
▼映画「We Live in Time この時を生きて」
若き天才シェフとして将来を嘱望されているアルムートと、妻と離婚したばかりで落ち込んでいるトビアス。
自由奔放に生きるアルムートと、石橋を叩いて渡るトビアスはある日運命的な出会いを果たし、
気がつけば共に暮らし、やがて愛娘を授かって三人家族となった。
しかし幸せな日々は長くは続かず、ある日、アルムートが余命幾許もない病に冒されていることが発覚。
残された時間を家族で一緒に過ごしたいトビアスと、与えられた時間で生きた証を遺したいアルムート。
価値観の異なる二人の姿を通して「限りある時間を、誰とどのように生きるか」を描くラブストーリー。
妻のアルムートには「ミッドサマー」フローレンス・ピュー、
夫のトビアスは「アメイジング・スパイダーマン」シリーズのアンドリュー・ガーフィールド。
脚本は「ベロニカとの記憶」のニック・ペイン。
監督は「ブルックリン」「ザ・ゴールドフィンチ」のジョン・クローリー。
製作総指揮には、名優ベネディクト・カンバーバッチが名を連ねている。


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あの日 あの時 あの場所で 君に会えなかったら 僕等は いつまでも 見知らぬ二人のまま
(*「ラブ・ストーリーは突然に」小田和正より)
シェイクスピアは「人生は選択の連続である」(「ハムレット」)と書いた。
かけがえのない家族、生涯の友、馴染みの店、人生の大切なパートナーである愛犬。
私たちは日々無数の選択をし、選択の結果が生む奇跡の中で生きている。
一瞬が一日を作り、一日が折り重なって一年になる。
あの日の映画を見ていなければ、あの日一本早い電車に乗っていたら、
あの日ペットサロンに立ち寄らなければ、今の私はここにいないかも知れないし、
見知らぬ土地で見知らぬ人と暮らしていたかも知れない。
この映画は、無数の奇跡をくぐり抜けて出会い、「二人」になった一人と一人の物語である。
子を授かり三人家族になった瞬間に訪れた試練はあまりにも過酷なものだった。
限りなく勝率の低い闘いを前に、それでも立ち向かうか、有意義な時間を過ごすか。
三人で過ごした時間はまだあまりにも短い。
夫は少しでも多く三人の思い出を刻みたいと願い、余命を宣告された妻は
残された時間の中で「最高に輝いているママ」を子に見せたいと願った。
二人の選択はきっとどちらも正しい。
映画は「あなたならどうですか?」とずっと問いかけてくる。
治療法の選択や家族の心得について、私も過去に似たような経験をしているだけあり
アルムートの怒りや焦りも、「自分が泣いてはいられない」と
必死に笑顔を作るトビアスの苦しみもよくわかる。
記憶とは気ままなもので、印象深い想い出や最高の瞬間を特別扱いするように出来ている。
この映画も同様に、二人の歴史を時間軸を交錯させながら走馬灯のように描いている。
初めのうちは面食らったが、思い出とはお行儀よく時系列順に蘇るものではないことを表す
効果的な手法であると段々わかってくる。
出産手前の二人、告知を受けた時の二人、出会った頃の二人、、、
トビアスとアルムートにとって、人生で最も濃密だった数年間の記憶が
次から次にシームレスに描かれるのは、きっとこの映画がトビアスの記憶に基づいた
「娘に聞かせるお母さんとの話」だからなのかなと私は解釈した。
亡くなった人との想い出は増やすことが出来ない。
だからこそ、アルムートは「あの時のお母さんカッコ良かったよね」と
自分のいなくなった後の世界で二人に思い出してもらいたかったのではないか。
現実的に側に居られないなら、せめて記憶に棲みたいという切なる願い。
卵を割る時のコツは、トビアスにとってはアルムートとの大切な思い出であり、
娘にとっては、これから刻まれていく父との思い出のひとつになる。
娘の中で、確かにアルムートは生きていくのだ。
「泣ける感動作」然とした演出ではないので
さぁ泣くぞと思って劇場に足を運んだ方は拍子抜けしかねないが
時間が経つほどに、しみじみと余韻が胸に広がる良作。
(私の中では、そろそろ人生のベスト20入り目前)
映画「We Live in Time この時を生きて」は2025年6月6日公開。
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▼今日のエンディング・特別編
Jess Glynne - Hold My Hand [Official Video]
「We Live in Time この時を生きて」は、フローレンス・ピューの芝居が節々に
バイセクシュアル、またはパンセクシュアルを匂わせているのは冒頭から気づいていたのだが、
アルムートが同性の弟子と単なる師弟関係を超えた強い信頼関係で繋がり、
ついに国を背負っての大会に出場した時、入場のシーンで流れたのが
ジェス・グリンの世界的大ヒット曲「Hold My Hand」だったことでストンと胸に落ちた。
(ジェス・グリンは2015年にバイセクシャルであることをカミングアウト済み)
映画の中でアルムートのセクシャリティについて語るシーンはワンカットも出てこない(こなかったと思う)が、
性自認について敢えて触れないことで「改めて問うまでもないこと」とのメッセージを含ませ、
トビアスとアルムートの二人の物語として描き切ったことが素晴らしかった。
「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」でマイノリティを演じた
ベネディクト・カンバーバッチが製作に加わっているのも、本作の物語に何かしら感じるところがあったのかも知れない。