夏の吐息 (講談社文庫)小池 真理子講談社このアイテムの詳細を見る |
どの作品も素晴らしい。
短編だからこそ味わうことのできる、読後の余韻があります。
官能的で退廃的、
死のにおいがありつつも、
「生きる」ことへの渇望と希望がしっかりと感じられる。
「生」の実感こそが、「恋」なのかもしれないと思いました。
収められている6つの短編は、作者が断言している通り、
「生」と「死」と「愛」しか書かれていない。
濃厚な題材だけれど、私たちの生活に常に存在しているものでもある。
だからこそ共感し、そして一抹の「怖さ」も感じた。
怖くても、思い詰める日々があっても、やっぱり恋はしていこうと思える物語だ。
小池真理子の「恋」を読んだのは27歳のとき。
「無伴奏」を読んだのは29歳のとき。
2冊とも素晴らしい小説なのだけど、
当時の私には強烈すぎて受け止めることができなかった。
はたして、ここまでの感情、愛情が自分から生まれ、
その結果、想像もし得ない行動をとることがあるのか、と。
30歳を過ぎた今は、「夏の吐息」を少し自分に近づけて読めた気がする。
少なくとも、
人の数だけ価値観があり、人の数以上に感情の種類があり、
そんな膨大な感情の種類のなかでも、
人は誰かと共鳴したくて、恋をするのかもしれない、ということくらいは分かった・・・かな。たぶん。
経験を積み、年齢を重ねる醍醐味を教えてくれた一冊。