からりんさんと一緒に、川向こうの棚田の様子を見に行った。
このところの我が村、空が薄い雲に覆われ、時おり小雨は舞うものの、なかなかまとまった雨が降らない。
用水路に近い山際で、一部田植えの済んだところもある。
だが、ほとんどは水が足らず、先に耕耘機を入れて田起こしをした上で雨待ちをするというひどい有り様の田んぼも多い。
土地が狭いので、ギリギリまで削った細い畦道をそろそろと歩く。
向かいの家のプーチョイ、大工のノイヌックなど、あちらこちらで耕耘機を押す村の衆の姿が見える。
「水が足りないねえ」
「うーん、雨が降らんからなあ」
エンジン音の中でそんな話を交わしつつ、泥色の棚田を突っ切ってゆく。
ひどい状態には違いないのだが、誰も深刻な顔はしていない。
・・・話は天のこった、仕方なかんべえ。
そんなら楽天的な苦笑が見られるだけだ。
そういえば、この村では雨乞いというものはしない。
「まあ、そのうちに降るだろう」
そして、実際にそのうちに降るのである。
少なくとも、去年まではそうだった。
ともあれ、オーマーチョーパー(カレン語でグッドラック)と祈るしかないのだ。
宿に戻って、休憩タイムに入った。
夕方になって様子を見にいくと、からりんさんの姿がない。
晩飯のときに訊けば、改めてひとりで棚田の方を歩いてきたのだそうだ。
少年時代は彼も農村地帯で育っており、懐かしい光景なのだそうである。
途中で、昼間に顔を合わせた大工のノイヌックに声をかけられたり、女衆に手話のようなジェスチャーのみで話しかけられたり(時々、こういう人がいる)、言葉は通じずともなかなかに楽しかったとか。
*
そのせいか、今夜はさらに焼酎が進んでいる様子だ。
晩飯のおかずは、女将のラーが昼間に掘ってきた竹の子のカレン風炒め物。
固いものは噛めないというからりんさんのために、昼間から七輪で火を起こし数時間煮込んであるから、甘くて柔らかい。
また、小雨が舞い出した。
庭に軌跡を描く数匹の蛍の光。
ついつい時を忘れて、静かな夜が更けてゆく。
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午前の棚田見学は、畦道の足元ばかり見て歩いてしまったのが悔しくて午後に再挑戦した次第でした。
「お正月にまたおいで」 というラーさんの招待に応えられたらいいなと思っています。