【タイ山岳民族の村に暮らす】

チェンマイ南西200キロ。オムコイの地でカレン族の嫁と綴る“泣き笑い異文化体験記”

【商売繁盛の秘薬】

2009年11月20日 | オムコイ便り
 11月17日、火曜日。

 今朝は、6時半までぐっすり眠った。

 起きると、すぐに鶏に残飯を与える。

 鶏小屋の屋根裏においた寝籠を見てみると、すでに卵が6個になっている。

 このところ家にいないものだから、どの鶏が産んだのか分からない。

 1羽の雌鳥が台所の屋根の上で騒いでいるので、中に入って見上げてみると、なんと梁の隙間に卵を産んでいた。

 ということは、2羽が産卵中ということか。

 カレン族は、寝籠以外の場所で卵を産む母鶏を嫌うから、これをラーが知ったらすぐに絞めてしまいかねない。

 あわてて卵を寝籠に移し、今後の様子を見ることにした。

        *

 リンゴをかじりながら、店へ移動。

 ラーが仕込みに入り、私は洗いものに取りかかる。

 生ゴミ処理用の穴を掘っているところへ、甥っ子のジョーと従兄弟が手伝いにやってきた。

 今日は、家の庭から店の裏庭に竹のテーブルと木の長椅子を移すのである。

 すでに、家の庭からすべてを掘り出したというから、ふたりを荷台に乗せて家に戻り、すべてを積み込んでから、店にUターン。

 さすがに、竹のテーブルは風雨にさらされてかなり古びているが、それもまあ風情があっていいのではあるまいか。

 そうこうしているうちに、以前記事にしたこともある“ムショ帰りのミュージシャン”が挨拶にやってきた。

 刑務所を出た直後にわが家でクラプトンのDVDを一緒に観たのだが、その後体調が悪く、1ヶ月ほど入院していたそうだ。

 あのときの幽霊のような表情からすると、まるで別人のように元気になっている。

 しかも、友人の紹介でチェンマイのオープンエア(屋外)レストランで演奏することが決まり、明日チェンマイに向かうのだそうな。

 「服も、全部新調したんだよ」

 「へえ、それは豪勢だな」

 「もちろん、古着だけどね(笑)。このジーンズ、なんと補正料込みで50バーツ」

  見ると、それほど古びていはいない。

 「実は、俺たちも古着を扱おうと思っているんだ。村では、高い服を買える人はほとんどいないからな」

 「それじゃあ、古着屋の場所を教えるから今度行ってみれば」

 「ありがとう、助かるよ」

 「こちらこそ、本当にありがとう。村に戻って、この先どうしようかと思っていたときに、あんたに親切にしてもらって本当にうれしかった」

 「お互いさまだよ。店が落ち着いて時間ができたら、ぜひ演奏を聴かせてもらうからな」

       *

 入れ違いに親戚のモーピー(霊医・霊占師)がやってきて、商売繁盛のための“秘薬”を贈呈してくれた。

 赤黒い粉薬のようなものを、ごく少量つまんでまずは匂いをかぎ、次いで唇にこすりつけると客がどんどんやってくるし、いい仕入れができるという。

 彼の前で、ひととおりのレッスンをやったあとで、秘薬入りの小瓶を指示どおり蚊帳の上においた。

 その言葉どおり、昼前になると、毎日クッティアオを食べにきてくれるゲイのカップルを皮切りに、近所の婦人たちが連れ立ってやってきた。

 ラーもすでに手慣れたもので、以前のようにパニくることもなく、客たちと冗談を交わしながら、楽しそうにクッティアオを供している。

 私は、飲み水用の氷を補充するくらいで、こうして小部屋でパソコンに向かうこともできるというわけだ。

 そこへラーが飛び込んできて、素早く化粧を始めた。

 「どうした?」

 「だって、みんなきれいに化粧しているのに、あたしは起きてから顔を洗っただけだから」

 「お前さんは化粧しなくてもきれいだから、問題ないよ。それに、食い物屋は化粧なんかしない方がいい」

 どうやら、後半の注意は耳に入らなかったようだ。

 「本当?ホントに、化粧しなくてもきれい?本当だったら、うれしいな。やったー!」

 「ほらほら、客が待ってるぞ」

 どうやら、商売繁盛の一番の秘薬は、嘘でもいいから嫁を褒めることらしい。

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