【タイ山岳民族の村に暮らす】

チェンマイ南西200キロ。オムコイの地でカレン族の嫁と綴る“泣き笑い異文化体験記”

【心の区切り】

2011年09月13日 | オムコイ便り

 亡くなったウーポーの家は、まだそのままだ。

 日曜日には、息子のティーワンが「もう一晩、この家で過ごしたい」と言い出し、昨日は激しい雨で取り壊しは中止になった。

 その間、村の衆が入れ替わり立ち替わり顔を出し、焼酎を酌み交わしたり、トランプゲームをしたりして、そのうちの何人かが泊まり込む。

 誰もいなくなると、すかさずラーが甥っ子のジョーや息子を引き連れて家に上がり込み、ティーワンをひとりにしないように努める。

 ウーポーに可愛がってもらった元気と雄太は、ここ数日、この家でティーワンと一緒に眠っているらしい。

      *

 村に戻って以来、ティーワンは焼酎を飲み続けている。

 酔うと、はたから見ても冷酷に思える態度を示し続ける叔父の太っちょ氏と諍いになる。

 朝方、彼が眠っているうちに、ポケットに仕舞っていたはずの500バーツ札が消えてしまうという事件も起きた。

 いくら言っても、まともな食事を摂ろうとしない。

 昨夜は無理矢理わが家に引っ張ってきて、水浴びをさせ、これまた無理矢理晩飯を喰わせた。

      *

 酒気が抜けたところで、声をかけた。

「気持ちは分かるけど、いつまで酔っ払っていても仕方がない。せっかく出稼ぎで稼いだ金を、タダ酒目当てに集まってくる連中に無駄に振る舞ったり、賭けゲームで失ったり盗まれたりしていては母さんも哀しむだろう。そろそろ気持ちを切り換えて、次のことを考えてみないか」

 暫く考え込んでいたティーワンが、顔をあげた。

「いろいろ迷惑をかけて、すみません。ようやく、目が覚めました。明日、鶏をつぶして母親を弔い、それから家を取り壊して出稼ぎ先に戻ります」

「やっぱり、家は壊すのかい?」

「はい、そうしないと、いつまでも心が残ります」

 供物の2羽の鶏はわが家からのタンブン(寄進)ということにして、さっそく甥っ子のジョーが鶏探しに走った。

       *

 今朝顔を合わせると、驚くほどさっぱりした顔をしている。

 前庭に簡単な祭壇をこしらえ、お盆の上に供物をそなえて、近所の衆数人と共に改めてウーポーの冥福を祈った。

 それから、全員で鶏鍋を囲む。

 食前の焼酎献杯も、きわめて控えめだった。

 ティーワンの顔にも、ときおり笑顔がのぞく。

 出稼ぎに出ている南部のリゾートの話も出るようになった。

 母親の死に顔も見れず、火葬にも立ち会えなかった彼にとっての通夜と葬儀が、ようやく終わったのかも知れなかった。

      *

 私たちにとっては、2回分の通夜と葬儀をぶっ通しでやったようなもので、重い疲れが残っている。

 だが、ティーワンのさっぱりした表情と時おりの笑顔を見ていると、ここ数日の間逃れようもなかった心の重しが、少しばかり軽くなったような感じもある。

 家の解体を手伝うために、まだ数人の村の衆が居残っているが、雨はなかなかあがらない。

 いずれにしても、彼の新しい出発は間近だろう。

 これから、彼の帰省先はわが家になる。

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4 コメント

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昔もあった (ura)
2011-09-13 20:48:10
日本の田舎にも昔あったようなお話しです。
私の子供の頃、にたようなことがありましたが、オムコイでは、まだそのように心の通い合うつきあいが残っていて、うらやましいです
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心の区切り (yu)
2011-09-13 21:47:02
久しぶりにコメントさせて頂きます。
「これから、彼の帰省先はわが家になる」この最後の文章を読ませてもらって涙腺が全開になり安堵したのは私だけではないと思います。
同じ日本人として心優しい貴方と貴方のご家族に感謝の意を表します。
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Unknown (ishi)
2011-09-14 00:06:28
ティーワンの中でも,雨は必ずあがるでしょうね.新しい帰省先,世話焼きラーさんですから,しっくり来ますよね.
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ありがとうございます。 (クンター)
2011-09-14 18:45:35
uraさん、yuさん、ishiさん

 ティーワンに心を寄せてくださったことに、感謝申し上げます。こうしたコメントをいだくと、本当に励みになります。
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