【タイ山岳民族の村に暮らす】

チェンマイ南西200キロ。オムコイの地でカレン族の嫁と綴る“泣き笑い異文化体験記”

【真夜中のコブラ退治】

2010年09月21日 | オムコイ便り
 虫の音すだく丑三つ頃。

 頭の上で、ガンガンという音がした。

「な、何だ?」

 あわてて飛び起きると、長い棒を槍のように構えたラーが寝室の柱の当たりを激しく突いている。

「どうしたんだ?」

「蛇がいる、でかい奴!」

 蚊帳の外に出ようとすると、「出ちゃ駄目、危ないから!」

 しかし、毒蛇なら蚊帳の中に潜り込まれる方が危ない。

 何を考えているんだ?

 眼鏡をかけ、ラーから棒を取り上げて覗き込んだが、別に何も見えない。

「どこ?」

「そのビニール袋がさがっているあたり。カサコソ音がするから起きてみたら、でっかいコブラみたいな蛇が・・・」

「元気、雄太、蛇を探せ!」

 2匹の飼い犬を寝室に呼び込んだが、匂いを嗅ぎ回ったあとにこちらを振り向いてきょとんとした顔をしている。

 蛇がいたのなら、ラーが目を覚ます前に吠え立てているはずだ。

「ラー、本当に蛇を見たのか?」

「うん、あの、えーと・・・なんだか夢だったみたい。そうだね、夢だよ、夢の中でコブラを見たから飛び起きて、えーとこの棒を取りに走ってガンと突いて・・・。起こしちゃって、ごめんなさい」

 それから、ひとりでゲラゲラ笑い出した。

 まったく。

      *

 この夢には伏線があって、昨日の夕方、向かいの副村長の家の鶏小屋にコブラが現れたのだという。

 騒ぎを聞きつけた副村長がこれを散弾銃で仕留め、発砲音を聞きつけたラーが駆けつけると、今までに見たこともないほどでかいコブラの死骸が転がっていた。

 だが、店から戻って私が見に行ったときは、すでに死骸は崖の下に放り投げられたあとで、その姿を見ることはできなかったのである。

「本当にでかかったんだよ。だから、ウチの鶏も襲われるんじゃないかって気になって、気になって。それで、夢を見てしまったんだね」

 しかし、普通は夢から覚めたら、数秒もすればそれが夢だったと気づくはずだ。

 夢から覚めたあとも、それを現実に引き継ぎ、安全を考慮して2メートル近い長い棒を探しに走って5分近くも蛇と闘い続ける。

 一体、どうなっているのだろう?

 とは言っても、私も夢の中で“頭が猿、胴体がスカンク”という奇妙な生き物に襲われて、隣りで寝ているラーの腹に肘打ちを見舞ったことがあるのだから、まあ、人のことはとやかく言えないのであるけれど・・・。

 そういえば、一昨日の朝は「クンターが若いハンサムな男と手をつないで歩いていた」と言って、ぷりぷり怒っていたっけ。

 もちろん、これも夢の中の話なのだが、この伏線についてはどう考えてみても思い当たる節がない。

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