
店横に停めたクルマの下に、黒い顔をした不細工な犬が寝そべっている。
「おお、ウェッか。お前が店に来るのは珍しいなあ」
ちょうど、スープ用の骨を処分しているところだったので、よく確かめもせずに放り投げた。
「クンター、駄目じゃない!そいつは、いつも元気や雄太の餌を盗む余所の悪い犬だよ」
「え?俺はてっきり、ウエッかと思ってたよ」
*
ウエッは、一応わが家の飼い犬ということになっている。
もともとは、甥っ子のジョーがワイという犬と一緒に買い始めたのだが、なぜかジョーの家には居着かず、ついにはわが家の床下で寝るようになった。
ジョーの牛飼いにも同行せず、常にラーのあとに従うようになったのである。
そこで、業を煮やしたジョーが「ラー叔母さんに譲る」と言い出したのだ。
だが、わが家にはすでに2匹の飼い犬がおり、それだけでも頭が痛い。
これにウェッが加わり、さらにジョーのもとに残ったワイ、隣家のプーノイのチョーク(最近、誰かに喰われたらしく姿が消えた)の計5匹がたむろすることになれば、まさしく犬屋敷である。
そこで、私はこの申し入れを断固拒絶し、居座り犬がジョーの家に戻るよう、蹴飛ばしたり、威嚇したり、スパルタ方式を持って追い出しにかかったのだった。
ところが、いくら冷酷にやっても、まったく効果が出ない。
むろん、ラーやポーが陰でこっそり餌をやっていたということもあるのだが、あれほどいじめたにも関わらず、私が家に戻るとやたらと尻尾を振る。
近寄ると、そそくさと逃げ出すくせに、油断していると背後からこっそり忍び寄って、ベランダでぶらぶらさせている私の足にいやらしいくらいに媚びた態度でじゃれついたりするのである。
そんなこんなで面倒になってしばらく放っておいたら、すっかりわが家の犬という既成事実ができあがってしまった。
だが、まだ心の中ではこのなし崩し的な居座りを許しているわけではない。
そこで、ついつい邪険な扱いをして、余所の犬と間違えるくらいに、顔や体形さえ、ろくに覚えていない有様なのだ(顔が真っ黒なので、もともと表情がよく分からないこともある)。

*
だが、餌盗人たる余所の犬に貴重な骨を与えるといった間違いは、二度と犯したくない。
そこで、今日はその顔をじっくりと眺めてみることにした。
むろん、私が近寄ってもこそこそ逃げ出すばかりなので、ラーに呼ばせて顔をこちらに向けさせた。
よくよく見れば、ほほお、さほど悪い面構えではない。
ふーん、お前はこんな顔をしていたのか。
これで、余所の犬と間違えることはあるまい。
それにしても、お前も不憫なことだなあ。
ジョーに見捨てられ、ラーに拾われてはみたものの、嫡子(?)の元気や雄太とは一緒に餌はもらえないし(一緒だと攻撃される)、家の中にも絶対に入れてもらえない。
寝るのは、ひとり寒い床下だ。
むろん、それは元気と雄太が外で寝ると阿片吸引者や犬喰い衆に吠えかかってうるさいという事情もあるのだけれど、雄太は炉端でぬくぬくしているし、元気なんぞはポーがしつらえた座布団の上で眠りくさっているんだぞ。
ああ、なんという差別待遇なんだろう。
居座り犬は、辛いなあ。
しかし、めげるんじゃないぞ。
苦労は、買ってでもしろというではないか。
むろん、お前に対する俺の冷たい態度は今後も変わらんだろうが(なにせ、餌用の米代がかかって仕方ないんだ)、せいぜいラーとポーに胡麻をすって、寝床用の古毛布ぐらいはもらえるように頑張れよな。
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下の表情は,とっても落ち着いていますね.
愛されてるなぁ.と言う気がしますね.
愛されている?一体、誰がそんな不届きなことをしているのでしょうかねえ・・・。