悪人
吉田 修一 著 朝日新聞社 / 2007.4
なぜ、もっと早くに出会わなかったのだろうーー
携帯サイトで知り合った女性を殺害した一人の男。
再び彼は別の女性と共に逃避行に及ぶ。
二人は互いの姿に何を見たのか?
残された家族や友人たちの思い、そして、揺れ動く二人の純愛劇。
一つの事件の背景にある、様々な関係者たちの感情を静謐な筆致で描いた渾身の傑作長編。
ちょっと不思議な感覚でした。
上手いな~~って思わせるリアルな感覚と、作品に入り込んでいる感覚とが入り交じりながら読み進めていたのですが・・・。
クライマックスの段階で、タイトルの『悪人』という言葉がズッシリと重くのしかかってくるのです。
祐一が犯人なのは判っているけど、犯人じゃないといいのに・・・って思うし、最後まで光代をかばった祐一が可哀想でたまらなく、せめて、ラストでは、出所後の祐一と光代の未来を描いて欲しかったな~と思うくらい、人を殺してしまった祐一に肩入れしてしまうのでした。
殺された佳乃には、正直、同情の余地はなかったのですが、それもまた、父親の心情をありのまま描いてくれたお陰で、佳乃を心から愛している人がいる以上、憎むべきは罪なんだな~とも思わされました。
そうなんですよね~、祐一のしでかしたことも、憎むべきは罪なんだな~と思いました。
いや、違うな、やっぱり、罪を犯したのは人なんだし、う~~~ん、あ~~~。
と、なんだか、ちょっと自分の考えが覆されるというか、改める余地があるのかな~というか、人それぞれに事情があって、人と比べても仕方ないことではあっても、祐一や光代を見ていると私は幸せなんだな~と思い知らされたような気もします。
読み終わった後、未だ気持ちがドンヨリしているのですが、お話が面白いとか、ドキドキするとか、そういうことよりも、人というのは、人知れず心に抱えているものや気持ちを煩わすものがあるのであって、だからこそ、人を表面的に判断してはいけないっていうか、間違っても、他人を笑うような行為はしてはイケナイということを感じました。
ただ、このお話のポイントでもある『出会い系』には、理解は示せませんでした。
そこにしか道がないという状況にある人に理解を示せても、でもやはり、それが正しいとは思えませんでした。