注目されていた米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長のジャクソンホール会議での講演は、労働市場の悪化懸念に対して「あらゆる措置を講じる」と述べて、市場によりハト派との印象を与えた。マーケットは2024年中の100ベーシスポイント(bp)の利下げ織り込みを変えず、26日午後の東京市場でドル/円は一時、143円後半までドル安・円高が進んだ。
ただ、8月5日のような141円台への急速な円高や、日経平均株価が3万1000円台に急落する動きはなく、年内に100bpの利下げがあったとしても、ドル/円は144円前後、日経平均株価は3万8000円前後で推移するという「新たな均衡点」が見出だされた可能性がある。今後は9月17-18日に開催される次の米連邦公開市場委員会(FOМC)で示される2025年の金利予想(ドットチャート)が大きな材料として意識されそうだ。
<パウエル議長、防衛的利下げに踏み出す>
ジャクソンホール会議におけるパウエル議長の講演で特徴的だったのは、市場の年内利下げ100bpという織り込みに対し「頭から水をかける」ことはしなかったという点だ。
まず、パウエル議長は「インフレ上振れリスクは後退し、雇用への下振れリスクが高まった」と指摘して、これまで再三にわたって懸念してきたインフレの動きではなく、雇用の下振れリスクへの対応がFRBの最優先課題であることを明言した。
そのうえで「労働市場のさらなる減速を目指しておらず、歓迎もしない」と指摘。「力強い労働市場を支えるためにあらゆる措置を講じる。政策の制約を適切に緩和すれば、力強い労働市場を維持しつつインフレが2%に回帰すると考える十分な理由がある」と述べた。
これは、事実上、景気や雇用に明確なダウンサイドのサインが出なくても、そのリスクが認識でれば「防衛的な利下げ」に踏み切る決意を示したと受け取れる強い意思表示だったと解釈できる。
パウエル議長は、利下げの時期とペースについては「今後発表されるデータや変化する見通し、リスクのバランスによって決まる」と述べ、明言を避けた。中銀トップとしては当然の「言い回し」だったが、市場参加者の多くは、景気がよりスローダウンする気配を見せれば、年内3回のどこかの会合で50BPの利下げの可能性があり、年内100bpの利下げの可能性があるとの見方を変えなかった。
言い換えれば、パウエル議長はあえて市場の織り込みを強く否定せず、期待感を残して今後の米雇用統計のデータ次第では50bp利下げの可能性もあることをえん曲に示したと筆者は考える。
<ドル143円台と日経平均株価3万8000円、新たな均衡点か>
一方、26日の東京市場における市場反応は、筆者が想定した最もドラスティックな値動きと比べれば、かなりマイルドな展開だった。ドル/円は欧州勢が本格的に参加してきた午後3時以降、144円を割り込んで143円後半での取引となったが、それまでは144円台で推移する時間帯が長かった。
8月5日に141円台までドル安・円高が急進展したのと比較すれば、円高のテンポはかなりゆっくりだった。それを反映して、日経平均株価も3万8110円22銭で26日の取引を終えた。年内に米利下げが100bpの幅で実行されても、ドル/円の143円台や日経平均株価の3万8000円前後が「新たな均衡点」として市場で意識されていることをうかがわせた。
<ドルベースの日経平均株価、最高値から微減で踏みとどまる>
この動きは「円高で日本株には負担が増大する」という見方に、修正の余地があることを示しているのではないか。
例えば、日経平均株価の最高値4万2426円77銭をドルベースで評価すると、267.56ドルとなる。26日終値のドルベースは264ドル台で、円評価の印象とは全く別の世界が広がる。つまりドルでみた日経平均株価は円高の影響で微減にとどまっており、海外勢は日本株をしばらくホールドして様子見を見る時間的余裕があるということだ。
もし、FRBの利下げ姿勢と日銀の利上げ姿勢が年明けにかけて変わりがないなら、円安リスクの低下を前提に成長性の高い日本企業の株式を購入するメリットが増大することを意味する。したがって東南アジアなどの新興国株の物色をドル安進行とともに進めつつ、いったん買いが一巡した段階で日本株が物色される可能性がかなりあると指摘したい。
<25年末のドットチャート、中央値が3.00-3.25%なら円高進展も>
以上は当面の市場動向だが、年明けを展望した場合は2025年のFRBの利下げパスがどうなるかが大きなポイントになる。パウエル議長は中銀マンの言葉遣いのルールを遵守して「データ次第」との表現を継続して使用するだろうが、マーケットは本音を探り出そうとする。その際に有力な材料となるのがドットチャートの分布だ。
市場は現在、2025年末の米政策金利の水準を3.00-3.25%と予想している。9月に公表されるFOMCメンバーの予想の中央値がこの市場予想に接近するなら、ドル/円は一段とドル安・円高に動くだろう。どこかの時点で140円を割り込み、135円台までドル安・円高が進行する可能性もあると筆者は予想する。
<円高テンポのカギ握る日銀の利上げパス>
円高のテンポは、日銀の利上げパスからも大きな影響を受けるだろう。市場の日銀利上げの織り込みは来年1月で12-13bpにとどまっているが、この織り込みが進みだすと、ドル安・円高のスピードが増すことになる。
その際に日経平均株価がどの水準で落ち着くかは、日本企業の業績の先行きに左右されるが、米経済が失速を回避し、ソフトランディングの可能性が高まりつつ、米株価もさらに堅調推移が続くなら、どこかの段階で日本株に上値模索の動きが出てくる余地があると予想する。株式市場の「円高恐怖症」がこの先、どこかの時点で和らぐのではないかとも感じている。
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