一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

バイデン氏撤退で市場に広がる不透明感、ボラ上昇なら円高誘発も

2024-07-22 14:28:02 | 経済

 バイデン米大統領が21日、米大統領選からの撤退を表明したニュースは世界を駆け巡った。後継の大統領候補にバイデン氏はハリス副大統領を指名したが、これでハリス氏が民主党の大統領候補に確定したわけではなく、世界の金融・資本市場には不透明感が広がった。

 この現象はマーケットのボラティリティ(価格変動率)上昇につながり、世界的な株高現象に冷や水をかけるだけでなく、ドル高・円安の流れが急変するリスクも高めている。円安はキャリー取引によって加速してきた面が強いが、ボラティリティの上昇はキャリー取引の巻き戻しを誘発しかねないからだ。何が円売りの巻き戻しにつながるのか、マーケットには言いようのない緊張感が広がりだしている。

 

 <日経平均の大幅下落、不透明感の強まりも影響>

 22日の東京市場では、一時、日経平均株価が前営業日比500円を超えて下落し、午後も3万9500円台での取引が続いた。前週末のNYで半導体関連株が売り込まれた流れを引き継ぎ、東京市場でも半導体関連やハイテク関連株の売りが目立った。

 その一方で「バイデン撤退」表明の影響は限定的との声も出ていたが、別の見方も静かに広がっていた面がある。つまり、共和党のトランプ前大統領とバイデン氏の対決なら「ほぼトラ」ということで株買いなどの「トランプ相場」に乗じた流れが主流になるかとみられていたが、高齢批判を受けたバイデン氏の撤退でトランプ氏の当選確実という見方が後退し、トランプ相場への揺り戻しの懸念が発生していることがある。

 さらにハリス副大統領が民主党候補になるなる道筋も「100%」というわけではなく、仮に民主党候補に決まっても、副大統領候補にだれを選ぶかで、トランプ氏に本当に勝てるのかという見方も大幅に変動しそうだ。結果的に米大統領選の行方が見えにくくなり、マーケットの不確実性を高めているという構図ができつつある。

 

 <中国利下げに失望感、市場心理の悪化に>

 そこに、中国人民銀行が最優遇貸出金利(LPR、ローンプライムレート)の1年物と5年物の金利を0.1%引き下げると22日に公表したものの、上海総合指数など中国株が小幅利下げに失望して下落しているとのニュースが伝わって、東京市場の市場心理を悪化させた。

 マーケットの不確実性は市場のボラティリティを上昇させるとともに、リスクオン心理からリスクオフ心理への転換を促す作用を生み出すことになる。22日の東京市場での日経平均株価の大幅下落には、このような市場の変化が大きく作用したと筆者は考える。実際、22日は日本株のプット買いも目立っていたとの指摘が複数の市場関係者から出ており、下値への警戒感が急速に高まっている。

 

 <外為市場にボラ上昇波及なら、円売りポジションの大幅な巻き戻しも>

 一方、22日の外為市場ではドル/円が157円台半ばで推移し、大きな変動は見えない。ただ、市場の不確実性の高まりは、外為市場におけるボラティリティの上昇に結びつきやすく、そのことはドル高・円安の大きな原動力となってきたキャリー取引の巻き戻しを誘発しかねない。

 複数の市場関係者によると、今のところボラティリティの上昇をきっかけとした円売りの巻き戻しは起きていないものの、不確実性の高まりによって世界のマーケットのどこかで円売りの巻き戻しを誘発するような想定外の現象が、ショックに発展するリスクを内包しているという。

 ショックのトリガーを引くのが、トランプ氏によるドル高けん制発言なのか、米民主党陣営による大統領選での巻き返しを呼ぶ対応策なのか、今のところはだれの目にもはっきりしたイメージは浮かんでいないと思われる。

 ただ、今年に入ってからの一本調子なドル高・円安の流れは、背景に低いボラティリティの継続という現象があったことは間違いなく、ボラティリティの上昇が目立ってくれば、円安基調がいったん途切れる可能性が相応にあると指摘したい。

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円安起点の物価高と消費低迷指摘した政府試算、注目される日銀の判断

2024-07-19 14:29:27 | 経済

 総務省が19日に発表した6月全国消費者物価指数(CPI)の中で、内外メディアがあまり注目していない係数に焦点を当てたい。それは「持ち家の帰属家賃を除く総合」だ。実質賃金を試算する際に使用されるデータで、6月は5月から横ばいの前年比プラス3.3%だった。この水準が継続するようなら政府・日銀が期待する夏場から秋以降の実質賃金プラス転換と消費拡大に「黄信号」が点灯しかねない。

 また、19日に内閣府が「年央試算」を公表し、2024年度の実質国内総生産(GDP)見通しを1.3%から0.9%に引き下げ、CPI(総合)見通しを2.5%から2.8%に引き上げた。GDP下方修正の大きな要因として1.2%から0.5%に引き下げられた個人消費にスポットが当たっており、その消費低迷の原因として円安による輸入物価の上昇が意識されている。

 日銀が31日に発表する「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で政府と同様にGDP見通しを下げて、CPI見通しを上げるのかどうか、円安と輸入物価上昇の動きが消費を抑制しているとの見解を示すのか否か。日銀の次の利上げ時期を展望する上で重要なポイントになりそうだ。

 

 <物価高に追いつけない賃上げ、消費拡大はいつか>

 政府・日銀は、今年の春闘における賃上げ率が5.10%と33年ぶりの高水準となり、所得環境の好転が消費拡大につながり、前向きの循環メカニズムがバブル崩壊後に初めて本格起動すると期待していた。

 だが、5月の実質賃金は前年比マイナス1.4%と26カ月連続で水面下に沈み、5月の消費支出は前年比マイナス1.8%と振るわなかった。5月の現金給与総額は前年比プラス1.9%だったものの、「持ち家の帰属家賃を除く総合」が3.3%と高いハードルとなり、賃上げが物価上昇に追いつかない実態をあらためて示すことになった。

 

 <弱い消費の伸び、素直に認めた政府試算>

 今回の政府試算では、24年度の実質GDP見通しを前年比1.3%から0.9%に引き下げた。大きな要因となったのが個人消費で、前年比1.2%から0.5%への大幅な下方修正となった。自動車メーカーの認証不正による出荷停止のほか、円安による輸入物価の上昇が消費の停滞につながっていることも影響しているとの認識を示している。

 つまり、政府は輸入物価の上昇→個人消費の下押しというルートのマイナス効果を認め、素直に個人消費の低迷とGDP見通しの下方修正を認めたという構図になっている。

 実際、「持ち家の帰属家賃を除く総合」は、3%台から2%前半に低下する可能性が下がっていると筆者は予想する。

 6月の国内企業物価指数は、前年比プラス2.9%と5月の同2.6%から伸びが加速し、モノの価格は上流・中流で値上げ圧力が高まっている。また、6月全国CPIでは、サービス価格の実勢を示す「持ち家の帰属家賃を除くサービス」が前年比2.4%と5月の同2.2%からジワリと上がりだした。人件費上昇に伴うサービス価格の上昇は年後半に継続することが予想され、CPI全体が伸び率を弱めていくとの一部エコノミストの予想とは別の展開になりそうだからだ。

 したがって実質賃金が秋以降になってもプラス転換せず、消費の一進一退が続く可能性は相応にあるかもしれない。政府の試算は、そうした点を考慮して、一足先に個人消費の伸びを下げたとも見て取れる。

 

 <賃上げと消費拡大への期待維持する日銀>

 では、日銀も政府の見方に追随するのだろうか──。31日に公表される「経済・物価情勢の展望」では、GDP見通しが下方修正される可能性があるとみている。ただ、それは政府の解釈とは異なって自動車メーカーの認証不正に伴う出荷停止のウエートが高く、消費は賃上げの効果が年内のどこかで表面化し、賃上げによる所得環境の好転が消費拡大につながるという見方を7月会合の時点で放棄することはないと予想する。

 日銀が重視する毎月勤労統計の中の共通事業所による一般の「決まって支給する給与」が4月の前年比プラス2.0%から5月に同2.7%へと大幅に伸びていることもあり、賃上げの効果がデータに出てくるのをもう少し見極めたいとの認識を強めているのではないか、とみている。

 このため筆者は、7月会合での利上げは決断せず、データ次第で9月以降に利上げの本格的な検討に入る可能性について、日銀が何らかの見方を示すのではないかと予想する。特に31日の植田和男総裁の会見では、政府が示した消費低迷とGDP見通しの下方修正という「見通し」と、日銀の示したビューとの差異についてどのように発言するのか注目される。

 また、一部のエコノミストが指摘している消費低迷の原因として、輸入物価上昇を招く円安の存在があり、円安のパワーを弱めるために利上げするべきであるとの政策アプローチについて、植田総裁がどのようなロジックで自説を展開するのかも内外のBOJウォッチャーの関心を集めるとみている。

 物価と賃金と消費の関係における日銀の見方が浮かび上がってくれば、自ずと次の利上げの時期も類推できるのではないかと思っている。

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トランプ相場でのドル、正反対の見方交錯 政策の矛盾投影

2024-07-17 12:48:19 | 経済

 ドナルド・トランプ氏の米大統領への返り咲きを有力視するマーケットでは、今年11月の米大統領選を前に「トランプ相場」が展開され、エネルギーや不動産などのトランプ銘柄を中心に株価が上昇しているが、外為市場では方向感が定まっていない。その背景には、トランプ氏の政策を推進していけばドル高になるとの見方と、トランプ氏自身がドル高の弊害を強く主張しているためドル安・円高になるとの見方が交錯しているという事情がある。

 筆者は、11月5日の米大統領選・投開票日ごろまではドル高傾向の相場が続き、トランプ氏が当選した場合は2025年1月の大統領就任式以降にドル安・円高圧力がかかるという「2段階相場」の展開を予想する。トランプ氏の矛盾に満ちた政策パッケージが外為市場の参加者を悩ますことになりそうだ。

 

 <低金利と低課税、米株高要因>

 トランプ氏は6月25日にブルームバーグ・ビジネスウイークと単独インタビューし、経済政策の要点は「低金利と低課税」だと指摘し、現在は21%の米法人税率の引き下げ方針を明確に示した。同時に対人民元、対円でのドル高がはなはだしく、米輸出企業にとって大きな負担になっているとの見解を示した。また、米大統領選前の米連邦準備理事会(FRB)による利下げは、やってはならないとわかっていることだと指摘し、FRBをけん制しつつ、パウエルFRB議長が正しいことをするならば、2026年5月までの任期を全うさせる考えも示した。

 マーケットでは、所得税などを対象にしたトランプ減税の恒久化や法人税減税などは米株にとってプラスであり、米株式市場への資金流入は継続すると予想する声が多数派を形成している。また、輸入品への一律課税(日欧などの同盟国には10%)は日本や欧州には不利であり、いずれ日欧株売り・米国株買いのフローも多くなるとの声も出始めている。

 このような米株取引に伴う資金フローは、大幅なドル買い需要を生み出して外為市場でドル高基調が続くとの予想が「トランプ相場」における解説として聞かれることが多い。米株高とドル高がリンクするとの推論は合理的にみえる。

 

 <ドル安と金融緩和志向のトランプ氏、円高材料に>

 一方で、上記に示したようにトランプ氏はドル高は米輸出企業にとって「害悪」との見解を示し続けており、今後、米大統領選でトランプ氏の優位がさらに明確になれば、ドル高けん制発言の意味を重く受け止めて「いずれドル安に転換する」と早めに見切りをつける市場参加者が増える可能性もある。

 さらに今年9月の米利下げを織り込む見方が上昇中ということもあり、16日のNY市場では、10年米国債利回りが前日比6ベーシスポイント(bp)低下の4.167%と、3月13日以来の低水準となった。

 ここに、金融緩和は「善」というトランプ氏の持論も加わって、FRBの利下げ決断をさらに加速させる力が、来年1月以降に働くことも視野に入れる必要が出てくるだろう。

 こうしてトランプ相場におけるドル/円は、ドル高・円安なのか、それともドル安・円高なのか見方が収れんしないままの地合いが生まれた。

 

 <11月までドル高/以降はドル安、2段階相場の可能性>

 トランプ氏が11月に当選したと仮定した場合、筆者はトランプ氏の当選が確定するまではドル高が優勢となり、当選が決まった後にドル安の動きを探る動きが出始めると予想する。この「2段階相場」を予想する最大の理由は、ドル高をけん制したり、FRBに圧力をかけるなど政治的行動は、来年1月20日の大統領就任式以降でないと実効性を持ちにくいという面があるからだ。

 ただ、米大統領選は長丁場であり、11月5日の投開票日までに米民主党サイドが大きく巻き返せば、形勢が大逆転する可能性も残されている。そのケースでは、このコラムで想定した前提が総崩れとなり、全く別の相場展開となるだろう。政治と相場の関係は、決めつけが最大のリスクかもしれない。

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動き出した「トランプ相場」、株高の先に待つ「インフレ懸念」の脅威

2024-07-16 14:00:13 | 経済

 7月13日に発生したトランプ前米大統領の銃撃事件は、米国内だけでなく世界中に大きな衝撃を与えた。波紋は様々な分野に波及しているが、AP通信のエバン・ブッチ氏が撮影した銃撃直後の拳を突き上げるトランプ氏の写真に代表されるように、米国内では「力強いリーダー」というトランプ氏のイメージが前面に立ち、11月の米大統領選で優位に立ったの見方が広がった。 

 この見方を裏付けるように15日のNY市場では、ダウ平均株価が0.52%高の4万0211.72ドルに上昇。米長期金利は前営業日の4.18%から4.23%に利回りを切り上げた。このままトランプ氏優位の選挙戦が展開されれば、11月5日の投開票日を待たず、夏場の段階から米株高・米長期金利上昇という「トランプ相場」が市場を席けんする可能性が高まるだろう。

 ただ、その先にインフレ懸念が現実化すると、トランプ氏をめぐる内外情勢は一変するかもしれない。トランプ氏が大統領に再選された場合、最大の脅威はインフレになる可能性がある。

 

 <米株高と長期金利上昇>

 15日の米株式市場では、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長がインフレの2%目標への回帰に向け「さらなる進展」が見られたと述べて9月利下げへの思惑が一段と高まり、トランプ相場への期待感と相まってダウだけでなくナスダック総合も0.4%上げて取引を終えた。 

 株式市場以上にトランプ相場を意識したのは米債市場で、10年債だけでなく30年債も前日に4.440%から4.459%に利回りが上昇した。トランプ氏の政策は、1)トランプ減税の恒久化、2)輸入品への高率関税、3)移民管理政策の強化──と財政赤字の拡大や物価・人件費の上昇を招きやすい政策が並び、米国債のリスクプレミアムを押し上げる要因が多いとマーケットが判断しているためだ。

 トランプ相場の第1段階では、トランプ氏の大統領再選の現実味が増してきたことをはやして、米株高と米長期金利の上昇が並立する現象が続くだろう。特にFRBの9月利下げへの期待感が株高の背中を押す展開となると予想する。

 

 <25年に待ち受けるインフレリスクの再燃>

 だが、どこかの段階で米長期金利の上昇が米株高の頭を押さえる展開になるのではないか。住宅ローン金利の上昇による住宅建設への下押し圧力や、借入金利の上昇による一部企業の財務悪化などが「米景気の足を引っ張る」との指摘を受け、米株式市場に重苦しいムードが漂い始める局面が、年内のどこかで到来するのではないか。これがトランプ相場の第2段階と言える。

 もし、トランプ氏が大統領選に当選した場合、来年1月の大統領就任式後に待ち受けているのは「インフレ懸念」だと筆者は指摘したい。

 すでに説明したように、トランプ氏の政策は物価を押し上げる要因にこと欠かない。中でも違法移民と認定した人々の強制送還は、サービス業などでの人手不足を再燃させ、対中関税などの関税の大幅な引き上げは輸入物価の大幅な上昇を招くだろう。モノとサービスの両面で米国の消費者物価指数(CPI)は大幅な上昇圧力を受けかねない。

 足元におけるバイデン政権の支持率伸び悩みは、インフレ上昇による「生活苦」に対する不満が背景にあったとみられている。トランプ氏は同じインフレへの不満を政権再発足直後に抱えることになりかねない。

 さらに厄介なのは、トランプ氏が金融政策の引き締めに常に反対してきた経緯があり、インフレ再燃のリスクが高まってきた際に、FRBへの圧力を強めて「利上げに反対」の声を上げかねない点だ。これはマーケットが敏感に反応しかねないポイントで、米長期金利の上昇に弾みがつくだろう。これが第3段階だ。

 何より問題なのは、インフレ顕在化の際に「金融引き締め」を否定すれば、消火が不能な火事になりかねないことだ。仮にそこまで問題が顕在化すれば、トランプ相場で上げてきた米株式は、一気に下げ相場へと転換するだろう。

 

 <年明けに米インフレ再加速なら、日本経済に逆風も>

 トランプ相場の日本への影響がどうなるのか──。第1段階では、日本株もつれ高して国内景気にも明るい兆しと受け止められるだろう。日銀が利上げ戦略を構想しているなら、かなり強い追い風になると予想する。

 しかし、第2段階から雲行きが怪しくなり、第3段階に入った場合は日本経済への逆風がかなり意識される展開になるのではないか。

 トランプ大統領が再登場した場合、輝くような「光」の面と暗い「影」の面のコントラストの強さに注意しないと、想定外の損失を負いかねないリスクが存在している。

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円買い介入はあったのか、公的年金の思惑も 遠くなった1ドル150円

2024-07-12 13:05:43 | 経済

 7月11日のNY市場でドル/円が一時157.44円と4円超の急落となり、市場では政府・日銀によるドル売り・円買い介入が実施されたのではないかとの観測が広がった。一部のメディアは「介入実施」と報道したが、多くの報道機関は12日午後の段階で神田真人財務官による「コメントしない」との発言を伝えているだけで断定していない。

 

 <深夜に神田財務官がメディア対応>

 普通なら財務省内にいない時間帯である11日深夜、神田財務官がわざわざ廊下に出てきて「コメントする立場にない」と発言したのも、6月米消費者物価指数(CPI)の発表後、弱いデータが出てドル売り・円買いが優勢になれば、そこで背中を押す介入を実施するため、用意周到に準備していたからではないかとの観測も一部に出ていた。

 他方、今回の弱いCPI発表後に9月の米連邦準備理事会(FRB)による利下げ観測が台頭し、本来なら上昇してもおかしくないナスダック総合が1.95%も下落したことから、米株とドル/円で利益確定の売りが出たとの見方もあった。実際、CPI発表後に市場の9月利下げ確率は70%台から90%超へと上昇しており、ナスダックだけでなくドル/円でも利益確定のドル売りが出た可能性がある。

 

 <公的年金の動向に関心も>

 さらに市場の一部で疑念を持たれているのは、公的年金の動向だ。財務省の投資家部門別対外証券投資によると、6月中に信託銀行の信託勘定が対外証券を2兆9224億円売り越しており、まとまった円買い注文を出している数少ない主体として、一部の市場関係者から注目されてきた。

 今回、米CPI発表直後に50銭程度のドル安・円高となったが、そこで公的年金筋が大規模な円買いを実行したとの見方が一部でささやかれている。

 

 <存在感高めた神田財務官>

 また、米財務省は1日の価格変動が大きくないケースでの一定の水準を意識した介入には難色を示してきており、もし、11日のドル安・円高が介入による変動であれば、米財務省から水面下でクレームが来る可能性があり、日本当局がそれを承知で介入を実施するにはハードルが高いとの見方も市場の一部にある。 

 いずれにしても神田財務官が介入の有無にコメントしなかったことで、市場では様々な思惑が交錯し、当面は当局が市場に対して優位に立ったことは間違いない。ある意味で神田財務官の存在感が際立って大きくなったともいえる。

 

 <円高への転換、日米政策金利差が400bpになる必要>

 ただ、マーケットの中には冷めた声もある。いったん157円台に下落したドル/円も12日の取引で159円台まで上昇するなど円の弱さをかえって印象付ける展開にもなった。9月にFRBが利下げし、年内2回の利下げが射程圏に入り、日銀が年内のどこかで1回の利上げに踏み切ったとしても、日米の政策金利差は現状の525ベーシスポイント(bp)から450bpにしか縮小しない。

 円安基調から円高基調へのトレンド転換には400bp程度までの金利差縮小が必要とみられており、ここから円高基調へと大きく変化するのは難しい。筆者は、今回の乱高下を経て逆にドル/円の150円は「遠い」との印象を深めた。

 

 <9月利下げと米ハイテク株の動向、日本株の再浮上要因に>

 一本調子で上昇してきた日経平均株価は11日に4万2000円を割り込んで取引を終了したが、この背景には、ここまでの上昇過程で日本株買い・円売りの取引が活発になっていたことがあり、円高による巻き戻しの取引が表面化したとことが影響したとみている。

 円安から円高方向へのトレンド転換の可能性が低いと指摘してきたが、その前提に立てば、9月米利下げを織り込んで米ハイテク株が再び買われ出し、それにつれて日本株の上昇も再開する可能性があると予想する。

 市場の様々な思惑をかき立てた11日のドル/円変動の本当の理由は、7月31日に財務省が公表する介入結果で判明する。ぞれを受けて市場がどのように相場の先行きを織り込んでいくのか、今年後半の展開を大きく左右しそうだ。

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