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石田芳恵のツボ

フリーアナウンサーのお仕事日記のはずが、大好きな映画・音楽・本のレビューに。感動とやさしい気持ちをお届けしたいです。

小説『アルキメデスは手を汚さない』、復刊に感謝。

2011年05月30日 18時35分24秒 | 本の感想(小説)
アルキメデスは手を汚さない (講談社文庫)
クリエーター情報なし
講談社


1973年出版され、第19回江戸川乱歩賞受賞した小説。
文庫で復刊されたということで、懐かしさから手にとった。
30年以上前に書かれた作品であるが、私にとっては25年ぶりの再読。
小説で登場するある場所が故郷ということもあって、地元の図書館の所蔵されていた。
当時、小学校高学年だった私には、作品に登場する生き生きとした高校生たちが非常に眩しく映ったものだ。
早く大人になりたいと思った。
自分の意志を持ち、それを行動に移している姿が「大人っぽく」感じられたのだ。
 
そう、今、読み返して思う。
登場人物たちは、「大人」ではない。
大人の社会に反発し、正論を通そうと躍起になる彼らは、「大人」になることに抵抗している。
だからこそ、純粋であり、その純粋性がもたらさす残酷さも、今なら分かる。
清濁併せ呑めない時代、というのは誰しも若い頃あるものだ。
 
舞台は70年代の高校。高校生たちの周辺で、中絶死・中毒死・殺人が連続して起こり、
大人の世界も巻き込んだ事件となっていく。
ミステリーであると同時に、学生紛争の空気も伝わってくる70年代ならではの青春群像劇だ。
 
この本の一番の魅力は、高校生たちと大人たちの間のギャップだろう。
かつて私が共感していた高校生たちの正義感が、25年たった今は苦々しくもあり甘酸っぱくもある。
大人と大人以前の両方の価値観が存在している小説として、非常におもしろい。
そして、その両方が分かる年齢になった。
年を重ねるというのは、楽しいものだ。
できれば、美しさと爽やかさを持った大人でありたいけれども。

映画『ジュリエットからの手紙』、安心して観られる良心的映画。

2011年05月28日 23時05分17秒 | 映画の感想

キラキラしたストレートなハッピーな映画が観たくなった。
20代は複雑で鋭くて歪んだ映画があんなに好きだったのに、
(もちろん今も好きだけども)
最近はベタなストーリーにも弱い。
キュンとして、ココロを清浄したいのかな。

イタリアのヴェローナ。
「ロミオとジュリエット」のジュリエットの家へ
年間5000通の恋の悩みを相談する手紙が届くそうな。
そして、ジュリエットの秘書が全て返事を書いている、
というその事実が、とても素敵だ。

ストーリーは、主人公が見付けた50年前の手紙に
返事を書くことを発端に、
50年を経た恋と、主人公の現代っ子らしい恋が進展。

主人公のアマンダ・セイフライドの豊かな表情、弾ける笑顔は
イタリアのビビッドな景色の中で輝いている!
好奇心が強くて、真っすぐに生きてきた女の子役がピッタリ。
「マンマ・ミーア!」のときも光っていた。
一方、ヴァネッサ・レッドグレイブの存在感。
大人の女性の持つ聡明さ、長い人生を生きてきた貫禄、
そして少女のような初々しさ、なんて豊かな女優さんなんだ!

いつでも恋はできる、
本気で真剣に生きていれば。
だけども、もしかしたら今、
目の前の人が、かけがえのない大切な人かもしれない。

爽やかなストーリー、
美しいイタリアの風景、
チャーミングな音楽、
安心して観られる穏やかで優しいラブストーリーです。

2011/5/26 渋谷bunkamura ル・シネマ
2010 アメリカ 105分
監督 ゲイリー・ウィニック
出演 アマンダ・セイフライド、ヴァネッサ・レッドグレイブ、フランコ・ネロ

























Letters to Juliet: Celebrating Shakespeare's Greatest Heroine, The...: Celebrating Shakespeare's Greatest Heroine, the Magical City of Verona, and the Power of Love
クリエーター情報なし
Stewart, Tabori and Chang
ゲンスブールと女たち
クリエーター情報なし
USMジャパン


あ!この曲もセルジュ・ゲンスブールだったんだ!と発見のある映画。
とはいえ、音楽映画というよりも、一人の男の子の青春劇だと思う。

始めから格好のいい男の人なんていないわけで、
異性の存在があって、異性への憧れがあって、そして素晴らしい女性とめぐり合って、
魅力的なセルジュ・ゲンスブールへと変化していったのだろう。

ブリジット・バルドーに夢中になって、彼女と一緒に音楽を作るシーンは、
本当に心から羨ましくなるほど幸福感に満ちていたし、
ジェーン・バーキンから、服装や髪型を変えるようにやんわり指摘されているところなんて、
男の人の可愛らしさと素直さが垣間見れた。

男の人のセンスの原石を磨けるのは、女の人なんだなあと実感。
女性は、与えてもらうことよりも、
相手へ与えることを考えた方が、ずっとずっと楽しい。


bunkamura ル・シネマ 2011/5/24
2010年 フランス・アメリカ(フランス語) 2時間2分 
監督・脚本 ジョアン・スファール
出演 エリック・エルモスニーノ

ときおり映画の中へ出てくるアニメや人形も、おしゃれな味付けになっていました。
サントラもいい。


絵画展『フェルメール<地理学者>とオランダ・フランドル絵画展』、未来は明るいと思った。

2011年05月01日 14時47分27秒 | 絵画・芸術
渋谷のBunkamuraで開催されていた『フェルメール<地理学者>とオランダ・フランドル絵画展』へ。

時代を経て愛され続けてきた絵には、力があるのだろう。
震災後、しばらく何かパワーのあるものを吸収する気持ちが湧いてこなかったが、
この絵には、そんな私の堅さを柔らかく揉み解してくれた。
受け止める前に、優しく身体に染み入るような、滋養と透明感のある絵だった。

印象派を迎える前、
絵画が自由にのびのびと表現される時代の夜明け前を見て取れるような、
そんなフェルメールの絵の中でも、
特に「地理学者」は、この目で見てみたい絵のひとつだった。

実際に日本で(そしてこの時期に)出逢えて本当に良かったと思う。

大航海時代となって、ヨーロッパが内側から外側へ目を向けようとする時代。
地理学者の手元には、地球儀があるけれど、
彼の目線は、窓の外・・・
未来への希望が、静かに、力強く伝わってくる絵だった。

落ち着いた色調なのに、輝いて見えた。

この絵を見た人はきっと、目線が上がる。窓の外にある煌きに目が行くと思う。

さて、今度、この絵と対面できる頃には、私はいくつになっているだろう。
そして、立ち上がった日本はどう変化しているだろうか。

フェルメール ――謎めいた生涯と全作品 Kadokawa Art Selection (角川文庫)
クリエーター情報なし
角川グループパブリッシング