The Tsinghua Way !! (中国MBA報告)

中国北京の清華大学で06年9月より奮闘した知られざる中国MBAの体験記。08年7月に卒業しました!

中国ベンチャー投資ブーム再考

2006-12-06 | 投資

昨年あたりからだろうか、世界の投資家が一斉に中国ベンチャーキャピタル(VC)市場に目を向けだし、主に米国から中国VCファンドに大量の資金が集まった。中国VC市場にかなり薔薇色の絵を描くシンクタンクも多いが、中国のVCと仕事がら付き合っていて実際中国VC市場で儲けるのは手間隙もかかり、相当難しい業務だと実感していた。問題点も多い。運用するベンチャーキャピタリストも十分に国内で育成されていないし、数年以内に資金を回収できるベンチャー企業が本当に豊富に存在するか自体も考えないといけないだろう。何よりも今後の資本市場の動向が常に政府の政策如何で変わってくるリスクも存在する。

とはいうものの、中国の起業熱には相当なものがある。清華大学MBAでも「アントレプレナー、投資」同好会というのがあり、筆者もそれに入っている。この中には卒業後起業したい人(この忙しいなか既に起業している人もいる)や将来ベンチャーキャピタリストになりたい人がいる。清華大学IMBAのアラムナイには実際卒業後某米系ファンドで名を馳せている人もいる。私自身も某中国VCで働くアラムナイからいろいろなことを教わった。ただ彼がいった一言が今でも心に残っている。

「VCって実際ものすごくローカルな仕事だけど、、」

国境を跨ぐ日本企業が中国でVCをやるにはどのような優位性(劣位性)が存在するのか、またその中で日本人は果たしてどのような役割ができるか(できないのか)、常日頃から考えていた。 なお最近の中国VC動向について比較的まとまった記事が『Nikkei IT+PLUS』に出ていた(http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?ichiran=True&n=MMITbp000014112006&Page=1)。御参考まで。

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 世界第3位のベンチャー投資大国・中国をめざせ

【コラム】

中国の大学発ベンチャーの講演に参加者は圧倒された=9月、東京
日本では成熟産業における業界再編や企業再生などを目的としたM&A(企業の合併・買収)が相次いでいるが、隣国の中国ではベンチャーキャピタル(VC)が大ブームを迎えている。日本では「村上ファンド」への反応に見られたように「ファンド」という業種にいまだアレルギーが強いようだが、米国、イスラエルに次ぐVCファンド大国の中国では、ファンド関係者は憧れに近いまなざしを受けている。特にチャイナ・ドリームを夢見る若者にとっては、まさに「エンジェル」そのものといってもいい存在となっているのだ。(肖宇生の「中国IT最前線」)

■バブルを超えて再び訪れたVCブーム

2005年ごろから世界中のVCが再び中国に押し寄せている。中国では2000年のネットバブルでVCブームが起きたが、今回ははるかに鼻息が荒い。 統計によると、2005年だけで中国市場向けのVCファンドの投資総額は40億ドルに達した。この数字だけではピンと来ない方も多いと思うが、中国がアメリカ、イスラエルに次いで第3位の「VC大国」になったことを意味する。 今回の投資ブームでひときわ目立つのは、世界でファンド運用資金上位10位に入るVCファンドがすべて中国に進出したということだ。そのなかにはシリコンバレーでもっとも成功しているといわれているセコイア・キャピタルやKPCBも含まれている。特にセコイアは世界最大のVCファンドとしてこれまで500社以上に投資し、アップルコンピュータやシスコシステムズ、オラクル、ヤフー、グーグルなど200社以上を上場させた素晴らしい実績を持っている。中国では「シリコンバレーから北京、上海へ向かう便のファーストクラスはVCに占拠されている」といわれているほどで、その活況ぶりは驚くばかりだ。

■人材の現地化・投資分野の多様化

今回のVCブームは前回と勢いが似ているものの、いくつか重要な違いもある。世界の大手VCが本格参入してきたことに加え、「人材の現地化」も重要なポイントとして挙げられる。前回、投資家が米国と中国の間を行ったり来たりしていたのとは打って変わって、今回は現地のビジネスを熟知する現地人材を重視し、中国に腰を下ろしてビジネスを開拓するようになってきた。 2005年は人材の大移動の年になった。セコイアなどの新規参入組に先行組から人材が移動する場合もあれば、第1世代のネット企業の創立者たちがVCに転向するケースもある。すべての原因は、高まる現地化のニーズにより、中国のVC関係者が完全に売り手市場になったからだ。 さらに前回と大きく違うのは投資対象分野の広がりだ。2000年前後のVCブームでは主にポータルサイトを中心としたネット企業が主役だったが、今回はVCのカバー範囲が明らかに広い。もちろんネット企業はWeb2.0ブームのおかげで相変わらず重要分野の1つとなっているが、半導体や通信、バイオ、天然資源なども重要な投資先としてVCの頭にインプットされているのだ。 近年の徳信無線(通信)や中星微電子(半導体)、富基旋風(システム開発)などの非ネット系企業の米ナスダック上場は、ネット以外の分野のポテンシャルの高さをVCに見せつけた。ネットバブルの崩壊から、投資家は少なからず勉強させられたところがある。前回のネットバブル崩壊を助長した張本人ともいわれてきたVCは、失敗から学んで中国ベンチャー企業の育成を牽引する姿勢をアピールしている。

■中国生まれVCの胎動

これまでの中国VC市場の主役が外資系であったということは明らかだ。国民の貯蓄総額が14兆元(約210兆円)、外貨準備高も世界トップクラスの1兆ドルという中国でなぜ民族系のVCが育って来なかったのか?その原因は、中国国内の証券市場の未整備や金融制度の鎖国性にあるを言わざるをえない。 証券取引市場の不備や硬直化によって、中国ハイテクベンチャー企業の国内での上場は皆無だ。彼らのほとんどはナスダックを目指す。ナスダックは米国の取引所だから当然ドル建ての取引が必要で、外貨管理が厳しく人民元の自由な交換ができない中国の投資家は、投資したくてもできないのだ。 中国経済の発展に伴い、中国の大型国営企業の手元資金は増え続けている。手元資金が増えると、大株主の国から見ても資産の運用プレッシャーが増大する一方、海外に上場している企業にとっては株主に対しての説明ができなくなるのは目に見えている。 こうした背景から、近い将来中国生まれのVCが育つ道が開けてくると思われるが、現状では規制で金縛り状態の金融機関より、既にグローバリズムの洗礼を受けてきた製造業からVCに積極的に参入する動きが顕著だ。レノボ投資のように既にVC市場で活躍している企業もあれば、華為技術や中興通訊のように豊富な資金をバックに徐々にVC市場に参入してくる企業もある。 また、馬雲氏(電子商取引のアリババ創業者)や陳天橋氏(オンラインゲームの盛大創業者)、雷軍氏(ソフト開発の金山ソフト創業者)などに代表されるように、成功したベンチャー企業の経営者たちも個人エンジェルとしてVC市場を支え始めた。中国本土系VCはまさに黎明(れいめい)期であり、その胎動も徐々にはっきり聞こえ始めたといえるだろう。

■日系ファンドはVC育成をめざせ

ところで、日系のVCファンドはどうだろうか?残念ながらいまのところ、その存在感は薄いといわざるをえない。2005年の中国VC市場でのVCファンドトップ50には、ソフトバンク中国ベンチャーキャピタル(SCVC)が6位に入り健闘している以外、日本アジア投資とジャフコの2社が辛うじて26位と30位に入っただけ。ソフトバンクアジアファンド(SAIF)は中国で最も成功しているVCファンドとして今でも健闘している(ランキング2位)が、資金構成や経営陣はすっかり様変わりし、ソフトバンクの名前は残っているが、もはや日系ファンドとは呼べなくなってきた。 今年に入ってからソフトバンク・インベストメントがシンガポール政府の投資会社テマセク・ホールディングスと共同でVCファンドを立ち上げたが、ファンド金額(1億ドル)や投資案件状況から見てもいまだ手探り状態が続いているようだ。そもそも、日本のファンドは経営不振の企業をターゲットとした企業再生ファンドや、株式投資を通じてキャピタルゲインを狙う投資ファンドが主流。VCファンドについては馴染みが薄いうえ、規模も非常に小さい。 もちろん、日本経済自体が成熟化しているから仕方がないという要素もあるかもしれないが、常に活力を保つためには、ハングリー精神旺盛なベンチャー企業の育成が不可欠だ。もちろんそこはVCファンドが重要な役割を果たす。日系ファンドが中国にもっと積極的に参入し、そこで得られた経験や育てたベンチャー企業を日本に連れ込んで日本の活性化につなげるのも悪くない選択肢ではないか。

[2006年11月14日]

-筆者紹介-

肖 宇生(しょう うせい)
野村総合研究所流通アジアプロジェクト室 略歴 1991年中国の大学を中退、来日。92年大阪大学経済学部に入学、96年卒業後に金融機関を経て99年一橋大学大学院経済学研究科に入学、修士号を取得。2001年大手電機メーカーで中国向けの携帯ビジネスに携わる。2003年に野村総合研究所に入社し、中国に進出する日系企業を対象にITコンサルティング、システム設計などを手掛ける。

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