ラーが、ふたりの息子のために「手伝い競争表」を作った。
皿洗い、豚の世話、野菜の水やりなどなど、なんでもいいから自ら進んでやった手伝いをノートに記して、ふたりに競わせるのが眼目らしい。
この中にはもちろん、魚獲り、カブトムシ獲り、コオロギ獲りなど、自給自足活動も含まれる。
昨日も書いたが、次男イエッの得意技は魚釣り、3男ポーの得意技はカブトムシを初めとする昆虫捕りである。
夕方家に戻ると、昨日釣った大ナマズに味をしめたイエッは今日も池に走ったといい、ポーは神妙な顔で野菜に水やりをしているところだった。
「ポー、カブトムシ獲りには行かないのか?」
「クンター、カブトムシは暗くなってからの方がたくさん獲れるんです」
「ほお、なるほど」
*
晩飯の支度をしていると、釣り竿を手にイエッが戻ってきた。
「クンター、今日は駄目でした!餌は喰うんだけど、なかなか針にかからなくて」
悔しそうである。
「まあ、魚釣りはそんなもんだよ。焦るな、焦るな」
晩飯を済ませると、ふたりがなにやら相談をして、すぐに出かける支度を始めた。
「オボートー(地区行政事務所)にカブトムシ獲りに行ってきます!」
雑木林の中に新しく拓かれた広大な敷地には常夜灯が灯っており、ここにも大量のカブトムシやコガネムシが集まってくる。
ふたりで、戦果を競い合うのだという。
放っておくと、晩飯のあとはゴロゴロして日本製アニメに見入ったり、じゃれ合っているうちに喧嘩になったりするから、ふたりがいないと静かで非常によろしい。
苦肉の策の「手伝い競争表」は、なかなか効果的なようだ。
*
今朝は、囲炉裏で餅米を蒸した。
さて、おかずは何にしようかと迷っていると、ラーが隣家に声をかけた。
すると、またまた隣家のプーノイがやってきて、昨夜の息子たちの戦果であるところの小振りなカブトムシの羽をむしり始めた。
これを鍋で炒り、一昨日のコガネムシと同様に薬草や唐辛子と一緒に搗いてタレを作るのだという。
となると、食材は庭に成っているキュウリと長豆だけで済む。
実に、経済的である。
とはいえ、コガネムシのタレはさほどうまくなかったから、店の裏庭に成ったオクラをもいできてゆがき、目玉焼きを作って万が一の場合に備えた。
ところが、淡い緑色になったタレにキュウリの輪切りや長豆を浸けて食してみると、コガネムシのそれよりもはるかにうまい。
昨日の小魚搗きに匹敵する味わいである。
「カブトムシはコガネムシよりも高級品だからねえ」
プーノイが満足そうに頷き、いつもの質問をする。
「カブトムシは日本にもいるのかね」
「子供の頃にはよく獲って遊んだけど、食べたことはないですよ」
「ほう、食べない?それは勿体ない」
「でも、最近はほとんど獲れなくなって、都会では高い値段で売り買いされているそうです」
「ほう、じゃあこのカブトムシも高く売れるかね?」
「さあ、どうかなあ。商売にしている人がいるかも知れんけど、日本まで運ぶのは手間だから、ここで喰っちまった方がいいと思いますよ」
「そうじゃね、なにしろこれは昨夜獲ったばかりで新鮮だからなあ」
なんだか、訳の分からん話をしながら、ほかほかの餅米をワシワシと平らげた。
*
「カブトムシ、うまかったぞお」
学校から戻ってきた息子たちにそう声をかけると、今夜も大喜びで外に飛び出して行くことだろう。
となると、ここ当分はカブトムシ攻めが続くことになる。
ありがたいような、困ったような。
そこへ、プーノイの3男が仕掛け網にかかったという大きな川魚を届けてくれた。
父親が、毎日のようにわが家で飯を相伴していることに対する埋め合わせなのだという。
プーノイの“半家出状態”をもたらした激しい夫婦喧嘩の原因は、もともとこの息子が作ったらしいのだが、なかなか殊勝なことではある。
なにはともあれ、彼のおかげで今夜は川魚料理にありつける次第と相成った。
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