息子のポーが、妙な魚を捕まえてきた。
一見、うなぎのようだが、エラから上の頭部が細長く、口吻にかけてとんがっている。
尾びれは短く、どじょうのようである。
「これ、なんて魚だ?」
「カミナリウオです」
「カミナリウオ?ふーん、でも日本の雷魚よりもずっと上品だな。喰えるのか?」
「はい、うまいです」
そこへ、ラーが戻ってきた。
「あ、ヘビウオだ!」
「蛇魚?ポーは、カミナリウオだって言ってるぞ」
「違うよ。これはヘビウオっていって、昔はよく獲れたんだけど、最近はほとんど見かけなくなったんだよ。ポー、これどこで獲ってきたの?」
目が、ランランと輝いている。
息子に、対抗心を燃やしているのである。
「滝の上。友だちから水中眼鏡を借りて、岩の下で手づかみしたんだよ」
「ふーん、水中眼鏡か。やっぱりね、網には絶対入って来ないもの。クンター、100バーツある?」
「どうして?」
「これから、ポーと一緒に水中眼鏡を買ってきます。従兄のマンジョーも、水中眼鏡を買ってからふくらはぎくらいの太さの魚をモリで仕留めたんだよ。あたし、この子を鍛えてマンジョーみたいな魚穫りにします。そうすれば、お金がなくても毎日大きな魚が食べられるでしょ?」
「だって、ポーは医者になりたいんだろ?」
「それは、もっと先の話。今はまだ小学生だから、魚穫りの方が大事なの」
なんだか、よく分からない理屈である。
たぶん、自分が愛用している丸網では捕れない珍しい魚や大きな魚を捕りたくなっただけなのだろう。
*
ふたりが飛び出して行って、ふと気づくと、さっきまで注目していたカミナリウオだかヘビウオだか、細長い魚の姿が見えない。
どうやら、鶏にかっさらわれたようだ。
アチャーッ!
珍味を楽しみにしていたのに、く、悔しい。
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