ドナルド・トランプ氏の米大統領への返り咲きを有力視するマーケットでは、今年11月の米大統領選を前に「トランプ相場」が展開され、エネルギーや不動産などのトランプ銘柄を中心に株価が上昇しているが、外為市場では方向感が定まっていない。その背景には、トランプ氏の政策を推進していけばドル高になるとの見方と、トランプ氏自身がドル高の弊害を強く主張しているためドル安・円高になるとの見方が交錯しているという事情がある。
筆者は、11月5日の米大統領選・投開票日ごろまではドル高傾向の相場が続き、トランプ氏が当選した場合は2025年1月の大統領就任式以降にドル安・円高圧力がかかるという「2段階相場」の展開を予想する。トランプ氏の矛盾に満ちた政策パッケージが外為市場の参加者を悩ますことになりそうだ。
<低金利と低課税、米株高要因>
トランプ氏は6月25日にブルームバーグ・ビジネスウイークと単独インタビューし、経済政策の要点は「低金利と低課税」だと指摘し、現在は21%の米法人税率の引き下げ方針を明確に示した。同時に対人民元、対円でのドル高がはなはだしく、米輸出企業にとって大きな負担になっているとの見解を示した。また、米大統領選前の米連邦準備理事会(FRB)による利下げは、やってはならないとわかっていることだと指摘し、FRBをけん制しつつ、パウエルFRB議長が正しいことをするならば、2026年5月までの任期を全うさせる考えも示した。
マーケットでは、所得税などを対象にしたトランプ減税の恒久化や法人税減税などは米株にとってプラスであり、米株式市場への資金流入は継続すると予想する声が多数派を形成している。また、輸入品への一律課税(日欧などの同盟国には10%)は日本や欧州には不利であり、いずれ日欧株売り・米国株買いのフローも多くなるとの声も出始めている。
このような米株取引に伴う資金フローは、大幅なドル買い需要を生み出して外為市場でドル高基調が続くとの予想が「トランプ相場」における解説として聞かれることが多い。米株高とドル高がリンクするとの推論は合理的にみえる。
<ドル安と金融緩和志向のトランプ氏、円高材料に>
一方で、上記に示したようにトランプ氏はドル高は米輸出企業にとって「害悪」との見解を示し続けており、今後、米大統領選でトランプ氏の優位がさらに明確になれば、ドル高けん制発言の意味を重く受け止めて「いずれドル安に転換する」と早めに見切りをつける市場参加者が増える可能性もある。
さらに今年9月の米利下げを織り込む見方が上昇中ということもあり、16日のNY市場では、10年米国債利回りが前日比6ベーシスポイント(bp)低下の4.167%と、3月13日以来の低水準となった。
ここに、金融緩和は「善」というトランプ氏の持論も加わって、FRBの利下げ決断をさらに加速させる力が、来年1月以降に働くことも視野に入れる必要が出てくるだろう。
こうしてトランプ相場におけるドル/円は、ドル高・円安なのか、それともドル安・円高なのか見方が収れんしないままの地合いが生まれた。
<11月までドル高/以降はドル安、2段階相場の可能性>
トランプ氏が11月に当選したと仮定した場合、筆者はトランプ氏の当選が確定するまではドル高が優勢となり、当選が決まった後にドル安の動きを探る動きが出始めると予想する。この「2段階相場」を予想する最大の理由は、ドル高をけん制したり、FRBに圧力をかけるなど政治的行動は、来年1月20日の大統領就任式以降でないと実効性を持ちにくいという面があるからだ。
ただ、米大統領選は長丁場であり、11月5日の投開票日までに米民主党サイドが大きく巻き返せば、形勢が大逆転する可能性も残されている。そのケースでは、このコラムで想定した前提が総崩れとなり、全く別の相場展開となるだろう。政治と相場の関係は、決めつけが最大のリスクかもしれない。