり見かけなくなり、たぶん、見かけたとしても、「カッコいい!」から「かわいい!」に変化しているだろうと思います。
守衛さんも認めたくないけれど、流行には勝てないと残念な気持ちもあるようでした。
ある動物を絶滅から救うとして、守るべき最たるものはその肉体だろうか、それとも精神のほうだろうか?
と語る守衛さん。
動物に限らず、人間も同じですね。
守衛さんのような頑なで骨太で芯がぶれないカッコいい日本人は、もういないかもしれないですね。
お話に登場する、マタギの上杉さん、カッコいいです。
守衛さんが仰るには、彼こそが、守衛さんが求めてきた秋田犬の気性のような人なんだそうです。
私から見ると、守衛さんもその気性を持っていらっしゃると思うけど、上杉さんは、紳士的というのがプラスされているかなと思います。
何かを守る為には守衛さんのような頑さが必要で、それを見守れる人も必要。
でも、それがとてつもなく大変なことと思った瞬間、悩むよりも楽な道を選んでしまうのが現代。
いつから弱くなったのか、いつから気性が変化してきたのか、それを取り戻すことはできるのか、現在の日本と重ねていろいろなことを考えさせられました。
守衛さんの「気性』を世界の人々に理解していただくようマーサ家族と一緒に東海岸より発信してますので協力お願いします。
コメントありがとうございます。
守衛さんの息子さんのお目に留まり光栄に思います。
守衛さんの『気性』は忘れてはならない日本人の姿なのでしょうね。
守衛さんもさることながら、著者の筆力にも感動致しました。