29日に納涼大歌舞伎千穐楽を1~3部まで丸一日ぶっ通しで観てまいりました。歌舞伎観劇を始めてから2年が経ちますが、通しで観たのは今回が初めてでした。ALL3階席(^^;だったので身体はかなり疲れましたが、各部それぞれ趣が異なるので、全然退屈せず本当に盛りだくさんで楽しかったです。1部は若手の熱演と斬新な演出の舞踊劇で感動させ、2部は一転喜劇芝居で笑わせ、はたまた宝塚のレビューのような華々しさもあり、最後の3部はこれぞ「歌舞伎」というものをこれでもかというぐらい見せて締めてくれるので、1部2部だけ観た前回よりも、今回は歌舞伎を観た!という印象が強かったです。役者も本当にそれぞれ全く異なるタイプの役を演じてますし、その演技の幅の広さに改めて感動しました。
本来は「千秋楽」と書きますが、歌舞伎の場合は「千穐楽」なんですね。今回初めて知りました。「火」という字を嫌いこの字になったそうです。江戸の芝居小屋で火事なんて大変ですからね~。そういえば、今月歌舞伎チャンネルで観たフォーラム公演での「櫓のお七」。有名な八百屋お七の話ですが、お七が火事を起こす場面が無く、ただ木戸を開けてもらうために、鐘じゃなく太鼓を鳴らしていて、あれ?と思ったんですが、これも「火」を嫌ったゆえ。徹底してますね。
そんな千穐楽ですが、前回1部と2部を観た時よりもすっかり涼しくなって、まさに納涼の締めに相応しい気候でした。
では、1部と2部は簡単に感想を。
★1部
一、「磯異人館」
いやあ~2度目の観劇で、筋も展開もオチもわかりきってるのに、またもや泣いてしまいました。この芝居何度観ても泣けるんです。特に精之助と五代の友情に弱い。最後に五代が「さらば!」と言って去ってくところでもう涙が溢れてたまりませんでした。本当にいい友ですよね。最初はラブラブな精之助と瑠璃に自分だけ除け者にされて腹立てたりしてますが、ずっと二人を見守りいろいろと手引きもしてくれる。留学を諦めた精之助の元へ瑠璃を行かせるところも、本当に五代の気持ちの熱さを感じられるいい場面でした。
物語としては凄くベタな話なんですけどね。折田親子が何故そこまで周三郎を嫌うのかも弱い感じがしました。親の代からの因縁とかならわかるんですが、それなら兄の精之助ものことも追放しそうだし。ただ周三郎から警固役を奪いその座に息子を据えたかっただけなんでしょうか。それにしてはずいぶん粘着質な親子だなあと、最後の場面を観ていて思いました。なんでそこまでしつこいんだよ~
まあでも面白い芝居でしたね。若手の熱演が本当に良かったです。芝のぶちゃんも猿弥さんも年齢的には中村屋兄弟や松也君よりずっと上ですが、そんなに離れてる感じはまるでしなかったですね。特に芝のぶちゃんは七之助君に対して「瑠璃お姉さま」と呼んでも全く違和感無いし。一緒に観てた友人は芝のぶちゃんの年齢を知ってそりゃもう驚いてましたよ。本当に可愛らしいわ
二、「越前一乗谷」
これは2度目のほうがもっと楽しめました。今回はイヤホンガイドを借りずに観たので、義太夫をじっくり聴いたのが良かったかもしれません。音楽もいいんですよね。合戦の場面とか本当に迫力あって好きです。
橋之助さんのかっこよさ、福助さんの美しさも本当に際立ってました。福助さんは尼姿が特に秀逸。2部とのギャップが凄いだけに尚更…(笑)
★2部
一、「ゆうれい貸屋」
最後の染次のメイキャップが前回観た時より怖くなってた気がしましたが、あれは楽だけのこしらえ? いろいろ小芝居入って福助さんのはっちゃけ具合も激しくなってた気がします(笑)
今回、孝太郎さんのお兼が凄くいいと思いました。旦那が働かないのは自分のせいだと思い、泣く泣く家を出ていくところや、気になって様子を見に帰ってきたり、本当に健気でいい奥さんなんですよね。だから最後にヨリが戻ってよかったなと、染次姉さんには可哀想だけど、お兼がすごく良いので、このハッピーエンドには満足でした。
弥六と染次の初夜場面、前回は障子越しの妖しいシルエットがなかなかエロかったですが、今回は完全にコント(笑)、染次姉さん羽ばたいて、鶏プレイ? そのシルエットを観て絶句してる隣の奥さんの後ろ姿がさらに笑えました。
七之助君に襲われるときの三津五郎さんがセクシーだなあ♪
二、「新版 舌切雀」
前回は驚きが大きく、なんだか呆気にとられたまま終わった感もあったんですが、2度目だけにじっくりとストーリーや各キャラを堪能することができました。
花鳥の祭の場面、今回の座席からは孝太郎さんの孔雀王がよく見えたんですけど、ペンギンダンスを一番ノリノリで踊ってるのに、顔は無表情なのがツボでした(笑) 芝のぶちゃんのペンギンダンスは優雅♪ 前回はまだ売ってなかった舞台写真、迷わず芝のぶちゃんの鶴姫GETしましたよ。本当に綺麗~♪
ストーリーを落ち着いて追えたせいか、今回は最後もすっきりまとまってるような感じがしました。人の言うことをきかない玉婆が、耳を塞いでいても聞こえてくるほど騒々しい心の声達を聞かなければならない森の小人にさせられたというオチも納得。でも森彦夫婦が死んでしまったのがイマイチ。しかも医療ミス?(苦笑) まあこのまま家へ帰ってももう誰も居ないよという寂しさを強調するためだったんでしょうけど、あんな優しい夫婦が死んじゃったのかと思うと(涙)
元の舌切雀の話では、いじわるなおばあさんが持って帰った大きな葛の中には、おばあさんが一番怖いものが入ってたんでしたっけ? 確か出てきたのはお化けとか怖いものだったと思いましたけど。今回の葛には自分自身が入っていたというのは、玉婆は自分で自分が嫌だったということなのかな。旦那が死んでから30年、蚊しか友達が居なかったというのは本当に寂しいことですよね(^^;; 寂しくてつい周りに辛く当たってしまい嫌われ続けた玉婆が最後に改心したところは良かったですけど。森彦夫婦も鳥の国では生きてるということでしょうか。
福助さんの公式サイトを見たら、渡辺えりこさんはこの作品を相当苦しんで書いたみたいですが、その苦しみが案の定、物語を少し複雑で不透明なものにしてしまったかなという感じはしました。いかんせん、お夏が持ってきたタンスの秘密や鳥の国の存在がどういう位置づけなのかよくわからなかったので、もう少し単純な世界観でも良かったような気がします。それなりに楽しめましたがちょっと惜しい作品でしたね。
あと千秋楽ということもあって、最後にカーテンコールを要求する拍手が起きましたが、時間の関係かカーテンコールはありませんでした。1部と3部の時にはこのような拍手は全く起きなかったんですが、やはり一番カーテンコールしてくれそうな演目だったからでしょうか(^^; あの最後の勢ぞろいは圧巻ですからね。
★3部
「裏表先代萩」
有名な「伽羅先代萩」に出てくる毒殺にまつわる話を世話物にして、時代物を表、世話物を裏として交互に展開していくのがこの「裏表先代萩」。「伽羅先代萩」をまだ観たことがなかったので、あらすじだけでも抑えておかねばと思い、しっかり予習した甲斐あって楽しめました。
時代物だけだとテンポがゆっくりで、流石に疲れがピークに達してきた頃なだけに、眠気に襲われる心配もあったんですが、合間にテンポのよい世話物が入ってきたおかげで、集中して観られたのも良かったです。
物語は室町時代の足利家の話ですが、元は江戸時代の仙台藩のお家騒動を描いたもの。当時大っぴらに実名で演じることは禁じられていましたから、足利家に脚色して上演したものなんですね。
御家乗っ取りを企む一味から、嫡男鶴千代を護る乳母の政岡(勘三郎)。城内に敵が居るわけですから、当然お城で用意された食べ物を食べさせることができず、与えられるのは政岡が自ら用意する物のみ。当然、育ち盛りの鶴千代は空腹の日々。そんな若君を不憫に思い、政岡は自分の子、千松にも同様に食事を与えます。千松は幼いながらも武家の子としての誇りを持ち、健気に耐えて母親を喜ばせます。そんな千松を見て、負け時と鶴千代も気骨を見せます。長台詞が多いですが、両子役ともに素晴らしい見せ場でした。
そこへこの乗っ取りの黒幕とされる管領夫人の栄御前(秀太郎)が鶴千代の見舞いにと菓子を持って参上。毒が入っている可能性が高いとはいえ、管領家に逆らえない政岡と鶴千代は絶体絶命の危機に。そこへ控えていた千松が飛び出して、菓子を食い散らかします。案の定、菓子には毒が仕込まれており、苦しみ出す千松。さらにその行為が無礼であると、敵の一味であった八汐(扇雀)が千松を嬲り殺してしまいます。
目の前で実の子供が嬲り殺される様をじっと見ている政岡。政岡の任務は若君を護ることが先決のため、息子を助けることはできません。その様子を見ていた栄御前は、政岡があまりにも平然としているので、自分の息子と鶴千代を入れ替えているのではないかと思い、自分たちの一味であると勘違い。政岡にこの乗っ取り計画に加担している者達の名前を記した連判状を渡してしまいます。
息子のおかげで一味の名前を知ることができた政岡は、栄御前達が帰ったあと、千松の遺体に泣きすがって讃えます。
その様子を見ていた八汐が政岡を殺そうと襲いかかってきますが、政岡は逆に一刀のもとに討ち果たし、息子の仇をとるのでした。
しかし、せっかく手に入れた連判状は不意に現れた鼠に奪われてしまいます。その鼠は仁木弾正(勘三郎)が妖術で姿を変えていたのでした。床下に潜んで警固している男之助(勘太郎)が一度は鼠を捕らえるものの、隙をつかれて逃げられてしまいます。
一方、裏では鶴千代毒殺のために大金を手にして毒薬を調合していた医者・大場道益(弥十郎)が殺害されます。犯人は下男の小助(勘三郎)。都合よく、近くに住む下駄屋の下女・お竹(福助)が道益に金を借り、さらに道益に妾になれと言い寄られて迷惑していたこと、また小助の下駄を履き違えて行ってくれたことから、小助は道益殺しの罪をお竹に被せます。
しかし、裁判にあたった倉橋弥十郎(三津五郎)が小助の企てを見事に暴き、お竹は無罪放免になるのでした。
また表でも、管領・細川勝元(三津五郎)が鶴千代の家督相続を認めたため、お家騒動に決着。渡辺外記左衛門(市蔵)らが弾正を討ち果たし、見事に幕となりました。
今回、勘三郎さんは3役とも初役な上に、3役それぞれ全く異なる役柄で、本当に楽しませてもらいました。特に政岡は良かったですね。実の息子が目の前で嬲り殺しにされるなんて、あまりに残酷な話で目を覆いたくなるところですが、気丈に振るまい、誰も居なくなったところで、息子を抱きかかえて泣く姿には胸打たれました。
3部は花道のほぼ真上な位置から見ていたんですが、栄御前が遠ざかっていくのをじっと見つめている様や、姿が消えた途端、様々な衝撃が頭を駆け巡って腰が抜けるところなどその一つ一つが良かったです。
有名な仁木弾正の引っ込みシーンは当然3階からでは始めの部分がかろうじて見えるだけだったんですが(泣)、定式幕に映る弾正の影がだんだん大きくなっていく様を見てるだけでも、ぞっとするような怖さがありますね。今度は是非1階で見たいものです。
小助は一番勘三郎さんらしい役でしたが、裁決の場面で、表情がくるくる変わる様が見ていて楽しかったです。
勘太郎君の男之助は、なかなか見れない赤っ面の荒事で、いやあ~楽しかったです(笑) かなりノリノリで演じてましたね。でもあんなに荒々しく捕まえた割に、鼠に逃げられちゃうのがなあ(苦笑)こういう派手な荒事もまた観たいですね。
三津五郎さんはとにかく美味しい役回りでした。カッコよかった~ 最後に全て美味しいところをかっさらっていきましたよ(笑) 越前裁きのようで本当に胸がすくような感じでスッキリ。あの裏で小助を裁くシーンは、「伽羅先代萩」では弾正を裁く場面なんですね。弾正がいつ裁かれたのかがわかりにくかったんですが、そう置き換えると納得です。
扇雀さんの八汐は容赦なく怖かったです。とてもその前の回で蚊だったとは思えない(笑) 毒で苦しむ子供に介錯してあげるのではなく、さらにぐりぐりと短刀を突き立てるのですから、本当に非道ですよね。子供がその都度悲鳴をあげるから更に(泣)
秀太郎さんは今回3部だけのご出演でしたが、栄御前の不気味な怖さが良かったです。怖い上にも格上の品がありました。誰が敵で誰が味方かなんてやっぱりわかりにくいんでしょうね。そう思うと政岡の孤独さもまた際立ちます。
他にも七之助君の頼兼や亀蔵さんの絹川谷蔵のかっこよさ、福助さんのお竹など、その前の2部でははっちゃけてた人達が、3部では本来の歌舞伎らしいしっかりとした立ち居振る舞いを見せてくれたので、気持ちの良い幕でもありました。
改めてそういった歌舞伎役者の魅力や面白さも発見でき、1~3部通しで観たのは正解でした。また今月歌舞伎をより好きになれた気がします。そしてどんどん銭を失っていくんでしょうけど…(苦笑)
ええ、来月もまた行きますよ~。玉三郎さんの阿古屋と、左團次さんの玉の井は絶対観たいし(笑)10月は演舞場昼と歌舞伎座は昼夜とも行っちゃいそう…。ああ、来月は兄弟公演もあるし、11月は亀ちゃんの巡業も取ったし…、あはは、歌舞伎興行ってなんでこんなにたくさんやってるんでしょうか
本来は「千秋楽」と書きますが、歌舞伎の場合は「千穐楽」なんですね。今回初めて知りました。「火」という字を嫌いこの字になったそうです。江戸の芝居小屋で火事なんて大変ですからね~。そういえば、今月歌舞伎チャンネルで観たフォーラム公演での「櫓のお七」。有名な八百屋お七の話ですが、お七が火事を起こす場面が無く、ただ木戸を開けてもらうために、鐘じゃなく太鼓を鳴らしていて、あれ?と思ったんですが、これも「火」を嫌ったゆえ。徹底してますね。
そんな千穐楽ですが、前回1部と2部を観た時よりもすっかり涼しくなって、まさに納涼の締めに相応しい気候でした。
では、1部と2部は簡単に感想を。
★1部
一、「磯異人館」
いやあ~2度目の観劇で、筋も展開もオチもわかりきってるのに、またもや泣いてしまいました。この芝居何度観ても泣けるんです。特に精之助と五代の友情に弱い。最後に五代が「さらば!」と言って去ってくところでもう涙が溢れてたまりませんでした。本当にいい友ですよね。最初はラブラブな精之助と瑠璃に自分だけ除け者にされて腹立てたりしてますが、ずっと二人を見守りいろいろと手引きもしてくれる。留学を諦めた精之助の元へ瑠璃を行かせるところも、本当に五代の気持ちの熱さを感じられるいい場面でした。
物語としては凄くベタな話なんですけどね。折田親子が何故そこまで周三郎を嫌うのかも弱い感じがしました。親の代からの因縁とかならわかるんですが、それなら兄の精之助ものことも追放しそうだし。ただ周三郎から警固役を奪いその座に息子を据えたかっただけなんでしょうか。それにしてはずいぶん粘着質な親子だなあと、最後の場面を観ていて思いました。なんでそこまでしつこいんだよ~
まあでも面白い芝居でしたね。若手の熱演が本当に良かったです。芝のぶちゃんも猿弥さんも年齢的には中村屋兄弟や松也君よりずっと上ですが、そんなに離れてる感じはまるでしなかったですね。特に芝のぶちゃんは七之助君に対して「瑠璃お姉さま」と呼んでも全く違和感無いし。一緒に観てた友人は芝のぶちゃんの年齢を知ってそりゃもう驚いてましたよ。本当に可愛らしいわ
二、「越前一乗谷」
これは2度目のほうがもっと楽しめました。今回はイヤホンガイドを借りずに観たので、義太夫をじっくり聴いたのが良かったかもしれません。音楽もいいんですよね。合戦の場面とか本当に迫力あって好きです。
橋之助さんのかっこよさ、福助さんの美しさも本当に際立ってました。福助さんは尼姿が特に秀逸。2部とのギャップが凄いだけに尚更…(笑)
★2部
一、「ゆうれい貸屋」
最後の染次のメイキャップが前回観た時より怖くなってた気がしましたが、あれは楽だけのこしらえ? いろいろ小芝居入って福助さんのはっちゃけ具合も激しくなってた気がします(笑)
今回、孝太郎さんのお兼が凄くいいと思いました。旦那が働かないのは自分のせいだと思い、泣く泣く家を出ていくところや、気になって様子を見に帰ってきたり、本当に健気でいい奥さんなんですよね。だから最後にヨリが戻ってよかったなと、染次姉さんには可哀想だけど、お兼がすごく良いので、このハッピーエンドには満足でした。
弥六と染次の初夜場面、前回は障子越しの妖しいシルエットがなかなかエロかったですが、今回は完全にコント(笑)、染次姉さん羽ばたいて、鶏プレイ? そのシルエットを観て絶句してる隣の奥さんの後ろ姿がさらに笑えました。
七之助君に襲われるときの三津五郎さんがセクシーだなあ♪
二、「新版 舌切雀」
前回は驚きが大きく、なんだか呆気にとられたまま終わった感もあったんですが、2度目だけにじっくりとストーリーや各キャラを堪能することができました。
花鳥の祭の場面、今回の座席からは孝太郎さんの孔雀王がよく見えたんですけど、ペンギンダンスを一番ノリノリで踊ってるのに、顔は無表情なのがツボでした(笑) 芝のぶちゃんのペンギンダンスは優雅♪ 前回はまだ売ってなかった舞台写真、迷わず芝のぶちゃんの鶴姫GETしましたよ。本当に綺麗~♪
ストーリーを落ち着いて追えたせいか、今回は最後もすっきりまとまってるような感じがしました。人の言うことをきかない玉婆が、耳を塞いでいても聞こえてくるほど騒々しい心の声達を聞かなければならない森の小人にさせられたというオチも納得。でも森彦夫婦が死んでしまったのがイマイチ。しかも医療ミス?(苦笑) まあこのまま家へ帰ってももう誰も居ないよという寂しさを強調するためだったんでしょうけど、あんな優しい夫婦が死んじゃったのかと思うと(涙)
元の舌切雀の話では、いじわるなおばあさんが持って帰った大きな葛の中には、おばあさんが一番怖いものが入ってたんでしたっけ? 確か出てきたのはお化けとか怖いものだったと思いましたけど。今回の葛には自分自身が入っていたというのは、玉婆は自分で自分が嫌だったということなのかな。旦那が死んでから30年、蚊しか友達が居なかったというのは本当に寂しいことですよね(^^;; 寂しくてつい周りに辛く当たってしまい嫌われ続けた玉婆が最後に改心したところは良かったですけど。森彦夫婦も鳥の国では生きてるということでしょうか。
福助さんの公式サイトを見たら、渡辺えりこさんはこの作品を相当苦しんで書いたみたいですが、その苦しみが案の定、物語を少し複雑で不透明なものにしてしまったかなという感じはしました。いかんせん、お夏が持ってきたタンスの秘密や鳥の国の存在がどういう位置づけなのかよくわからなかったので、もう少し単純な世界観でも良かったような気がします。それなりに楽しめましたがちょっと惜しい作品でしたね。
あと千秋楽ということもあって、最後にカーテンコールを要求する拍手が起きましたが、時間の関係かカーテンコールはありませんでした。1部と3部の時にはこのような拍手は全く起きなかったんですが、やはり一番カーテンコールしてくれそうな演目だったからでしょうか(^^; あの最後の勢ぞろいは圧巻ですからね。
★3部
「裏表先代萩」
有名な「伽羅先代萩」に出てくる毒殺にまつわる話を世話物にして、時代物を表、世話物を裏として交互に展開していくのがこの「裏表先代萩」。「伽羅先代萩」をまだ観たことがなかったので、あらすじだけでも抑えておかねばと思い、しっかり予習した甲斐あって楽しめました。
時代物だけだとテンポがゆっくりで、流石に疲れがピークに達してきた頃なだけに、眠気に襲われる心配もあったんですが、合間にテンポのよい世話物が入ってきたおかげで、集中して観られたのも良かったです。
物語は室町時代の足利家の話ですが、元は江戸時代の仙台藩のお家騒動を描いたもの。当時大っぴらに実名で演じることは禁じられていましたから、足利家に脚色して上演したものなんですね。
御家乗っ取りを企む一味から、嫡男鶴千代を護る乳母の政岡(勘三郎)。城内に敵が居るわけですから、当然お城で用意された食べ物を食べさせることができず、与えられるのは政岡が自ら用意する物のみ。当然、育ち盛りの鶴千代は空腹の日々。そんな若君を不憫に思い、政岡は自分の子、千松にも同様に食事を与えます。千松は幼いながらも武家の子としての誇りを持ち、健気に耐えて母親を喜ばせます。そんな千松を見て、負け時と鶴千代も気骨を見せます。長台詞が多いですが、両子役ともに素晴らしい見せ場でした。
そこへこの乗っ取りの黒幕とされる管領夫人の栄御前(秀太郎)が鶴千代の見舞いにと菓子を持って参上。毒が入っている可能性が高いとはいえ、管領家に逆らえない政岡と鶴千代は絶体絶命の危機に。そこへ控えていた千松が飛び出して、菓子を食い散らかします。案の定、菓子には毒が仕込まれており、苦しみ出す千松。さらにその行為が無礼であると、敵の一味であった八汐(扇雀)が千松を嬲り殺してしまいます。
目の前で実の子供が嬲り殺される様をじっと見ている政岡。政岡の任務は若君を護ることが先決のため、息子を助けることはできません。その様子を見ていた栄御前は、政岡があまりにも平然としているので、自分の息子と鶴千代を入れ替えているのではないかと思い、自分たちの一味であると勘違い。政岡にこの乗っ取り計画に加担している者達の名前を記した連判状を渡してしまいます。
息子のおかげで一味の名前を知ることができた政岡は、栄御前達が帰ったあと、千松の遺体に泣きすがって讃えます。
その様子を見ていた八汐が政岡を殺そうと襲いかかってきますが、政岡は逆に一刀のもとに討ち果たし、息子の仇をとるのでした。
しかし、せっかく手に入れた連判状は不意に現れた鼠に奪われてしまいます。その鼠は仁木弾正(勘三郎)が妖術で姿を変えていたのでした。床下に潜んで警固している男之助(勘太郎)が一度は鼠を捕らえるものの、隙をつかれて逃げられてしまいます。
一方、裏では鶴千代毒殺のために大金を手にして毒薬を調合していた医者・大場道益(弥十郎)が殺害されます。犯人は下男の小助(勘三郎)。都合よく、近くに住む下駄屋の下女・お竹(福助)が道益に金を借り、さらに道益に妾になれと言い寄られて迷惑していたこと、また小助の下駄を履き違えて行ってくれたことから、小助は道益殺しの罪をお竹に被せます。
しかし、裁判にあたった倉橋弥十郎(三津五郎)が小助の企てを見事に暴き、お竹は無罪放免になるのでした。
また表でも、管領・細川勝元(三津五郎)が鶴千代の家督相続を認めたため、お家騒動に決着。渡辺外記左衛門(市蔵)らが弾正を討ち果たし、見事に幕となりました。
今回、勘三郎さんは3役とも初役な上に、3役それぞれ全く異なる役柄で、本当に楽しませてもらいました。特に政岡は良かったですね。実の息子が目の前で嬲り殺しにされるなんて、あまりに残酷な話で目を覆いたくなるところですが、気丈に振るまい、誰も居なくなったところで、息子を抱きかかえて泣く姿には胸打たれました。
3部は花道のほぼ真上な位置から見ていたんですが、栄御前が遠ざかっていくのをじっと見つめている様や、姿が消えた途端、様々な衝撃が頭を駆け巡って腰が抜けるところなどその一つ一つが良かったです。
有名な仁木弾正の引っ込みシーンは当然3階からでは始めの部分がかろうじて見えるだけだったんですが(泣)、定式幕に映る弾正の影がだんだん大きくなっていく様を見てるだけでも、ぞっとするような怖さがありますね。今度は是非1階で見たいものです。
小助は一番勘三郎さんらしい役でしたが、裁決の場面で、表情がくるくる変わる様が見ていて楽しかったです。
勘太郎君の男之助は、なかなか見れない赤っ面の荒事で、いやあ~楽しかったです(笑) かなりノリノリで演じてましたね。でもあんなに荒々しく捕まえた割に、鼠に逃げられちゃうのがなあ(苦笑)こういう派手な荒事もまた観たいですね。
三津五郎さんはとにかく美味しい役回りでした。カッコよかった~ 最後に全て美味しいところをかっさらっていきましたよ(笑) 越前裁きのようで本当に胸がすくような感じでスッキリ。あの裏で小助を裁くシーンは、「伽羅先代萩」では弾正を裁く場面なんですね。弾正がいつ裁かれたのかがわかりにくかったんですが、そう置き換えると納得です。
扇雀さんの八汐は容赦なく怖かったです。とてもその前の回で蚊だったとは思えない(笑) 毒で苦しむ子供に介錯してあげるのではなく、さらにぐりぐりと短刀を突き立てるのですから、本当に非道ですよね。子供がその都度悲鳴をあげるから更に(泣)
秀太郎さんは今回3部だけのご出演でしたが、栄御前の不気味な怖さが良かったです。怖い上にも格上の品がありました。誰が敵で誰が味方かなんてやっぱりわかりにくいんでしょうね。そう思うと政岡の孤独さもまた際立ちます。
他にも七之助君の頼兼や亀蔵さんの絹川谷蔵のかっこよさ、福助さんのお竹など、その前の2部でははっちゃけてた人達が、3部では本来の歌舞伎らしいしっかりとした立ち居振る舞いを見せてくれたので、気持ちの良い幕でもありました。
改めてそういった歌舞伎役者の魅力や面白さも発見でき、1~3部通しで観たのは正解でした。また今月歌舞伎をより好きになれた気がします。そしてどんどん銭を失っていくんでしょうけど…(苦笑)
ええ、来月もまた行きますよ~。玉三郎さんの阿古屋と、左團次さんの玉の井は絶対観たいし(笑)10月は演舞場昼と歌舞伎座は昼夜とも行っちゃいそう…。ああ、来月は兄弟公演もあるし、11月は亀ちゃんの巡業も取ったし…、あはは、歌舞伎興行ってなんでこんなにたくさんやってるんでしょうか
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