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「クンター、野菜知らない?」
「何の野菜?」
「あたしが昨日、筍掘りのついでに水辺で採ってきたやつ」
「知らんなあ」
*
今朝は、クッティアオ用のルクチンムー(豚肉つみれ団子)が入荷していなかったので、豚肉を叩いてつみれにしなければならない。
豚肉のかたまりを丸いまな板の上に載せ、これを蛮刀で入念に叩いていく作業は、なかなか骨が折れる。
「クンター、あたしの野菜、捨てたんじゃない?」
「だから、知らんと言ってるだろう。仕事の邪魔をするなよ。それに、誰が野菜を捨てるもんか。冷蔵庫の中は探したのか?」
「全部、探した」
「じゃあ、家にでも置き忘れたんだろう」
「違う。確かに、店に持ってきた」
「とにかく、俺は見てない。もう一度、ちゃんと探してみろ」
朝飯用の筍スープを作りながら、その合間に店の中でごそごそやっている。
「あー、やっぱり見つからない。クンター、本当に捨てなかった?」
「いい加減にしろ!」
*
豚肉叩きを終えて、裏庭の洗い場でまな板と蛮刀を洗った。
物干用テーブルの上に、もやしやキャベツを洗うためのたらいが置いてある。
「まったく、なんでいつもの場所に置かないんだ」
ぶつぶつ言いながら、蓋代わりの大きな蠅よけカバーを取ると、水を張ったたらいの中にクレソンのような水草が浸けてある。
「ラー!お前さんが探しているのは、この水草のことじゃあるまいな?」
大声で怒鳴ると、裏庭に走ってきた。
「あれ?ここにあったんだ!あたし、てっきりクンターがゴミ捨て場に捨てたと思っていたよ」
「あのなあ」
「ごめんなさ~い。ああ、よかった、よかった」
*
腹が立ったが、豚骨で煮込んだ筍スープは、なかなかの味だ。
「じゃあ、あたしブーちゃんとウーちゃんの世話に行ってくるね」
正しくはフーちゃんなのだが、フーは発音しにくいらしく、いつの間にかウーちゃんになっている。
「釣り銭はどこだ?」
「あ、豚肉を買ったから小銭は70バーツしかない」
「それじゃあ、足りん。最低でも、80バーツは要るだろう?」
「だって、豚肉を買ったから仕方がないよ」
「昨日、筍掘りに行く前に売ったときの小銭はどうした?」
「だから、豚肉を・・・。あ、ちょっと待って」
小部屋の壁にかけたカレンバッグの中を探ると、ビニール袋にしまった小銭がちゃんとある。
「あのなあ」
「ごめんなさ~い。じゃあ、お店よろしくね」
「いつまでも豚と一緒に遊んでいないで、すぐに帰って来いよ」
「大丈夫だよ。どうせ、今日もお客さんは少ないから」
「あのなあ、俺は朝から豚肉を・・・」
「あ、ブーちゃんとウーちゃんがお腹を空かして待っているよ。行ってきま~す!」
「・・・」
毎日のことながら、まったく疲れる嫁ではある。
ナッケー!
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