一歩先の経済展望

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円安起点の物価高と消費低迷指摘した政府試算、注目される日銀の判断

2024-07-19 14:29:27 | 経済

 総務省が19日に発表した6月全国消費者物価指数(CPI)の中で、内外メディアがあまり注目していない係数に焦点を当てたい。それは「持ち家の帰属家賃を除く総合」だ。実質賃金を試算する際に使用されるデータで、6月は5月から横ばいの前年比プラス3.3%だった。この水準が継続するようなら政府・日銀が期待する夏場から秋以降の実質賃金プラス転換と消費拡大に「黄信号」が点灯しかねない。

 また、19日に内閣府が「年央試算」を公表し、2024年度の実質国内総生産(GDP)見通しを1.3%から0.9%に引き下げ、CPI(総合)見通しを2.5%から2.8%に引き上げた。GDP下方修正の大きな要因として1.2%から0.5%に引き下げられた個人消費にスポットが当たっており、その消費低迷の原因として円安による輸入物価の上昇が意識されている。

 日銀が31日に発表する「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で政府と同様にGDP見通しを下げて、CPI見通しを上げるのかどうか、円安と輸入物価上昇の動きが消費を抑制しているとの見解を示すのか否か。日銀の次の利上げ時期を展望する上で重要なポイントになりそうだ。

 

 <物価高に追いつけない賃上げ、消費拡大はいつか>

 政府・日銀は、今年の春闘における賃上げ率が5.10%と33年ぶりの高水準となり、所得環境の好転が消費拡大につながり、前向きの循環メカニズムがバブル崩壊後に初めて本格起動すると期待していた。

 だが、5月の実質賃金は前年比マイナス1.4%と26カ月連続で水面下に沈み、5月の消費支出は前年比マイナス1.8%と振るわなかった。5月の現金給与総額は前年比プラス1.9%だったものの、「持ち家の帰属家賃を除く総合」が3.3%と高いハードルとなり、賃上げが物価上昇に追いつかない実態をあらためて示すことになった。

 

 <弱い消費の伸び、素直に認めた政府試算>

 今回の政府試算では、24年度の実質GDP見通しを前年比1.3%から0.9%に引き下げた。大きな要因となったのが個人消費で、前年比1.2%から0.5%への大幅な下方修正となった。自動車メーカーの認証不正による出荷停止のほか、円安による輸入物価の上昇が消費の停滞につながっていることも影響しているとの認識を示している。

 つまり、政府は輸入物価の上昇→個人消費の下押しというルートのマイナス効果を認め、素直に個人消費の低迷とGDP見通しの下方修正を認めたという構図になっている。

 実際、「持ち家の帰属家賃を除く総合」は、3%台から2%前半に低下する可能性が下がっていると筆者は予想する。

 6月の国内企業物価指数は、前年比プラス2.9%と5月の同2.6%から伸びが加速し、モノの価格は上流・中流で値上げ圧力が高まっている。また、6月全国CPIでは、サービス価格の実勢を示す「持ち家の帰属家賃を除くサービス」が前年比2.4%と5月の同2.2%からジワリと上がりだした。人件費上昇に伴うサービス価格の上昇は年後半に継続することが予想され、CPI全体が伸び率を弱めていくとの一部エコノミストの予想とは別の展開になりそうだからだ。

 したがって実質賃金が秋以降になってもプラス転換せず、消費の一進一退が続く可能性は相応にあるかもしれない。政府の試算は、そうした点を考慮して、一足先に個人消費の伸びを下げたとも見て取れる。

 

 <賃上げと消費拡大への期待維持する日銀>

 では、日銀も政府の見方に追随するのだろうか──。31日に公表される「経済・物価情勢の展望」では、GDP見通しが下方修正される可能性があるとみている。ただ、それは政府の解釈とは異なって自動車メーカーの認証不正に伴う出荷停止のウエートが高く、消費は賃上げの効果が年内のどこかで表面化し、賃上げによる所得環境の好転が消費拡大につながるという見方を7月会合の時点で放棄することはないと予想する。

 日銀が重視する毎月勤労統計の中の共通事業所による一般の「決まって支給する給与」が4月の前年比プラス2.0%から5月に同2.7%へと大幅に伸びていることもあり、賃上げの効果がデータに出てくるのをもう少し見極めたいとの認識を強めているのではないか、とみている。

 このため筆者は、7月会合での利上げは決断せず、データ次第で9月以降に利上げの本格的な検討に入る可能性について、日銀が何らかの見方を示すのではないかと予想する。特に31日の植田和男総裁の会見では、政府が示した消費低迷とGDP見通しの下方修正という「見通し」と、日銀の示したビューとの差異についてどのように発言するのか注目される。

 また、一部のエコノミストが指摘している消費低迷の原因として、輸入物価上昇を招く円安の存在があり、円安のパワーを弱めるために利上げするべきであるとの政策アプローチについて、植田総裁がどのようなロジックで自説を展開するのかも内外のBOJウォッチャーの関心を集めるとみている。

 物価と賃金と消費の関係における日銀の見方が浮かび上がってくれば、自ずと次の利上げの時期も類推できるのではないかと思っている。

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