耳を洗う

世俗の汚れたことを聞いた耳を洗い清める。~『史記索隠』

今年初の“牡蠣(かき)”打ち~まずまずの収獲

2007-12-11 10:57:47 | Weblog
 九十九島の岩場につく“牡蠣”
(画像をクリックすれば拡大)

 昨日、“牡蠣”打ちに行った。まだ成育途上で殻は小さいが、身は締まっている。例年に比べ岩場についた“牡蠣”は少ないようだが、それでも300グラムほど獲れた。磯での漁は潮時と天候に左右され、月二回の大潮にうまくいけば二、三回獲りに行ける。年内は25日前後が大潮で、もう一回行けるかどうかお天道様のご機嫌次第である。

 現代の大規模養殖とは比較にならないだろうが、“牡蠣”は室町時代から養殖されていたという。“牡蠣”にも数種あるが、九十九島の岩場の“牡蠣”は、多分、「マガキ」ではないかと思われる。島のあちこちに養殖場があって、この季節になると観光船乗り場の催し場では、「“牡蠣”食い大会」などが開かれる。今では、真珠の養殖より“牡蠣”の養殖が盛んで、当地の年間生産量は約千トンである。

 参照:「カキ」http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%82%AD_(%E8%B2%9D)

 “牡蠣”はすぐれた栄養食品であると同時に、古くから多様な薬効で知られていた。たびたび引用する古典医学研究家の槇佐知子著『くすり歳時記』には「妊婦と牡蠣」と題し、平安後期の歌謡集『梁塵秘抄(りょうじんひしょう)』からこんな一節を引いている。

 <「択食魚(つはりな)に牡蠣(かき)もがな。唯一つ牡蠣も牡蠣、長門(ながと)の入海の其の浦なるや、岩の稜(そば)に着きたる牡蠣こそや、読む文(ふみ)書く手も八十種好紫磨金色足らうたる、男子(をのこご)は産め、」(梁塵秘抄)~(注:[択]の本字は旧字)

 「択食(つはり)」とは、いうまでもなく妊婦の症状の一つである。その時期に食べるべき栄養食品として牡蠣を挙げ、中でも長門の入江の岩かどについた牡蠣を推奨している。そして「これを食べて読み書きの教養をすべて身につけ、顔も身体も仏のような三十二相八十種好をそなえた上に純金の輝きを持つ男の子を産むように」と歌っているのだ。>


 “牡蠣”には造血作用があり、炎症を抑え、解毒作用がある。精神不安や不眠、あるいは女性の性器出血・おりものなどにも効能があるとされている。
 また、“牡蠣”の殻を粉末にしたものを「牡蠣(ボレイ)」といい、薬方生薬に使用されている。制酸、鎮静、解熱、収れんの方剤である。『漢方診療ハンドブック』(医歯薬出版)の「主な方剤」には「ボレイ」を使ったものに以下のものをあげている。

【安中散】(あんちゅうさん)
 7薬中に6g含む。[適応症]神経性胃炎・慢性胃炎・胃アトニー・胃、十二指腸潰瘍など
【桂枝加竜骨牡蠣湯】(けいしかりゅうこつぼれいとう)
 7薬中に10g含む。[適応症]自律神経失調症・不眠症・心身症・小児夜尿症・ノイローゼ・眼精疲労など
【柴胡加竜骨牡蠣湯】(さいこかりゅうこつぼれいとう)
 11薬中に6gふくむ。[適応症]高血圧症・ノイローゼ・てんかん・インポテンツ・不眠・心身症など
 (注:「竜骨」とは巨大動物の化石骨)

 中国では真珠を粉末にした美容薬が売られているが、“牡蠣”も昔から美容食品として珍重されていたらしい。西洋ではRのつかない月、つまり5、6、7、8月には食さないことは先の「参照」でも紹介されている。食中毒の季節とも重なり、用心に越したことはない。
 
 近年、「ノロウイルス」が話題になっているが、“牡蠣”の生産地は「風評被害」で大きな打撃を受けた。今は、各自治体が厳重な事前検査体制を敷いて、公的な安全確認を発表している。当市でも10月に「貝毒検査」を実施し「安全宣言」を出した。

 
 これからが旬の“牡蠣”を春先まで戴ける海の恵みに感謝したい。

 
 牡蠣食へり重たき肩を起しては      石田波郷