感染症疫学の風

感染症疫学について、薬剤師と一緒に語りませんか?

新しくなったUCLA Medical Center その2 危機管理とは

2010年08月02日 | 疫学
UCLA Medical Centerでは、感染症薬剤師、薬品管理薬剤師、情報管理薬剤師にお話を聞くことができました。ここでの気づきは、「危機管理」でした。

院内を案内してもらい、作業効率や患者安全に対する配慮がよくわかりました。

病棟はもちろんのこと、ICUも救急外来でさえも、全て個室でした。救急外来は「軽症コーナー」「中等症コーナー」「重症コーナー」に分かれており、それぞれにナースステーションや医薬品管理室が配備され、スタッフもそれぞれに置かれています。

病棟は、ドーナツ状に病室が配置され、コーナー毎にナースステーションが配置されています。

ステーションとは言っても、オープンスペースにカウンターとコンピュータを配置したような作りで、通り道のようなイメージ。そこには、医薬品などは一切置かれていません。

ドーナツの「穴」の部分にスタッフしか入ることができない空間があります。
ここに、医療器具、Pyxis(救急薬が入っている機械)が配置されています。写真右奥のグレーのボックスがPyxisです。



Pyxisはパスワードで施錠された救急医薬品カートのようなものです。

「頓用」する内服・外用・注射薬が入っており、ナースは、必要に応じて、自分のコード、患者番号、必要な医薬品をエントリーします。必要な引き出しのみが開く仕組みになっており、取り出し間違いを極力減らすことができます。また、1薬剤1用量を徹底しており、「注射液を半分使用」などの対応は、ナースではなく、病棟薬剤師がすることが病院のルールとして決められています。

以前は、そこまでの徹底が難しかったのですが、カリフォルニア州で起きた医療事故から、州法として、医薬品調製からナースや医師を遠ざけ、できる限り薬剤師が関与するような対策が進んでいます。

もちろん、「全て」というのは難しく、事実、この病院では、現時点では救急外来には薬剤師が配置されておらず、病棟薬局にある注射調製のためのキャビネットもありませんでした。

注射薬は、施錠された閉鎖空間(小部屋)にあり、その中でシリンジに吸う、という単純な作業のみを行い、すぐに投与する、ことになります。そのため、できる限りシリンジタイプの注射液を採用し、用量は1種類のみ、のルールが徹底されていました。

各病棟には病棟薬局があり、そのいくつかには医薬品調製のためのキャビネットが配置され、テクニシャンが対応します。写真は病棟薬局の中の様子です。中央は抗がん剤などの危険薬剤用の安全キャビネット、右手は通常の注射薬の調製用のキャビネットです。



ここで調製するのはFirst Dose(初回投与分)のみ。2回目以降は全て薬剤部の医薬品調製室で対応します。キャビネットのない病棟の対応もするそうです。24時間稼働している「キャビネットのある病棟薬局」は1カ所のみとのことで、夜間は全ての病棟の緊急投与、First Doseに対応するそうです。救急外来の対応もここでします。

注射調製のルールは、連邦政府の定める法律、州の法律、病院機構(JCHO)の規定に加えて、USP DI797に沿って作られています。規定に従わなければ基準をクリアできず、病院の収入に影響するため、対策が進めやすい、という見方もできるかな、と感じました。

感染対策を知るのが訪問の目的でしたが、安全対策と分けて考えることはできません。

「危機管理」は、感染症治療、感染対策、安全対策、それら全てを串刺しにする視点にたって、初めて見えてくるのだと強く感じました。


話は変わりますが、カリフォルニアはCaucasian(いわゆる白人)がマイノリティーというちょっと特殊な州で、ヒスパニック、アジアなど、いろいろな人種が混じり合うところです。そのためか、Japanese Englishでも聞き取ってくれる人が多く、私にとっては、とてもリラックスできる土地の一つです。

病院でも、薬剤部の情報室や製剤室、病棟薬局、どこに行っても、数人のうち一人は日系人がいます。今回の訪問のコーディネートをしてくれたのは、病院の管理部門の人ですが、この人も日系。人のつながりで知り合い、そのつながりがまた新しいつながりを生み出してくれます。忙しい時間の中、病棟を案内し、解説してくれたスタッフたちに感謝しています。

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