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最近はフィギュアスケートと歌舞伎鑑賞記録が主流でござります

国立劇場「通し狂言 摂州合邦辻」

2007年11月07日 | 歌舞伎
国立劇場で歌舞伎鑑賞なんて、私が初めて歌舞伎を観た高校時代の観劇教室以来です。あの時は歌舞伎って何てつまらんのだろう…と思ったもんでしたが、今では暇を見つけては歌舞伎を見に行く始末です(^^; 人間どうなるかわからんものですね。
でも国立劇場って行くのはちょっと面倒な場所にあるんですけど(永田町界隈って本当にわかりにくい…)、劇場としてはとても見やすいですね。今月は玉さんの舞踊公演とか亀ちゃんの巡業とかにお金をかけてしまったので、国立は2500円の席(3階1列目…実質2階8列目)だったんですが、とても観やすかったです! 正直、2500円でこれはお得でしょう!という感じ。花道は真ん中辺りまでちゃんと観えるし、前の手すりも舞台の邪魔にならない。歌舞伎座も早く改修して、3階席のあの観辛さを改善して欲しいものですが…。

さて、この「摂州合邦辻」が通しで上演されるのは39年ぶりとのこと。私は全く初めて観る演目だったのですが、事前に何の予習もせずに行ったもので、1幕目を途中まで観て、なぬ?禁断の愛?近親相姦ですか?!とビビりました(笑) まあ継母と息子だから血の繋がりないし、継母の片思いだから相姦とまではいきませんけどもね。この継母がとても執念深いお方で、継母=玉手御前を演じてらっしゃるのが藤十郎さんなんですけど、その執念深さに何か生々しい女らしさがあって良かったですね。若い息子が愛しくてたまらん年増の母親って感じなんだけど、でも実際は19~20歳の女子が同じ年の頃の美しい男性に惚れてる設定らしいです(^^; まあね、藤十郎さんも年齢の割には若いけれど、さすがにそこはやっぱり想像力で補ってやらないといけませんなあ。でも良かったですよ藤十郎さん。先月歌舞伎座で観た「恋飛脚大和往来」の若旦那役よりこうした女役のほうが好きかも。
そして息子=俊徳丸の役が三津五郎さんで、まあ三津五郎さんも50過ぎた親父ですが(爆)、たまにはこういう若々しいお役もいいなあと思いました。ふふ。でも息子は継母に想いを告げられて、げげっとドン退きしちゃうんですよね。だってこの美しい息子は皆からモテまくりな上に美しいフィアンセもいるからね。あげくに母も夫がいる身で夫婦になってくれと酒注ぎながら息子に迫るわけですから、そりゃドン退きですわな。

そんな母の衝撃告白で1幕目が終わり、2幕目では美しい息子が突然病床に。母に迫られたショックで…はありませんが、なんと謎の奇病にかかりその美しい顔の半分が醜く崩れ、あげくに妾腹である弟が悪企みを働いて、家督を奪おうとしているではありませんか! 顔だけでなく心も美しい息子は、父親が追いつめられているのを見て、自分のせいだと思い、出奔を決意します。
そして、やはり継母の息子への愛もハンパないわけで、それなら私も一緒にと追いすがります。本当にどこの昼ドラだよこれ…(^^; 母ちゃんと一緒なんて嫌だよ!と息子は継母の手首をお廊下を渡る鈴の縄にくくりつけて動きを封じ、その隙に出奔しちゃいます。縄には鈴がついてるわけですから、た~す~け~て~と派手に鈴を鳴らす母(迷惑)助けに来たのは秀太郎さん演じる羽曳野。羽曳野の夫はこの家の執権を担当する主税之助で、夫婦共々この家に仕えているんですね。
日も暮れる頃、諦めきれない母は降りしきる雪の中、息子の後を追って出奔することを決意。それを羽曳野が止めます。羽曳野にとって玉手御前は、大した家柄でもないのに後妻にちゃっかり納まっちゃったあげく、その旦那様を捨ててあろうことか息子に手を出そうとしている人でなし女なわけです。羽曳野、小刀を振りかざし力づくで玉手御前を止めようとしますが、しかし愛に走る女は怖いというか強いというか、羽曳野に当て身を喰らわして、息子の元へと雪の中駆けてっ行っちゃうんですね。
雪の中倒れた羽曳野を助け起こしたのは、愛之助さん演じる夫の主税之助。羽曳野の話から家督を奪おうとしてる弟君の悪事を知り、先ほどやってきた不審な勅使の後を追います。
この勅使、弟と手を組んでいる偽物で、まんまと主税之助に追いつめられて一刀の元に斬り捨てられます。愛之助さん、ちょっとの出番なんですけど、とてもかっこよくてオイシイ役でございました。
これでやっと2幕目終了です。はぁ~なんと濃い話でしょう。

続いて3幕目では、玉手御前の父親と、息子=俊徳丸のフィアンセである浅香姫がいよいよ登場してきます。この浅香姫、扇雀さんが演じておりますが、実に健気で良い姫君です。玉手と同じく出奔して行方知れずになった俊徳丸を探し続け、やっとこさ見つけた俊徳丸は昔の面影も無いほどに変わり果てた姿、あげくに奇病のせいで失明。しかし浅香姫はそんな俊徳丸でも変わらずに愛し、再会できたことを涙こぼして喜ぶのでした。先月は貧乏なあまりに旦那の薄汚い法被まで着させられてた扇雀さんでしたが、今月は一転、赤姫姿が美しゅうございました。
美しき恋人達の再会もつかの間、そこへ、兄から家督を奪おうと企む弟次郎丸が現れます。この次郎丸、お家だけでなく、浅香姫まで奪う気でおりましたが、そこへ助けに入るのが玉手御前の父親=合邦。我當さん演じる合邦は閻魔様の木彫りを積んでいた荷車に、目の見えない俊徳丸を乗せ、浅香姫に「ここは任せて早く逃げろ!」と言います。火事場の馬鹿力は美しい姫にもありまして、姫は必死に俊徳丸の乗った荷車をずりずりずりずり引きずりながら花道を逃げて行くのでした。そんな姫の姿に感動しつつもちょっと笑えるシーンでした。だって、姫が俊徳丸の手を引いて走ったほうが早いんじゃないの?と思えたんだもん。
ちなみに次郎丸は合邦に池に突き落とされて終了。

長かった物語もいよいよ大詰めです。玉手御前の禁断な想いはどうなるのか?!とワクワクしてたんですが、休憩時間中に筋書きを読んでしまいまして、そのオチにはえええ?!と驚いた次第です。知らないほうが楽しめたかも(しくしく) なのでこの「通し狂言 摂州合邦辻」の結末を知らずにこれから観劇予定の方は、この先は読まずにブラウザを閉じて頂いたほうがきっと楽しめると思います。
正直、そんなご都合主義な~と思ったんですけどね。まあ歌舞伎にはよくありがちな、実はなんたらかんたら…な内容でしたわ。禁断の恋で突っ走って昼ドラ顔負けのオチを作ってくれたほうが、盛り上がったけどね(笑) まあトータルに考えて面白かったら良しです。

では大詰めを簡潔(?)に。
玉手御前の実家では、息子との禁断の恋に身を焦がし、あげくに出奔してしまった娘は手打ちにされただろうと、先走った両親が百万遍の供養を行っているんですね。そして先ほど助けた俊徳丸と浅香姫を娘の罪滅ぼしにと、かくまっております。
そこへ生きて帰ってくる玉手御前。吉弥さん演じる母おとくは喜びますが、父合邦はそれでは義理が立たないと戸を開けるのを許可しません。しかし両親にとっては不出来な娘でも可愛い娘。最終的には折れて玉手を家に迎えてやります。
しかし玉手はまるで反省の色がなく、尚もしつこく俊徳丸と結婚したい~!と大騒ぎ。そこへ現れる俊徳丸と浅香姫。実は玉手が俊徳丸に愛を告白した住吉神社で飲ませた酒こそが、今回の事件の発端となった俊徳丸の顔を醜くさせた毒であり、酷い顔になれば浅香姫は俊徳丸から離れ、晴れて自分のモノになるだろうと考えていたのでした。なんと玉手御前とは醜い女でしょう。もちろん激怒する浅香姫ですが、玉手は浅香姫を逆に殴り飛ばしてしまいます。この二人のバトル、実際は父子である藤十郎さんと扇雀さんが男を取り合って壮絶バトルなんて、冷静に見るとすごく可笑しな場面なんですけども、本当に女同士のバトルって感じで面白かったです。親子でこんな場面を演じるなんて歌舞伎でなきゃありえないですね(^^;
卑しき女の情念というか執念は本当に恐ろしい。そうまでして俊徳丸に玉手御前がしつこく迫った訳は…悲しい形での告白となりました。
ついに、父の合邦が聞き分けない娘を刀で一突き。倒れる玉手。息も絶え絶えに語る玉手の口から出たのは衝撃の告白。これまでの俊徳丸への恋情は全て偽り。なぜならそうして追いつめて出奔させなければ、お家騒動に巻き込まれ俊徳丸の命が危うかったのだという。弟次郎丸もまた玉手にとっては義理の息子なので、罪人にしたくないという想いから、今回の過激な計画が思いついた玉手御前。そして父に刺されるのも計算のうち。なぜなら、俊徳丸の奇病を治すには、寅の年月日の刻に生まれた女の胆の生き血を飲ませるしかなかったからだ。それには、毒酒を飲んだ時に使ったアワビの盃も必要で、玉手御前が懐に大切に持っていたその盃に自分の血を落として俊徳丸に飲ませると、アラ不思議! たちまちのうちに崩れた顔は元通り。なんとも即効性がありました。
そこへ俊徳丸の家督が護られたと報告にくる主税之助。全ては丸く納まり、継母の本当の愛を知り感謝する俊徳丸に見守られながら、玉手御前は息を引き取ったのでした…。

う~ん、本当になんと壮絶なオチでしょう(笑) なんと情念の醜いヒドイ女だろうと思ってたら、実はすげーいいヤツだったとは。お話だからネ!と片づければそうなんだけど、なんかそんな回りくどいことせんでも、何か他の道は無かったのだろうか…と思わずにはいられません。でもこの玉手御前は本当に俊徳丸への恋心もあったんじゃなかろうかと思います。でなきゃここまでやれないし、全て芝居とはいえ、浅香姫をあそこまで殴らなくても良かったと思う(笑) 姫とのバトルも壮絶でしたけど、最初の羽曳野とのバトルも面白かったです。なんか女同士のバトルって凄みと同時にネチっこい嫌らしさがあるんですよね。そういうの上手いなあって見ていて思いますもん。また秀太郎さんの羽曳野が貫録あっていいんですよね。愛之助さんと夫婦役というのもめずらしい感じしますけどね。愛之助さんも夫としての大きさがありましたし、何より美味しい役で良かったです。
あとは我當さんと吉弥さんの両親も良かったですね。我當さんは先月の「恋飛脚大和往来」の父親役とかぶる雰囲気ありましたね。どちらも子供が罪を負って出奔する哀しい父親役ですけど、そんな子供でも許せる大きな懐の深い愛情があって、我當さんのこういう役はハマってていいなあと思いました。実際の息子である進之介さんの次郎丸を池に突き落とすところはちょっと面白かったですけど。
吉弥さんは先月は色気たっぷりな悪女もやってましたが、一転、こういう老け役も上手いなあと思いました。こういう話では母親のほうがやっぱり甘いですよね。
でも、玉手御前の最期の場面が結構間延びした感じだったのがやや残念でした。短刀突き刺してから何分経過したんだよっていう…。まあ似たような演出は星野勘平とかいがみの権太なんかもありますけど、さらに長かった気がしました。あれは上方ならではの間なんでしょうか。私の数列前の男性がトイレに立ったんですけど、帰ってきたらまだ同じような場面だったというぐらい本当に制限時間いっぱい使って粘ってた感じでした。あの男性はあの場面が長かったことを知っていたのかもしれないな(^^;

でも、2500円でこれだけ濃い内容の芝居が楽しめて良かったです。場所がもうちょっとアクセスしやすければいいんですけどね。久々に国立劇場行ったら道迷いましたもん。永田町ってなんか無愛想で看板も無い似たような建物ばかりでわかりにくいっす。官庁街だからしょうがないけどさ。帰りにマスコミの集団に出くわすし。今噂の小沢氏でも居たのかしら??

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2 コメント

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Unknown (とみた)
2007-11-07 12:05:41
はじめまして。
話がよくまとまっていて感服しました。私も同じ舞台見たんですが、とってもこんな風に書けません。
藤十郎さん、力のある方だとあらためて思いました。うまい、というだけじゃなく、若い女の思いが伝わってくるところがすごい。動かないときが多かったけど三津五郎さんの俊徳丸も綺麗で上品で、説得力がありました。
退屈するかと予想してたのに、今年一番感動した舞台になりそうです。
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ありがとうございます (isako)
2007-11-07 17:28:00
>とみたさん
初めまして!コメントありがとうございます。
私も観るまではあまり期待してなかったクチですが、予想外に面白くてこんなに長文で筋を熱く語ってしまうほどでした。
三津五郎さんの役は常に受け身で難しい役でしたね。この話は女役のほうが感情がはっきりしていて演じるのが楽しいだろうなと思いました。藤十郎さんなんてノリノリで演じていたように思えます
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