【告発状・ 脅迫罪】
(刑法222条1項,同60条)
平成30年9月13日
最高検察庁 検事総長 殿
東京高等検察庁 検事長 殿
名古屋高等検察庁 検事長 殿
告発人 美 和 勇 夫
告発人 浅 井 正
告発人 林 寛 太 郎
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別紙当事者目録記載のとおり
<告発事実>
東京高等裁判所長官の被告発人林道晴及び東京高等裁判所事務局長の被告発人吉崎佳弥は,共謀の上,平成30年5月24日,東京都千代田区霞が関1丁目1番4号所在の東京高等裁判所・長官室において,東京高等裁判所及び東京簡易裁判所の判事である岡口基一に対し,同人がソーシャル・ネットワーキング・サービスの「Twitter」を止めなければ分限裁判にかけて同人をクビにしてしまう旨申し向け,もって同人の自由,名誉及び財産を害することを告知して脅迫したものである。
<告発に関する事実関係>
1.平成30年5月24日午前11時頃,東京高等裁判所判事であり,かつ東京簡易裁判所判事である岡口基一(以下「岡口裁判官」)は,東京高等裁判所の長官室に呼ばれた。
東京高等裁判所の長官室には,東京高等裁判所長官である被告発人林道春(以下「長官」という)と,東京高等裁判所事務局長である被告発人吉崎佳弥(以下「事務局長」)がいた。
2.長官と事務局長は,岡口裁判官に対し,岡口裁判官が私生活上職務外で行っている「ソーシャル・ネットワーキング・サービス「Twitter」(以下「Twitter」)を今すぐやめるよう」強く迫った。
両名は,岡口裁判官に対し,「「Twitter」と裁判官としての仕事とどちらが大事なのか」などと,「Twitter」を止めるように激しい剣幕で迫った。
3.
両名から激しい剣幕で迫られた岡口裁判官は,何も言えなくなってしまった。
4.激しい剣幕で迫られたにもかかわらず,岡口裁判官が「Twitter」を止める旨述べることなく黙っていたところ,長官と事務局長は,岡口裁判官に対し,「「Twitter」を止めなければ分限裁判にかけて岡口裁判官をクビにしてしまう」旨申し向けた。
事務局長は,『君ね。今,長官が何をおっしゃっているか分かってる。君,さっき,「Twitter」と裁判官の仕事を比べると裁判官の仕事の方が大事だと言ったよね。でも,分限裁判でクビになってしまったら,裁判官の仕事はできなくなってしまうんだよ。君,そういうこと分かってるの』などという発言をした。
そのような状況が1時間近く続いた。
5.出がけに事務局長は,岡口裁判官に対し,電話をするように言った。
岡口裁判官が事務局長に架電すると,事務局長は岡口裁判官に対し,「Twitter」を止めるように迫った。
それでも岡口裁判官が「Twitter」を止めると言わなかったところ,事務局長は,岡口裁判官に対し,『君,変わってるね』と述べた。
<被告発人らの行為が脅迫罪に該当すること>
1.脅迫罪にいう脅迫に該当すること
脅迫とは,一般人をして畏怖せしめるに足る害悪の告知をいう。
高等裁判所・簡易裁判所の判事が,高等裁判所の長官と事務局長から分限裁判にかけてクビにしてしまう旨申し向けられれば,仕事を失い,ひいては高等裁判所・簡易裁判所の判事であるという名誉も失い,収入も失う可能性が高いと考えるのが通常である。
裁判官分限法の6条は,「分限事件の裁判手続は、裁判所法第八十条の規定により当該裁判官に対して監督権を行う裁判所の申立により、これを開始する」と規定している。
そして,裁判所法80条2号は,「各高等裁判所は,その高等裁判所の職員並びに管轄区域内の下級裁判所及びその職員を監督する」と規定していることから,東京高等裁判所は,東京高等裁判所の裁判官及び東京簡易裁判所の裁判官に対し監督権を有しており,東京高等裁判所の長官は,分限裁判の申立を行う権限を有している。
そのため,東京高等裁判所のトップである長官と事務方のトップである事務局長から,分限裁判にかけると申し向けられれば,分限裁判にかけられる現実的可能性が非常に高いと思うのが通常の人間である。
裁判官分限法の2条は分限裁判における懲戒の内容を定めているところ,「裁判所の懲戒は,戒告又は一万円以下の過料とする」とされており,分限裁判によって罷免はできない。
もっとも,分限裁判において懲戒処分を受けた場合,再任用されないおそれは充分にある。分限裁判において懲戒処分を受けなかったとしても,分限裁判にかけられたという事実にみで再任用されないおそれは充分にある。再任用されなければクビと同じである。
さらに,分限裁判において懲戒処分を受けた場合,「弾劾裁判」により罷免されることも充分にあり得る。高等裁判所長官はその勤務する裁判所及びその管轄区域内の下級裁判所の裁判官について,弾劾による罷免の事由があると思料するときは、最高裁判所に対し、その旨を報告しなければならず,最高裁判所は、裁判官について、弾劾による罷免の事由があると思料するときは、「裁判官訴追委員会」に対し罷免の訴追をすべきことを求めなければならないとされている(裁判官弾劾法15条2項,同条3項)
すなわち,高等裁判所長官ほどの立場であれば,裁判官を分限裁判にかけたうえ,「弾劾による罷免の事由があると思料する」と最高裁判所に報告することで,弾劾裁判を開始させ,罷免につなげることができる。
今まで東京高等裁判所・東京簡易裁判所の判事としてのキャリアを築いてきた者が,分限裁判によって懲戒処分を受け,あるいは分限裁判にかけられ今後再任用されないということになり,さらには最高裁判所に罷免事由があると報告され弾劾裁判にかけられるなどして,名誉を失い,仕事(裁判官としての職務を行う自由)を失い,収入を失うということは身の破滅同然であって,畏怖しないはずがない。
高等裁判所の長官と事務局長が,高等裁判所・簡易裁判所の判事に対し,上記のとおり分限裁判にかけクビにしてしまう旨申し向けることは,脅迫に該当する。
2.自由,名誉及び財産に対する害悪の告知であること
脅迫罪の加害の対象は,告知の相手方の生命,身体,自由,名誉,財産である。
前述のとおり,東京高等裁判所・東京簡易裁判所の判事というキャリアを失うことによって,裁判官の職務を行うという自由を失い,東京高等裁判所・東京簡易裁判所の判事という名誉を失い,収入という財産を失う。
よって,分限裁判にかけてクビにしてしまう旨申し向けることは,自由,名誉及び財産に対して害を加える旨の告知となる事明らかである。
3.違法性は阻却されないこと(仮定的な検討)
仮に長官と事務局長が,岡口裁判官に対し,適法な監督権限に基づき「Twitter」を止めるように言ったものだとしても「これこれの理由で不適切であるから」と理由を明らかにして「「Twitter」を止めたらどうかね」などと穏やかに言えばすむことであって,「分限裁判にかけてクビにする」と申し向ける必要はない。
そもそも分限裁判にかけてクビにはできないのにもかかわらず誇張した表現を用いていることからしても,脅しの目的で言ったことが推認できる。
社会通念上相当な注意の範囲を著しく逸脱しており,脅しの目的で言ったのであれば権利濫用(職権濫用)でもある。
よって,仮に長官と事務局長が,岡口裁判官に対し,適法な監督権限に基づき「Twitter」を止めるように言ったのだとしても違法性は阻却されない。
<被告発人らの行為の悪質性>
裁判所は「適法な手続」により正しさを示してくれる場所であると国民が信じているからこそ,裁判所の威厳・信頼が保たれているものである。
長官は東京高等裁判所のトップであり,事務局長は東京高等裁判所の事務方のトップなのであるから,長官と事務局長が違法行為(脅迫という犯罪行為)を行ったとなれば裁判所に対する国民の信頼が大きく揺らぐ。
国民の裁判に対する信頼を守るべき立場にある被告発人らトップが行った「ツイッターを止めなければ分限裁判にかけてクビにする」などという脅迫は悪質性がきわめて高い。
分限裁判にかけられるべきは、脅迫という「犯罪行為」を、事もあろうに長官室で行った両名である。
<結 語>
被告訴人らの所為は,脅迫罪の共同正犯(刑法第222条1項,同60条)に該当する行為と思料されるので,被告発人らの厳重処罰を願いたく,告発する。
以上
<証拠資料>
1.岡口裁判官の陳述書(東京高等裁判所分限調査委員会)の写し 1通
別紙
当事者目録
〒507―0027 岐阜県多治見市上野町4丁目29番地
告 発 人 美 和 勇 夫 (弁護士)
(岐阜県弁護士会)
〒440-0076 愛知県豊橋市大橋通2丁目104番地 フィオーレ88号
告 発 人 浅 井 正 (弁護士)
(愛知県弁護士会)
〒501-0461 岐阜県本巣市上真桑1044番地1
告 発 人 林 寛 太 郎 (弁護士)
(岐阜県弁護士会)
〒100-8933 東京都千代田区霞が関1丁目1番4号
被 告 発 人 林 道 晴 (東京高等裁判所長官)
〒100-8933 東京都千代田区霞が関1丁目1番4号
被 告 発 人 吉 崎 佳 弥 (東京高等裁判所事務局長)
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