【タイ山岳民族の村に暮らす】

チェンマイ南西200キロ。オムコイの地でカレン族の嫁と綴る“泣き笑い異文化体験記”

【ジョーの結婚話】

2009年12月25日 | オムコイ便り
 
 私が6歳のクリスマスの明け方に、父は逝った。

 享年40歳。

 あれから、半世紀以上が過ぎたことになる。

 一昨年の11月、ラーと簡素な結婚式をあげた直後、その報告を兼ねて早めの50周忌に出席するため日本に戻ったのだから、村での暮らしもすでに2年を超えたことになる。

 朝の焚火にあたりながらラーにこの話をしたところ、「お寺にタンブン(法要)に行こう」と言い出した。

 しかし、浄土真宗の習わしでは50周忌が最後の法要とされている。

 しかも、タンブンとなるとあれやこれやの準備で大騒ぎになることは目に見えている。

 今日は静かに父の供養をしたかったので、その申し出を断り、裏庭の粗末な祭壇に蝋燭と線香を灯し、しばしの間亡き父との会話を楽しんだ。

        *

 昨日から、甥っ子のジョーが台所兼自分の寝室の建前を始めたため、ラーは店と現場の間を興奮気味に行ったり来たりしている。

 特に柱立てのある初日は、親戚を中心に10人近くの村人が無償報酬で手伝ってくれているので、昼食と夕食の準備と接待に大わらわなのだ。

 なにせ、内気な次姉はこうしたことが大の苦手なので、焼かないでいいおせっかいまで焼いてしまうのである。

 それに、このあとにはわが家の建替えも控えている。

 その手伝いの人出を確保するためにも、ここはしっかりと接待して彼らに気持ちよく働いてもらわなければ、という計算も働いているらしい。

 夕方になると、店の裏庭で大量のラープ(血まぶし豚肉叩き)をノンソンケオと一緒に作り始めた。

 これは基本的に男の料理なのだが、男勝りがふたりも揃っているから問題はない。

 それをいったん現場に運んでから、6時に店を閉め、私のためにラープを炒める。
 
 炊きあがった米を炊飯器ごと持って現場に駆けつけると、すでに大量のラープは食べ尽くされ、ほろ酔いになった手伝いの衆が賑やかに焚火を囲んでいた。

 斜面には丸太の柱が立ち、灰色のスレート屋根の葺き付けと床板の打ち付けが終わっている。



「クンター、スワイマイ(きれいにできたでしょう)?明日は、この間クルマで運んでもらった割竹の壁をこのまわりに打ち付けていきます」

 珍しく酔っぱらったジョーが、嬉しそうに声をかけてくる。

 小柄な彼は、連日の重労働でこのところ飯が喰えなくなっている。

 従兄のタチやマンジョーが、さっそく私に焼酎を献杯し、屋根を指差しながらあれこれと解説する。

「この家は小さいから丸太が9本、屋根は片面3枚ずつ葺いてあるけど、クンターの家は丸太が12本だから、梁をもっと長くして瓦は4枚は必要になるでしょう。立派な家になりますよ。俺たちが手伝うから、安心して任せてください」

 丸太や床板や梁材は、手に入るときに手に入れるという泥縄式でほぼ揃ったのであるけれど、具体的にどんな家を建てるのか、そのイメージはまったく固まっていない。

 しかし、彼らの頭の中ではすでに一定のイメージができがっているようだ。

「村人に手伝ってもらう以上は村の流儀に従う」ということではラーとも意見が一致しているし、棟梁の目星も一応はついている(彼の日当は一日300バーツらしい)ので、まあ、成るように成ってゆくのだろう。

       *

 さて、献杯の嵐から逃げ出し晩飯を済ませると、崖に面した木の香りのする板張りにあぐらをかいてひとり星空を眺めた。

 初めてチェンマイにやって来たときトレッキングツアーで民泊したカレン族の家は、もっと急斜面の崖の上に建っており、しかも床が古い割竹床だったので歩くたびにふわふわと揺れ、怖い思いをしたものである。

 しかも、産気だった犬に噛まれて、真っ暗な山道をバイクの二人乗りで病院まで突っ走るというおまけまで付いた。

 まさか、その3年後に同じような崖の上の家でカレン族の一員として星を眺めるなんて、夢にだに思わなかったものだ。

 焚火の輪の中に戻ると、ジョーの結婚話で持ち切りだ。

「いま、3人の娘の親から結婚の申し入れが来ているんだって。その中のひとりは、クルマも持っている金持ちの娘。ひとりは、向かいのプールアン(副村長)の奥さんの実家がある山奥の村の娘で、顔も人柄もナンバーワンという噂。クンターは、どっちがいいと思う?」

「俺に聞いても仕方がないだろう。ジョーは、どう思ってるんだ?」

「ジョーは、金持ちは嫌い。遠く離れた村の家に婿入りするのも、イヤ。クンターやあたしと一緒に、牛の世話やクッティアオの店の手伝いをしている方がずっと楽しいって。だから、姉はクンターに決めて欲しいって言ってるよ」

「そんなことできるわけないだろ。とにかく、一度人柄の良いという娘と会ってみたらどうだ?」

 そのひとことで、従兄や親戚たちが「そうだ、そうだ、クンターと一緒に花嫁候補を見に行こう!」と騒ぎ出した。

「ところで、その村までは何キロ?」

そこで、従兄のマンジョーが腕組みをして考え込む。

「確か、25キロくらいかなあ。でも、クルマで行けるのは途中までで、あとは山道をずいぶん歩かなくちゃいけないはずです。クンター、大丈夫ですか?」

「俺は大丈夫だけど、ラーがすぐに音をあげるだろうね。なにしろ、このところクッティアオばかり作って、山にも川にも行っていないからなあ。見ろよ、このでっ腹」

 大笑いしていると、ジョーが何事か呟いてそっと焚火の輪から離れて行く。

「どうしたんだ?」

「ジョーは照れ屋だから、見ず知らずの若い娘と会うなんて恥ずかしいんだって。それに結婚したら、クンターやあたしの世話ができなくなるって悩んでいるらしい。だから、クンターが決めてくれるのが一番いいんだよ」

「そりゃあ困ったなあ。でも、彼はまだ23歳だろう。まわりがあんまり騒ぐと、かえってへそを曲げちまうぞ。もっと時間をかけて、本人がじっくり探せばいいさ」

「村では、20歳くらいで結婚するのが普通なんだよ。それに、ジョーの性格からすれば、自分で嫁を探すなんて一生できやしないよ」

「そうか・・・だったら、お前さんが村の周辺から気だてのいい娘を捜して村に連れて来いよ。そして、しばらく店の手伝いでもさせてジョーとも自然に仲良くなれるように仕向ければいいじゃないか」

「あ、それはいい考えだね。でも、そんな娘、村の近くにいるかなあ?」

「とにかく、得意のおしゃべりで友だちや知り合いに触れ回ってみろよ」

「分かった!じゃあ、すぐに行ってくるね」

「 おいおい、いま何時だと思ってるんだ?もう、そろそろ寝る時間だぞ」

 いやはや、まったく。

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3 コメント

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ジョー君に素敵なお嫁さんが来ます様に (uzoh)
2009-12-25 16:23:22
美人で、やさしくて、それで居てしっかりしていて、クンターとラー様を大切にしてくれる(もちろんジョー君がベタぼれするような)お嫁さんが決まるように祈っています。
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楽しい話題ですね. (ishi)
2009-12-25 22:37:08
いいなぁ.なんだかほっとしますね.
星が,綺麗なんだろうなぁ.

それはそれとして,ジョーさんには,色々と助けてもらっているようにお見受けしますので,遠くに行かれるのも大変な気がしますねぇ.ただ,そればっかりで,話をしてもしょうがないですし.ラーさんのお人柄で,良い方が見つかるといいですね.
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ジョーの嫁 (クンター)
2009-12-26 18:07:07
uzohさん

 お久しぶりです。本当に、いい嫁さんが見つかればいいのですが。本人の気持ちを直接聞けないのが、ちょっともどかしいです。

    *

ishiさん

 確かに、ジョーが村を離れると牛の世話をはじめ、村での暮らしが成り立たなくなるおそれがあります。ジョーもせっかく家を建てたことだし、そこで一緒に暮らしてくれる嫁が理想ですが、さて、どうなりますことやら。
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