念願の書斎づくりが、いよいよ始まった。
写真は、その基礎工事である。
と言いたいところだが、実はこれ、仔豚用の豚舎である。
山並みが見えるわが“砦用地”は、諸般の事情から仔豚たちに乗っ取られることに相成った。
作業をしてくれているのは、従兄のマンジョーと甥っ子のジョーである。
*
昼前、コンクリート床用の竹組みが終わったのでセメントを買いに町に出た。
荒物屋に入ると、顔なじみの中国系タイ人親爺が興奮気味にテレビを指差す。
「見ろ、見ろ。今日だけで、35人も殺されたんだ。中には、ファランの報道関係者もいる。ホラホラ、わあ、ひでえ」
テレビには、ちょうど治安部隊が水平射撃している場面が移っている。
そして、あちらこちらで立ち上る黒煙。
こちらは、赤シャツが放火した現場らしい。
カメラの方向に向かってきたバスが、あわてて急ハンドルを切ってUターンを試みる。
その周囲の路上に、数人の人が倒れている様子だ。
まるで、戦場である。
*
今日は、ラーの亡父の命日。
早朝に起きだして、バンタブルッ(先祖供養)の儀式を行った。
いつものように鶏をしめて、その丸ゆがきを備えたあとに鶏鍋での宴会である。
話題は、自ずとバンコクの騒乱に向かう。
儀式を執り行った隣家のモーピー(霊医・霊占師)が、妙に興奮している。
赤シャツと称されるタクシン支持派を攻撃しているらしい。
タクシン人気の高いわが村では、珍しいことである。
「彼は何を喚いているんだ?」
「タクシンが首相時代に、麻薬撲滅のためにたくさんの売人たちを処刑したでしょう?彼の知り合いの中にも、取り締まり中の銃撃戦で殺された人がいたらしいの。だから、タクシンは悪いって怒ってるんだよ」
しかし、タクシン政権による先住民族保護政策の恩恵をこうむったラーをはじめとする親戚一同は赤シャツに同情的で、ひとりタイ人のプーノイは形勢不利の様子だ。
ちなみに、わが村の衆はタクシン元首相の不正蓄財に関してはさほどこだわってはいないように見える。
問題は、その財を民に分配する太っ腹とリーダーシップを持っているかどうか。
その点では、貧困層に対して無策状態が続いている現政権への風当たりはきわめて強い。
赤シャツ批判の論評の中で、北タイや東北タイから動員された人たちに対する“日当”を問題にするものをよく見かけるが、彼らがわが村の衆と同様に定期収入のない農民や貧困層だとすれば、それもやむを得ないような気がしないでもない。
今回の政争が、「貧困層による一種の革命運動だ」という見方があるのも、そうした構造的背景があるからなのだろう。
*
しかし、人にはそれぞれの立場と事情がある。
宴会の場で政治の話を持ち出すのは、やはりタブーのようだ。
みんなの声が一段と高くなったところで、甥っ子のジョーが珍しく語気を強めた。
「今日は、バンタブルッのためにみんな集まっているんですよ。政治のことで言い争いなんかしたら、先祖の霊やもてなしてくれているクンターに失礼ですよ。さあ、飲んで飲んで。楽しくやりましょう」
内戦状態ともいえるバンコクからはほど遠く、一見のどかに見えるわが村にも、長引く政争やいつ果てるとも知れぬ流血は、さまざまな形の暗い影を落としているようだ。
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写真は、その基礎工事である。
と言いたいところだが、実はこれ、仔豚用の豚舎である。
山並みが見えるわが“砦用地”は、諸般の事情から仔豚たちに乗っ取られることに相成った。
作業をしてくれているのは、従兄のマンジョーと甥っ子のジョーである。
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昼前、コンクリート床用の竹組みが終わったのでセメントを買いに町に出た。
荒物屋に入ると、顔なじみの中国系タイ人親爺が興奮気味にテレビを指差す。
「見ろ、見ろ。今日だけで、35人も殺されたんだ。中には、ファランの報道関係者もいる。ホラホラ、わあ、ひでえ」
テレビには、ちょうど治安部隊が水平射撃している場面が移っている。
そして、あちらこちらで立ち上る黒煙。
こちらは、赤シャツが放火した現場らしい。
カメラの方向に向かってきたバスが、あわてて急ハンドルを切ってUターンを試みる。
その周囲の路上に、数人の人が倒れている様子だ。
まるで、戦場である。
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今日は、ラーの亡父の命日。
早朝に起きだして、バンタブルッ(先祖供養)の儀式を行った。
いつものように鶏をしめて、その丸ゆがきを備えたあとに鶏鍋での宴会である。
話題は、自ずとバンコクの騒乱に向かう。
儀式を執り行った隣家のモーピー(霊医・霊占師)が、妙に興奮している。
赤シャツと称されるタクシン支持派を攻撃しているらしい。
タクシン人気の高いわが村では、珍しいことである。
「彼は何を喚いているんだ?」
「タクシンが首相時代に、麻薬撲滅のためにたくさんの売人たちを処刑したでしょう?彼の知り合いの中にも、取り締まり中の銃撃戦で殺された人がいたらしいの。だから、タクシンは悪いって怒ってるんだよ」
しかし、タクシン政権による先住民族保護政策の恩恵をこうむったラーをはじめとする親戚一同は赤シャツに同情的で、ひとりタイ人のプーノイは形勢不利の様子だ。
ちなみに、わが村の衆はタクシン元首相の不正蓄財に関してはさほどこだわってはいないように見える。
問題は、その財を民に分配する太っ腹とリーダーシップを持っているかどうか。
その点では、貧困層に対して無策状態が続いている現政権への風当たりはきわめて強い。
赤シャツ批判の論評の中で、北タイや東北タイから動員された人たちに対する“日当”を問題にするものをよく見かけるが、彼らがわが村の衆と同様に定期収入のない農民や貧困層だとすれば、それもやむを得ないような気がしないでもない。
今回の政争が、「貧困層による一種の革命運動だ」という見方があるのも、そうした構造的背景があるからなのだろう。
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しかし、人にはそれぞれの立場と事情がある。
宴会の場で政治の話を持ち出すのは、やはりタブーのようだ。
みんなの声が一段と高くなったところで、甥っ子のジョーが珍しく語気を強めた。
「今日は、バンタブルッのためにみんな集まっているんですよ。政治のことで言い争いなんかしたら、先祖の霊やもてなしてくれているクンターに失礼ですよ。さあ、飲んで飲んで。楽しくやりましょう」
内戦状態ともいえるバンコクからはほど遠く、一見のどかに見えるわが村にも、長引く政争やいつ果てるとも知れぬ流血は、さまざまな形の暗い影を落としているようだ。
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コロラドからのコメント、ありがとうございます。ミャンマーカレンの奥様と共にアメリカに移住された軌跡、ひとつの壮大な物語ですね。ラーも、お会いしたいと言っております。メーサリアン訪問の折りには、ぜひお立ち寄りください。特盛りクッティアオでお迎えいたします。
*
鈴木さん
反政府デモは解散され、農民たちはそれぞれも村に帰り始めたようです。長い間離れていた村では、どんな厳しい現実が待っているのでしょうか。ともかくも、まずは宴会でしょうか(笑)。
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uzohさん
ジョーのことを気にかけていただき、ありがとうございます。結婚話の件、私が家出している間に、先方の親父さんがわが村にやってきたらしいのですが、その言い分が「娘を愛しているなら結婚してほしい」。
「たった一回会っただけなのに、なんでそんなことを言うんだろう?」とジョーは呆れて、断ってしまったそうです。その後も、あちこちから話があるようですが、やはり離婚した母親と高校生の弟のことが気にかかるのでしょう。カレン族は女系家族で、婿が嫁の家に入るのが普通。でも、ジョーは村を離れたくない。すると、相手は限られてくる。うーん、どうしたものでしょうねえ。
彼は誠実で、こつこつとやらなければいけない事を確実にこなして行くタイプですし、
今回のことでもその場の雰囲気を良く読んで、いま大事なことが何かをしっかりと把握している人です。
彼の周りに沢山の幸せがやって来るように願っています。
ところで、
彼のお嫁さんの話はどうなったのですか?
(^_^)/~
やり方は、どうあれ農村部に恩恵があったのは事実。いい部分だけは現政権も続けて欲しいですね。
チェンマイ市街では、タクシンが進めた事業が頓挫し大変な財政負担となっているようです。代表的なのがナイトサファリ、その数々の公共事業で汚職が行われていたようです。
自分の嫁もカレン族です。彼女はミャンマー国境付近の村で生まれましたが、ミャンマー軍に追われてタイ側の難民村で育ちました。自分と出会った時にはタイIDも取得していたので正式に結婚でき、日本へのヴィザもなんとか取得して日本へ連れて帰りました。
その後、アメリカの永住権を取得。2004年には男の子を授かり、いまは親子3人でコロラドにて暮らしております。
メーサリアンの難民村には、いまも嫁の兄弟、妹や親戚がいるので、来年は訪問する予定です。
その時には、オムコイにラーさんのクエッティオを食べに行きたいと思っているのですがよろしいでしょうか?