家に戻ったら、すぐに麺屋再開の準備にとりかかるつもりだった。
ラーもそのつもりで、試作用の麺や調味料などをチェンマイで仕入れてきている。
私が友人たちに中古車探しを依頼しているのも、この店で販売する各種の商品や必要な什器・備品などを山奥やチェンマイで調達するつもりだからだ。
ところが、すでに工事が終わっているはずの貸店舗の姿は、1週間前とほとんど変わっていない。
床のタイル貼りが、相変わらず放置されているのである。
そして、工事の人がすべて、隣りに建てられている2軒目の貸家の躯体工事に投入されている。
どうやら、2軒の躯体工事が終わってからタイル貼りに取りかかるつもりらしい。
貸主の雑貨屋に顔を出すと、女主人が「クンター、スワイマイ(きれいでしょ)?」と声をかけてくる。
もうそんな段階はとっくに過ぎて、問題はいつ開店できるのかということなのだが、相変わらず能天気だ。
「工事は何日に終わるの?」
「何日かは分からないけど、もうすぐ終わるよ」
「もうすぐ、もうすぐって、これまで何回“もうすぐ”って言ったと思う?」
「とにかく、もうすぐだから。ジャイエンエーン(落ち着いて)」
「・・・」
*
今朝目を覚ますと、咽喉が何かでふさがれたような感じがする。
唾を呑み込むと、両耳の下あたりに痛みが走った。
昨日も唾を呑み込むときに軽い痛みがあったのだけれど、今朝の痛みは半端ではない。
扁桃腺でも、腫れたのだろうか。
顔を洗って鏡に咽喉の奥を映してみると、のどちんことその左右の口蓋弓が真っ赤に腫れ上がっている。
まいったなあ。
熱い薬草茶をふうふうしながらゆっくりと飲んでみたら、少し楽になった。
台所では、ラーが麺の試作に大わらわだ。
「クンターはバミー(黄色の小麦麺)が好きだから、バミーを味見してくれる?手伝ってくれたジョーとウーポーには、クゥイッティアオ(半透明の米麺)を試してもらうから」
ずいぶんと早起きして豚骨スープの仕込みを始めたらしく、すぐに器に盛られたバミーナーム(スープ付き黄色麺)が差し出された。
焼豚、ルクチンムー(豚肉団子)、ルクチンプラー(サツマ揚げ)、揚げニンニク、モヤシとやけに具だくさんだ。
「ラー、これじゃあ利益が出ないぞ」
「ご心配なく。これはもちろん、クンターだけに作った特製バミーです」
スープをすすってみると、なんだかどこかで一度味わったことのあるような懐かしい味がする。
しばしの黙考の末に思い至ったのは、亡き妻が若い頃に作ってくれた豚肉入りモヤシラーメンの味ではないかということだった。
甦った味の記憶をそのままに、一見日本のラーメンに似た黄色のバミーを勢い良くすすりこむ。
む?
これは、まさしく日本のモヤシラーメンではないか!
と言いたいところだが、タイのバミーはやはり日本のラーメンとは、味も噛みごこちも全然違う。
頭の中に完璧無比の日本式ラーメンの味がシミュレートされていたので、一瞬軽い失望感を味わったが、気を取り直してバミーをほぐしつつスープにからませていくと、なかなかいい味である。
日本式ラーメンへの幻想をきっぱりと捨てさり、これをタイのバミーであると正しく認識・評価すれば、かなりの高得点が付与できるのではあるまいか。
などと御託を並べている暇などなく、鼻水を垂らしながら一気にズルズルと啜り終わった。
咽喉の痛みなど、すっかり忘れている。
「クンター、味はどう?」
「うん、大丈夫だ。合格点!」
「ああ、よかった!クゥイッティアオの方も、そばの店のものよりずっとおいしいって」
あと何度か試作を繰り返せば、半年間のブランクは、すぐに埋まるだろう。
問題は、雑貨店主の言う“もうすぐ”が、いったいいつになるかである。
いけね。
ストレスのせいか、また咽喉の奥が痛くなってきた。
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また性懲りもなく携帯からのチャレンジですので尻切れてたらすいません!
しかし今月給料日前で早くも断食に入った僕にはとても酷な写真だったもので思わず投稿せずにはいられませんでした..。
う~ん、食べたい!食べたい!バミー食べたい!(>д<)
あ~美味しそう!(-.-;)
くれぐれもお身体無理をなさらずにお大事に。(^^)
それは、大変失礼しました。お詫びのしるしに、これから給料日までは連日“食い物”シリーズでいきたいと思います(笑)。
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n-usuiさん
器は、竹で編んだ籠状のものに黒漆を塗ったものです。この他に、湯飲み、ぐい飲み、食卓用の大盆などを使っています。いずれも、水曜市場で購入。
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鈴木さん
ミニバン発着所の食堂のクイティアよりも、うまいと思います。せひ、お立ち寄りください。あ、それから、場所をお教えしたチェンマイの食堂夫婦は、差別をおそれて周囲には出自を隠しているようです。念のために、お伝えしておきます。
今年は行けそうにないのですが…