桜田淳子さんの正統派の系譜～二重継承というギャップ

LADYの曲を聴くと思い出すことがある。

桜田淳子　LADY その2


動画の冒頭、『年は離れてないし』という淳子さんのコメントが印象的だ。
このコメントの背後関係を考えてみたい。

まだ、私が学生時代だった。

八神純子さんの清涼感のある曲が好きだったし、ボルグのトップスピンにあこがれたし、ディスコでダンシングクインやジンギスカンを踊るのが楽しかった。

そんな、無茶をやってた時代の話だ。

友達からこんな話を聞かされた。

『親衛隊の友達に連れられ、真子ちゃんのコンサートに行くと、桜田淳子さんの元親衛隊だった人が結構いるんだよね。』

という話だ。

当時、どういう感想を持って聞いていたか良く覚えていないが、悔しいという感想だけは持たなかったと思う。

今に思えば、薄々わかっていたことだと思う。
アイドルに賞味期限なるものがあることも、何れ次の時代が訪れることも、そして、人の心は成長することも。

そして、いつまでも、桜田淳子さんをアイドルというポジションにおいて置くことが、決して好ましく無いことを。

淳子さんでさえ、次のステージへの移行を望んでいたと思う。

しかし、『誰かが、座らなければならない席』があった。
それが、小泉今日子さんの指摘する、トップアイドルというポジションだった。

逆に『誰もが座れるポジション』でもなかった。
だから、力で奪い取る次の世代が成長するまで待たなければならなかった。

僕は、これまで『正統派』という言葉を安易に使ってきたつもりはない。

正統派とは、いつの時代も必要とされる脈々と受け継がれねばならないものだと思う。

１９７８年、１９７９年と幾多のアイドルが誕生した。
しかし、正直、桜田淳子さんの地位を奪う者はいなかった。

それが、淳子さんがアイドルに止まらなければならなかった理由だと思う。
歴史に、もしはないのかもしれないが、この時期淳子さんがアイドルというポジションを離れれば、混沌とした時に移り、アイドルは形を変えたかもしれない。

今の時代を見ればそれがわかると思う。
今もアイドルだと主張する人は多いが、７０年代感覚では、どこか違う。
言葉の定義がかわったというのなら、そこまでだが。

話を１９７９～８０年に戻そう。

この時期は、アイドルを巻き込んだ『交歓図裁判』も区切りを迎え、山口百恵さんも交際宣言から結婚への秒読み段階に入っていた。

１９８０年に入り、芸能界は新たな時代の準備を急ぎしなければならなかったと思う。
それは、新しい表現形式が必要だったのではないだろうか。

桜田淳子さんに憧れて『スター誕生』から芸能界に入った石野真子さんは、山口百恵さんについで、寿退社を選択し、そのアイドル時代は比較的短命に終わり、松田聖子さんの成長を待たねばならなくなる。

それゆえ、淳子さんの正統派の系譜は、ファンの多くは石野真子さんに渡り、芸能界での人脈も含め、築き上げたものは、松田聖子さんに継承されたのだと思う。

今、あの時、僕に気を遣いながら話してくれた友の顔を思い浮かべながら、桜田淳子さんへの思いを強くする。


追伸　動画のUP主様に感謝します。

時代と桜田淳子さん～その行方

１９７３年のオイルショックが日本社会に与えた影響は計り知れなかった。
１９７４年は戦後初のマイナス成長を記録した。

それでも、１９７５年は持ち直してきた。
日本には、苦境を跳ね返す底力があったのかもしれない。

そんな、１９７５年だった。

昨日NHKのSONGSで『時代』が特集された。
かねてから、時代については考えなければならないと思っていた。

中島みゆきさんが、グランプリを取ったときのことは、今でも覚えている。
番組の特徴などわからず、桜田淳子さんや山口百恵さんが出場しないことへの不満があったという不名誉な思い出がある。

しかしながら、この曲『時代』の歌詞は好きになった。

素朴なメロディーで、しかも日本人の感性になじみやすい旋律が多く刻まれていると思うのだが、メロディーとともに歌詞が体に染みこむ不思議な錯覚におちいる。

これ以上無い絶望と、絶望の淵に遠く見える希望との交錯が、１９７５年を表現しているのだろう。

希望の先に幸せが強く感じられるところにこの曲の魅力がある。

グランプリは、１９７５年という時代を背景にしたものであると思う。

芸能が、国民生活に影響することは大きい。

そして、その営みは、政治家の発言や政策より、多くの勇気を多くの人に与えることが大きい。

僕はそう信じてやまない。

１９７４年のどん底から、驚異的な回復をみせた日本。

数多くの歌手達の懸命に歌う姿を思い出すたび、どれだけの人が、苦い今日を忘れ、明日を信じることができたかと思う。

中島みゆきさんは、１９８９年以降、この曲をコンサートで歌わなくなったという。

なぜだろうと思う。

１９８９年、ベルリンの壁が崩壊し、資本主義の勝利に包まれ、夜な夜な踊り狂う、浮かれた世の中の風潮があった。

この傾向は、それ以前からもあったのだが、バブル経済とともに止まることなくエスカレートしていったのかも知れない。
これらは、トゥナイトなどの番組を通じて、報道されていた。

すでに、バブルという金の力で抑え込む、浮かれた世の中にとって『時代』という歌の持つ余韻は必要なくなっていたのかも知れない。

しかし、再び時代は、暗闇へと向かう。

ベルリンの壁で終焉を迎えたはずのイデオロギーが再び頭をもたげてくる。
そして、それは、日本的文化を変えてくる。

日本から勤労・勤勉の美徳は、さらに後退し、『ゆとり』へと向かっていく。

中島みゆきさんは、１９９３年１２月『時代』を再びセルフカバーする。
そして、その後『時代』を歌わなくなる。
この年、桜田淳子さんが、芸能活動を断つ。

それは、本人の意思とは無関係に、芸能マスコミからの包囲によるものであった。

これらの光景を見せられ、芸能界に夢を抱く少年少女がいるのだろうか。
古いイデオロギーの前に、人権は後退した。

それまで芸能界が、日本社会に及ぼしてきた影響は計り知れない。

戦前も戦後の廃墟の中でさえ、過去、幾多も、明るい歌声が、国民生活に潤いをもたらしてきた。

政治経済で、よく『失われた２０年』といわれるが、芸能界も同じだと思う。

桜田淳子さんの芸能界から去らざるをえなくなった、この力で押さえ込まれた芸能界は、まさに『失われた２０年』だと思う。

今の『歌を歌わない歌手』を見せられるに付け、その思いを強くする。


桜田淳子がうたう「時代」　宝石箱


今、東北の震災を経て、八神純子さんなどが歌い継いでいるという。

この歌の意味を、作詞家でさえ、探ろうとしている。

その答えの先に、将来が託されているのかも知れない。

私は、そう思う。

今こそ、日本の進むべき道を歩むべきではないだろうか。
今、改革が少しずつ進行している。
２０年の間違いを改めつつ、これからの確かな進路を願う。

今回の『時代』の特集は、そんなことを思い起こさせてくれた。

追伸　動画のUP主様に感謝します。