【タイ山岳民族の村に暮らす】

チェンマイ南西200キロ。オムコイの地でカレン族の嫁と綴る“泣き笑い異文化体験記”

【カレーと「スキの歌」】

2010年08月28日 | オムコイ便り
 昨夜は、久々にカレーを作った。

 週に一度の水曜市で確保したジャガ芋、ニンジン、玉ねぎ、そして豚肉。

 ルーは、ずいぶん前にチェンマイで買ったものだが、まあ、大丈夫だろう。

 豚肉や玉ねぎを炒めるのは面倒だから、刻んだ食材を生のまますべて鍋に放り込む。

 アクをとるなんて、面倒なこともしない。

 ジャガ芋やニンジンが柔らかくなったら、火をとめてルーを放り込む。

 しっかり溶かして、弱火で5分ほど。

 うーん、アロイター(うまいというカレン式タイ語)!

     *

 ラーはみそ汁や海苔巻きは大好きなのだが、カレーはさほど食べられない。

 そこで、別のおかず(カレン料理)づくりを手伝ってくれていた友人のウーポーが、怖々と味見をした。

「オイテテ!(うまいというカレン語)。こっちの方が、ずっとおいしいよ」

 普段は遠慮がちな彼女が、わしわしと食べる。

「クンター、ごめんなさいねえ。でも、おいしくてやめられないよ」

 手抜き料理人としては、これほど嬉しいことはない。

 魚捕りから帰ってきた息子たちも、「クンター、アロイ・マークマーク(とってもおいしい)!」

 皿に残ったルーまで、きれいに舐めてしまった。

「あんたたち、こっちの料理も食べなさい」

 ラーがカレン料理を突き出すのであるが、彼らは見向きもしない。

 子供のカレー好きは、万国共通なのだろうか。

 うーん、学校のそばでカレー屋でも開くかなあ。

      *

 満腹になった3男のポーが、耳慣れたメロディーを口ずさみ始めた。

 あれ、これは坂本九ちゃんの『上を向いて歩こう』ではないか。

 私も時々、このメロディーを口笛で吹いたりするから、それで覚えたのだろうか。

 しかし、よく聞いてみると「スキ」だの「MK」だのという歌詞が間に混じる。

「ポー、なんだそれは?」

「スキの歌です」

「スキの歌?」

「テレビのコマーシャルソングだよ」

 ラーが、注釈を加えた。

 そう言われてみれば、このメロディーに乗ってイカやエビなどタイスキ用の食材アニメが続々と登場するなかなか楽しいコマーシャルがあったような気がする。

 MKというのは、このタイスキのチェーン店名である。

       *

 九ちゃんの『上を向いて歩こう』が、『スキヤキソング』として世界的にヒットしたことは、よく知られている。

 2年ほど前、友人のウイワットに連れて行かれたタイ人しか行かない場末のカラオケ屋にも、この歌だけは用意されていた。

 観光地パーイのライブハウスで、顔なじみのギター弾きが「日本語で歌ってくれ」と言いつつかき鳴らしたのも、このメロディーだった。

 従って、とりわけ年輩のタイ人の中には、この歌が日本のヒットソングであることを知っている人は少なくないのかもしれない。

 しかし、ポーのようにテレビで初めて耳にした新世代にとっては、これは『スキの歌』以外のなにものでもないのだろう。

 まあ、タイスキは日本のスキヤキから命名されたらしいから(食べ方はシャブシャブや水炊きみたいだけど)、『スキヤキソング』をコマーシャルに採用するというのは、なかなか秀逸なアイデアではある(著作権関係が完全にクリアされているとして)。

 だが、若き日の永六輔氏が書いた本来の歌詞の意味がまったく知られないままに、ただのコマーシャルソングとしてタイの新世代の間に流布していくのは、旧世代の日本人としては、ちょっと困る。

 今度、村や町のイベントなどでのど自慢大会が開かれる機会があったら、本来の歌詞の意味をきちんと伝えた上で、日本語による『上を向いて歩こう』を披露してみようか。

 鍋の底にわずかに残ったカレーで朝飯を食べながら、そんなことを考えた。

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