今朝は、庭まで霧が降りてきた。
「これから、どんどん寒くなるんだねえ」
それほどの寒さでもないのであるが、村人としては異様に寒がりのラーは、さっそく囲炉裏に薪をくべる。
寒いときはもちろん、腹痛など体調の悪いとき、ラーは必ず薪を燃やして腹や腰を暖める。
そして、「これは母親が教えてくれたんだよ」と付け加える。
*
隣家からの“通い夫”を獲得した母鶏が、ついに卵を産み始めた。
市販のものよりもふたまわりほど小さな、小振りな卵である。
ラーに言わせると、「この父親はパワーがないから駄目だ。もっと、強い雄鶏を見つけようよ」ということになる。
産卵用の籠を置いてからすでに1週間経つが、初日から連続で毎日1個ずつ、1日おいて昨日1個を産み、総計5個になったのである。
まだヒナをかえした経験のない私は、卵が産まれるとすぐに抱卵に入るのだと思っていたのだけれど、母鶏は朝になると籠を飛び出して、一日中“通い夫”と行動を共にしている。
「ラー、こいつは駄目な母親だなあ。ちっとも卵の世話をしないぞ」
「クンター、2~3個じゃあまだ早いよ。6~7個産んだあとで、それから餌も食べずに抱卵に入るんだよ。いまは、旦那さんと毎日メイクラブすることが彼女の仕事なの」
「ふーん。そうか、それならいいけど。俺はまた、お前さんみたいなぐうたら母さんかと思って心配したよ」
「またそんな意地悪言って、もう・・・」
反論しないのは、もちろん心当たりがあるからに違いない。
*
さて、今日も母鶏は5個の卵を放ったらかして美形の“通い夫”とのランデブー(ちと、古過ぎるか)に忙しい。
それをイライラして見守っている私も暇といえば暇だが、娘を思う父親の心情とはそうしたものではあるまいか。
米粒を奪い合って喧嘩する鶏たちの仲裁に入り、自分の飯を待ち切れずわれわれの食卓(床に置いた大ザル)のまわりをウロウロする犬の“元気”のしつけに頭を悩まし、まだビッコをひいている“雄太”の足の治療に追われ、雄牛の“ハーレムキング”の統率力に一喜一憂し、赤ちゃん牛にとりついた血吸い虫の駆除に走り回る。
ときおり大虎に変身する私自身と、しばしば山猿に変身する嫁も加えて、動物大家族は毎日が大騒ぎだ。
三男のポーだけが、ひとりクールに“闘虫”用カブトムシ調教にいそしんでいる。
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「これから、どんどん寒くなるんだねえ」
それほどの寒さでもないのであるが、村人としては異様に寒がりのラーは、さっそく囲炉裏に薪をくべる。
寒いときはもちろん、腹痛など体調の悪いとき、ラーは必ず薪を燃やして腹や腰を暖める。
そして、「これは母親が教えてくれたんだよ」と付け加える。
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隣家からの“通い夫”を獲得した母鶏が、ついに卵を産み始めた。
市販のものよりもふたまわりほど小さな、小振りな卵である。
ラーに言わせると、「この父親はパワーがないから駄目だ。もっと、強い雄鶏を見つけようよ」ということになる。
産卵用の籠を置いてからすでに1週間経つが、初日から連続で毎日1個ずつ、1日おいて昨日1個を産み、総計5個になったのである。
まだヒナをかえした経験のない私は、卵が産まれるとすぐに抱卵に入るのだと思っていたのだけれど、母鶏は朝になると籠を飛び出して、一日中“通い夫”と行動を共にしている。
「ラー、こいつは駄目な母親だなあ。ちっとも卵の世話をしないぞ」
「クンター、2~3個じゃあまだ早いよ。6~7個産んだあとで、それから餌も食べずに抱卵に入るんだよ。いまは、旦那さんと毎日メイクラブすることが彼女の仕事なの」
「ふーん。そうか、それならいいけど。俺はまた、お前さんみたいなぐうたら母さんかと思って心配したよ」
「またそんな意地悪言って、もう・・・」
反論しないのは、もちろん心当たりがあるからに違いない。
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さて、今日も母鶏は5個の卵を放ったらかして美形の“通い夫”とのランデブー(ちと、古過ぎるか)に忙しい。
それをイライラして見守っている私も暇といえば暇だが、娘を思う父親の心情とはそうしたものではあるまいか。
米粒を奪い合って喧嘩する鶏たちの仲裁に入り、自分の飯を待ち切れずわれわれの食卓(床に置いた大ザル)のまわりをウロウロする犬の“元気”のしつけに頭を悩まし、まだビッコをひいている“雄太”の足の治療に追われ、雄牛の“ハーレムキング”の統率力に一喜一憂し、赤ちゃん牛にとりついた血吸い虫の駆除に走り回る。
ときおり大虎に変身する私自身と、しばしば山猿に変身する嫁も加えて、動物大家族は毎日が大騒ぎだ。
三男のポーだけが、ひとりクールに“闘虫”用カブトムシ調教にいそしんでいる。
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