【タイ山岳民族の村に暮らす】

チェンマイ南西200キロ。オムコイの地でカレン族の嫁と綴る“泣き笑い異文化体験記”

【命名“愛ちゃん”】

2010年09月08日 | オムコイ便り
 
 4日前に生まれた牛の赤ん坊に会いに行った。

 群れから離すために、寝場所は従兄のマンジョーの田んぼ脇の草原を借りている。

 母牛の脇にぴったり寄り添った赤ん坊は、われわれの姿を見ると、珍しそうにこちらの顔を覗き込む。

 すでに足元はしっかりして、背中には北タイ牛独特の小さな瘤が盛り上がっている。

 体毛も白いし、これはハーレム・キング改め“しんちゃん(顔が『クレヨンしんちゃん』に似ている)”の娘である可能性がきわめて高い。

 甥っ子のジョーに確かめると、彼も「間違いないでしょう」と嬉しそうに笑った。

 これまでは他家の雄牛からの“もらい妊娠”が続いてきたのであるが、これで初めてわが家の牛同士による交配が成功したのである。

      *

「クンター、この娘に日本語で名前を付けてよ」

 ラーが言い出した。

 3年ほど前、初めて買った暴れん坊仔牛に“ラー”と名付けて以来、雌には名前をつけていない。

 初めて生まれた雄には“武蔵”と名付けたのだが、こいつは田んぼに入り込んで稲穂を食べる悪い癖がついて、早々に売り払ってしまった。

 いま名前が付いているのは、雄の“しんちゃん”と“翔太”だけである。

 さて、どうしたものか。

 改めて顔を眺めてみると、とにかく愛らしい。

「ラー、“愛ちゃん”でどうだ?日本語でラブとかラブリーとかいう意味なんだけど」

「ラブリー?ああ、それならこの娘にぴったりだね。それに、呼びやすいし」

 ラーがカレン語でジョーに通訳すると、彼も気にいった様子だ。

「アイチャン!マー・ニー・マー(こっちにおいで)!」

 さっそくラーが大声で呼びかけると、愛ちゃんがゆっくりとこちらに近づいてくる。

「あ、この娘、かしこい!もう、自分の名前を覚えたよ」

 親バカである。

 そして、さっきから伏せはしているものの興味津々で仔牛の様子をうかがっている飼い犬たちに言い聞かせた。

「ゲンキ!ユウタ!新しい家族のアイチャンだよ。仲良くしなさい」

 これを合図に2匹の犬はそっと仔牛に近づいていったのであるが、角を下げながら一歩踏み出した母牛の勢いに押されて、じりじりと後ずさりする。

 これで、赤ん坊牛に構うこともしなくなるだろう。

      *

 田んぼの草取りを終えて合流したマンジョーとバカ話を交わしたあとで、草原を下った。


 ひと月も田植えが遅れた周囲の棚田でも、すでに青々とした稲が腰の高さまで伸びている。

 簡素な竹橋がかかる川を渡って、村に続く山道を登る。



 今日は珍しく太陽が照りつけているのだが、川沿いを吹き抜ける風は涼やかだ。

 知らぬ間に口笛を吹いている自分に気がついた。

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