朝8時半に宿を出て、9時前にコンソンハンドン(陸運局)に着いた。
2階の「運転免許情報ブース」(英語表記あり)前には、すでに長い列ができている。
用意した居住証明書、健康診断書、写真2枚とパスポートを提示すると、若い女性係官が流暢な日本語で
「自動車の免許ですね。21番窓口に行ってください」。
ここでパスポートのコピー(顔写真・ヴィザ)を取るように言われ、戻ってくると申請書に名前と電話番号を記入する。
「申請書の記入はタイ語で」と聞いていたので、わざわざラーを同行したのであるが、係官がタイ語で「講習、学科、実技」と書き込んでくれて、以降もすべて英語で事足りた。
英語が通じないときは、さきほどの係官が助けてくれるのではあるまいか。
書類一式を持って、今度は28番窓口へ。
10分ほど待って、総勢30名ほどの受験者たちと一緒に、色覚検査とブレーキ反応テストを受ける。
色覚検査は、差された色を「赤、黄色、緑」と答えるだけ。
反応テストは、模擬アクセルペダルを踏んで青ランプを表示させ、赤ランプが付いたら模擬ブレーキを踏み込むだけだ。
9時半前には、この第一次テストが終わった。
*
10時から、3番の学科試験教室に入り、まずはパソコン画面に向かって日本語による「法規講習」を受ける。
あいにくクーラーが効きすぎて、ちっとも集中できない。
1時間が、やけに長く感じられた。
終わると、すぐに学科テストだ。
いかついATMマシンのような機械の前に腰をおろしカードを差し込むと、日本語で問題が表示される。
答えは、4択方式である。
かなり怪しい日本語なので、質問や答えの意図を理解するまでに何度も読み返す必要があった。
難関は日本と異なる各種の標識だが、あとはほとんど事前の講習内容のおさらいである。
終了ボタンを押すと、30問中25問の正解。
日本語で「合格」と表示され、思わずバンザイをした。
書類にサインをもらい、「次は運転実技です」。
日本のように勿体ぶっていないから、とても気持ちがいい。
*
屋外に出て、少し離れたところにある実技場にむかう。
「クルマ持ってる?」
「いや、ここで借りられると聞いたんだけど」
「今日は、ないなあ」
「え?」
「仕方ないな。あいつに借りればいいさ」
係官が、実技が終わったばかりの若者の方を指差す。
若者がうなづいてくれたので乗り込んでみると、30年落ちくらいのガタボロである。
「あっちへまっすぐ走って、右折すると橋があるだろう?あの手前の坂で一旦停止して、10数えたら坂道発進。あとはここまで走ってきて、ポールの間を直進して停止。そのまま、バックで戻る。次が、縦列駐車。最後に、この赤い線の上で止まる。分かった?」
この係官の英語は滅茶苦茶で、理解度は50%程度だが、想像をまじえてコースを想定する。
まあ、走ってみればなんとかなるだろう。
ギアをローに入れてアクセルを踏み込んでも、なかなか発進しない。半クラッチでなだめすかしながら、なんとか走り出した。
さて、坂道発進。
サイドブレーキを引くが、全然効かずにスーッと滑り落ちていく。
おまけにブレーキも、効かない。
あちゃーっ、こりゃ駄目だ!
半クラッチの連用でなんとか登り切ったが、なんだか焦げ臭い。
係官の前に戻って、ポールの間を前進とバック。
久々の運転で縦列駐車がきれいに決まらず悔しい思いをしていると、係官が「そこはいいから、早く赤線まで戻ってこい!」と大きなジェスチャー。
あれ、どういうこった?
赤線で停車すると、別の係官が「よし!」といった顔でうなづいた。
なんだか、合格しちまったようだ。
「じゃあ、こいつに金を払ってね。以上」
「いくら?」
「それはふたりで相談してくれ」
*
若者のクルマに乗り込み、事務棟に戻った。
「ありがとう、助かったよ。で、いくら?」
「1,000バーツでいいよ」
「1,000バーツ?馬鹿言うなよ。たったの5分だぞ。100バーツで充分だろ?」
「実は、このクルマは借り物でガソリン代も含めて1,000バーツを返さなくちゃいけないんだ。なにせ、山奥に住んでるもんだから金がないんだよ。助けてくれないか」
「・・・」
事務棟に入って、情報ブースで番号札をもらう。
若い男も隣りに座って、書類を広げ出した。
「実は、学科試験に2回も落ちて、3回目の今日やっと実技も受けられたんだよ。だから、宿代もかさんで・・・」
1回目は14点。2回目は15点。そして、今日は24点。
「あんたは?1回目で、25点。そりゃあ、すごいなあ」
(あ、何点以上が合格なのか聞き忘れてしまった!)
彼の話がホントか嘘かは知らないが、まんざら悪いヤツではなさそうだ。
まあ、彼のおかげで一発合格できたのだから、ここは何も言わずに奮発するとするか。
「じゃあ、300バーツで手を打とう」
「ありがとう!本当に、助かるよ」
彼はワイ(合掌礼)をしたあとで、その金をしまわず書類綴じにはさみこんで、写真撮影込みの手数料205バーツに充当してしまった。
本当に、困っていたのかもしれない。
*
彼の次ぎに、私の番号が表示された。
係官がパスポート番号や住所などをパソコンに打ち込みながら、「あれ、あんたと同じ苗字の日本人が3人も免許証の書き換えに来たよ」と驚いている。
まあ、よくある苗字だからなあ。
「手数料205バーツ。あ、あんたは写真を撮る必要がないから105バーツでOK」
10分ほど待つと、写真を貼り付けた台紙のようなものを手渡された。
「はい、これが免許証です。コーティングは、向うのコピーコーナーでやってくれます」
え?
翌日交付じゃなかったのか!?
この効率の良さに、またまた驚いてしまった。
10バーツでコーティングを済ませると、「はい、これですべて終わりです」
時計を見ると、ちょうど12時。
わずか3時間のスピード取得である。
情報コーナーで、最終確認をした。
「この免許証の有効期間は、ここに書いてあるとおり1年間です。そして、1年後に更新すると5年間有効の免許証が交付されます」
*
「クンター、すごい。タイの法規、全然知らないのに1回で合格しちゃったね!」
バイクで迎えにきたラーが、免許証を珍しいものを見るるようにしげしげと眺めている。
もちろん、彼女は村人たちと同様に免許など取ったことがない。
なにしろ、一方通行でも平気で突っ込んでいくのである。
七面倒な学科講習を受ければ、きっと途中で居眠りを始めるに違いない。
そのままカレン族の友人が経営する食堂に向かい、水牛のスープで遅い昼食をとった。
ビールは飲まなかったが、なんだか乾杯したあとのようにいい気分だった。
*
あ、カメラを持参するのを忘れたので、掲載する写真がない。
やっぱり、少し緊張していたのだろうか。
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そのカレン族のご友人がやっていらっしゃるレストランの場所を教えて頂きたいです。
ありがとうございます。バンコクでは、運転人口の半分が無免許だと聞きました。オムコイでは、9割くらいでしょうか(笑)。
友人の食堂は、チェンマイ門のすぐそば。定宿タイウエイゲストハウスの3軒隣りで、特に名前はありません。カレン族料理というわけではなく、水牛スープ、トムヤム味蛙スープ、サイウア(薬草入りソーセージ)などがおすすめです。
ありがとうございます。
山から下りた子ども達のサポートを兼ねたコミュニティーを作りたくて。実際に街で生きている先輩達にご意見を伺いたいのです。ちょっと今年は不景気で渡航予算が厳しいのですが…