![]() | アルキメデスは手を汚さない (講談社文庫) |
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講談社 |
1973年出版され、第19回江戸川乱歩賞受賞した小説。
文庫で復刊されたということで、懐かしさから手にとった。
30年以上前に書かれた作品であるが、私にとっては25年ぶりの再読。
小説で登場するある場所が故郷ということもあって、地元の図書館の所蔵されていた。
当時、小学校高学年だった私には、作品に登場する生き生きとした高校生たちが非常に眩しく映ったものだ。
早く大人になりたいと思った。
自分の意志を持ち、それを行動に移している姿が「大人っぽく」感じられたのだ。
そう、今、読み返して思う。
登場人物たちは、「大人」ではない。
大人の社会に反発し、正論を通そうと躍起になる彼らは、「大人」になることに抵抗している。
だからこそ、純粋であり、その純粋性がもたらさす残酷さも、今なら分かる。
清濁併せ呑めない時代、というのは誰しも若い頃あるものだ。
舞台は70年代の高校。高校生たちの周辺で、中絶死・中毒死・殺人が連続して起こり、
大人の世界も巻き込んだ事件となっていく。
ミステリーであると同時に、学生紛争の空気も伝わってくる70年代ならではの青春群像劇だ。
この本の一番の魅力は、高校生たちと大人たちの間のギャップだろう。
かつて私が共感していた高校生たちの正義感が、25年たった今は苦々しくもあり甘酸っぱくもある。
大人と大人以前の両方の価値観が存在している小説として、非常におもしろい。
そして、その両方が分かる年齢になった。
年を重ねるというのは、楽しいものだ。
できれば、美しさと爽やかさを持った大人でありたいけれども。