米国では、1999年以降、ペインクリニックや透析センターで相次いで報告されたB型肝炎やC型肝炎の院内感染事例の調査から、原因として注射薬の「不適切な使用」が原因だと判断しました。「不適切な使用」とは、「同じシリンジを、針だけ変えて別の患者さんにも使う」「単回使用のバイアルを複数の患者さんに使用する。その際の手技として、針だけ変えて、シリンジは何回も同じものを使う」といったことです。
CDCは、具体的な解決策として、The One and Only Campaignを始めました。
メッセージは、「1本の針、1本のシリンジを1回だけ使う」です。
外来のための安全な注射手技のガイドラインも発行しました。
ビデオも、ポスターも作りました。
5月にはPosition paperも出しました。ここには、間違いやすいポイント(つまり、押さえておきたいポイント)が表でまとめられています。
CDCがこのキャンペーンで作成したビデオは職業感染制御研究会のホームページで日本語訳で見ることができます。
しかし、事件はなくなりません。2007年以降、単回使用バイアルや単回使用の手技に関わるアウトブレイクが20件、CDCに報告されています。
2012年4月、アリゾナで単回使用バイアルが感染源となった事例が発生してしまいました。
とあるペインクリニックから3人の患者の血液培養でMRSA陽性の報告があった。保険局の調査により、この3人は同じ日に注射を受けており、他に25人の患者もこのクリニックで注射処置を受けたことが明らかになった。二人はステロイド注射、一人はブロック注射を受け、また、この患者たちは針の位置を確認するための造影の前に造影剤の注射を受けていた。
調製方法に注目!
造影剤は1バイアル10mL、生食も1バイアル10mL。2組の新しいシリンジと針を準備。1本のシリンジと針でそれぞれのバイアルから5mLずつ抜き取り、合計10mLを別のバイアルに注入。これで、2分の1に希釈された造影剤10mLが2バイアル完成。調製は当日の朝、患者が到着する前に「処置室で」「マスクをせず」行われていた。
1本は午前、もう1本は午後の診療に使用。MRSA感染症発症者は3人とも午後にこの希釈造影剤を投与されていた。
残念なことに、実際に手技に使用したシリンジや針の取り扱いについては、このレポートでは触れられていませんでした。しかし、同じバイアルを使用した患者で複数感染、ということから、調製の段階での汚染か、あるいは、使用の際のバイアルの取り扱いに問題があったと思われます。
さらに、もう1事例。デラウエアの整形外科からも7例の局所のMSSA感染が報告されていた。
こちらは、全例、膝やおしりなどの局所に麻酔薬ブビバカインが投与されていた。調査から、そのうち5人は同日に局所麻酔が投与されており、他にも3名が同様の感染症を訴えていたことがわかった。(培養検査はされていない)
使用されたブビバカイン、このクリニックでは、「10mLの単回使用バイアル」を採用し、「1人の患者に1バイアル」としていた。ところが、全国的な品不足が発生し、「30mLの単回使用バイアル」を購入して複数患者に使用し始めた。ちなみに、1回に使用するのは1~8mL。調製は、「清潔な区別された調製室」で前もって調製されていました。
調製方法に注目!
30mL単回使用バイアルになってからは、いったん開封すると、空になるまで複数の患者に使用され、時に、棚に翌日まで保管され、翌日にまたがって使用されることもあった。
その後の調査から、注射薬を調製したスタッフから採取されたMSSAが患者からのものと分子疫学的に一致していることがわかった。
ここにも、複数の問題点が潜んでいます。「調製エリアは別になっている」これはとてもいいことです。が、スタッフが調製する際に、バイアルの残液を汚染させてしまい、その後、引き続き使用した患者に感染させてしまった可能性があります。また、質問で「一晩放置されたバイアル」を翌日使用したのも、大問題です。
事例は、MMWR7月12日号に掲載されています。
このレポートの「Editorial Note」に大切なことが書かれています。
これらのアウトブレイクに共通していたことは、
・一番小さいバイアルでも、1人に使用するよりも多い量、つまり、複数人数に使用できる容量の製剤しかない。
・低濃度の造影剤も販売されてい入るが、安定供給に不安がある。
「言い訳」といえばそうなのですが、ここが構造的に解決されれば、つまり、「一人分の容量の単回使用バイアル」が「安定供給」されることで、同様の事故は回避されます。
今回の事例では、無菌調製のテクニックにも問題がありました。
ここで取り上げられているUSP797は米国無菌調製のガイドラインですが、そこには調製はクリーンベンチ内で行うことが書かれています。すぐに使用する場合に限り、ベンチの外での調製が可能だが、そのためには6つの条件をきちんとクリアした使い方ができることが前提です。
USP 797による「直ちに使用する無菌製剤の調製」の6つの条件は、以前のブログに記載しました。
「失敗から学ぶ」は、よく言われることですが、「どう学ぶのか」をテクニックとして身につけないと、「間違わないようにしよう!」という、精神論的呼びかけになってしまいます。
誰も、間違おうと思って間違うわけではないのです。「反省しなさいよ!」「気をつけよう!」(という、精神論)ではなく、「なぜ、間違ったのか」を突き止めるための、「なぜ?」「それは、なぜ?「それは、なぜ?」(という、論理の組み立て)が有効だといいます。
仕組みや構造を変えることで、間違いようのない方法・、記憶に頼らない方法・手技が可能になります。
CDCは、具体的な解決策として、The One and Only Campaignを始めました。
メッセージは、「1本の針、1本のシリンジを1回だけ使う」です。
外来のための安全な注射手技のガイドラインも発行しました。
ビデオも、ポスターも作りました。
5月にはPosition paperも出しました。ここには、間違いやすいポイント(つまり、押さえておきたいポイント)が表でまとめられています。
CDCがこのキャンペーンで作成したビデオは職業感染制御研究会のホームページで日本語訳で見ることができます。
しかし、事件はなくなりません。2007年以降、単回使用バイアルや単回使用の手技に関わるアウトブレイクが20件、CDCに報告されています。
2012年4月、アリゾナで単回使用バイアルが感染源となった事例が発生してしまいました。
とあるペインクリニックから3人の患者の血液培養でMRSA陽性の報告があった。保険局の調査により、この3人は同じ日に注射を受けており、他に25人の患者もこのクリニックで注射処置を受けたことが明らかになった。二人はステロイド注射、一人はブロック注射を受け、また、この患者たちは針の位置を確認するための造影の前に造影剤の注射を受けていた。
調製方法に注目!
造影剤は1バイアル10mL、生食も1バイアル10mL。2組の新しいシリンジと針を準備。1本のシリンジと針でそれぞれのバイアルから5mLずつ抜き取り、合計10mLを別のバイアルに注入。これで、2分の1に希釈された造影剤10mLが2バイアル完成。調製は当日の朝、患者が到着する前に「処置室で」「マスクをせず」行われていた。
1本は午前、もう1本は午後の診療に使用。MRSA感染症発症者は3人とも午後にこの希釈造影剤を投与されていた。
残念なことに、実際に手技に使用したシリンジや針の取り扱いについては、このレポートでは触れられていませんでした。しかし、同じバイアルを使用した患者で複数感染、ということから、調製の段階での汚染か、あるいは、使用の際のバイアルの取り扱いに問題があったと思われます。
さらに、もう1事例。デラウエアの整形外科からも7例の局所のMSSA感染が報告されていた。
こちらは、全例、膝やおしりなどの局所に麻酔薬ブビバカインが投与されていた。調査から、そのうち5人は同日に局所麻酔が投与されており、他にも3名が同様の感染症を訴えていたことがわかった。(培養検査はされていない)
使用されたブビバカイン、このクリニックでは、「10mLの単回使用バイアル」を採用し、「1人の患者に1バイアル」としていた。ところが、全国的な品不足が発生し、「30mLの単回使用バイアル」を購入して複数患者に使用し始めた。ちなみに、1回に使用するのは1~8mL。調製は、「清潔な区別された調製室」で前もって調製されていました。
調製方法に注目!
30mL単回使用バイアルになってからは、いったん開封すると、空になるまで複数の患者に使用され、時に、棚に翌日まで保管され、翌日にまたがって使用されることもあった。
その後の調査から、注射薬を調製したスタッフから採取されたMSSAが患者からのものと分子疫学的に一致していることがわかった。
ここにも、複数の問題点が潜んでいます。「調製エリアは別になっている」これはとてもいいことです。が、スタッフが調製する際に、バイアルの残液を汚染させてしまい、その後、引き続き使用した患者に感染させてしまった可能性があります。また、質問で「一晩放置されたバイアル」を翌日使用したのも、大問題です。
事例は、MMWR7月12日号に掲載されています。
このレポートの「Editorial Note」に大切なことが書かれています。
これらのアウトブレイクに共通していたことは、
・一番小さいバイアルでも、1人に使用するよりも多い量、つまり、複数人数に使用できる容量の製剤しかない。
・低濃度の造影剤も販売されてい入るが、安定供給に不安がある。
「言い訳」といえばそうなのですが、ここが構造的に解決されれば、つまり、「一人分の容量の単回使用バイアル」が「安定供給」されることで、同様の事故は回避されます。
今回の事例では、無菌調製のテクニックにも問題がありました。
ここで取り上げられているUSP797は米国無菌調製のガイドラインですが、そこには調製はクリーンベンチ内で行うことが書かれています。すぐに使用する場合に限り、ベンチの外での調製が可能だが、そのためには6つの条件をきちんとクリアした使い方ができることが前提です。
USP 797による「直ちに使用する無菌製剤の調製」の6つの条件は、以前のブログに記載しました。
「失敗から学ぶ」は、よく言われることですが、「どう学ぶのか」をテクニックとして身につけないと、「間違わないようにしよう!」という、精神論的呼びかけになってしまいます。
誰も、間違おうと思って間違うわけではないのです。「反省しなさいよ!」「気をつけよう!」(という、精神論)ではなく、「なぜ、間違ったのか」を突き止めるための、「なぜ?」「それは、なぜ?「それは、なぜ?」(という、論理の組み立て)が有効だといいます。
仕組みや構造を変えることで、間違いようのない方法・、記憶に頼らない方法・手技が可能になります。