【タイ山岳民族の村に暮らす】

チェンマイ南西200キロ。オムコイの地でカレン族の嫁と綴る“泣き笑い異文化体験記”

【わが村流麻薬撲滅運動】

2011年09月14日 | オムコイ便り

 数日前の報道によれば、インラック新政権が麻薬撲滅へ向けた厳しい姿勢を打ち出したそうだ。

 この方針は、すでに新政権発足直後から郡役所に伝えられていたのかも知れず、わが村では先月から新村長がアヘン吸引者の家々を巡回して説得活動を行い、急ごしらえの更正所にかなりの人数を収容した。

 この新村長、クリスチャンということもあって麻薬撲滅には非常に熱心だ。

 村にとっては、いいタイミングでいい新政権と新村長が誕生したのかも知れない。

     *

 ところが、懲りない面々というのはどこにもいるもので、この時期になって密売人だという噂の若い女が村に出没するようになった。

 その手口は、色仕掛けと麻薬を餌に若い独身男に近づき、いつの間にかその家に入り込んで居着いてしまうのだそうな。

 まあ、とんでもない奴が現れたものだと思っていたら、なんと、数日前からその女が隣家のプーノイの家で寝泊まりしている様子だ。

 隣家にはふたりの独身の息子がおり、どうやらそのどちらかが捕まってしまったらしい。

 隣家で唯一アヘンをやらないプーノイも、なにやら見返りでもあるのか、それとも顔立ちのいい若い娘に鼻の下でも伸ばしているのか、追い出そうともしない。

     *

 これに怒ったラーが、わが家のテラスからさっそく怒鳴りつける。

 すると、若い女も口で猛然と反撃してきた。

 何を言っているのかは分からないが、この村でラーに逆らうとはとんでもない糞度胸である。

 薪をつかんで飛び出しはしないかと警戒したが、思いのほか冷静だった。

 むろん猛然と飛び出しはしたものの、手にしたのは携帯電話で、すぐさま新村長に電話をかけ、公民館にその女を引きずって行った。

 騒ぎを聞きつけた村の衆も、ぞろぞろと公民館に集まってくる。

 さて、どんな裁定が出るかと思いきや、すでにこの女の噂を聞きつけていた村長と副村長が、その場で「村への立ち入り禁止」を申し付けた。

 そして、それを破った場合は、すぐに警察と軍に通報すると付け加えた。

 このことは、近隣の村にも通達されるそうだ。

 このあと、村長は何を思ったかラーに向かって

「今度この女を村で見かけたら、薪で殴っても構わない。その場合の全責任は、俺が持つ」

 と宣った。

 ラーと村の衆は大喜びだが、おい、おい、おい。

 それは、余計なんじゃないかあ。

      *

 何はともあれ、一件落着。

 女は、村人の罵声を浴びながらすごすごと町へ戻って行った。

 その中には、適切な処置を怠ったプーノイ一家への非難も混じる。

 それにしても、居直った女の姿はしたたかでおそろしい。

 公民館に引きずられていくときの悪態は、私も思わずパンチを出したくなるほどの凄まじさだった。

 これは、相当なタマかもしれない。

 なにやら反撃を企むおそれもあるが、なに、村長の公認付きである。

 いざとなったら、私も薪を引っつかみ・・・。

 あ、いかん、いかん。

 せいぜい、水をぶっかけるくらいにしておこう。

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