【タイ山岳民族の村に暮らす】

チェンマイ南西200キロ。オムコイの地でカレン族の嫁と綴る“泣き笑い異文化体験記”

【久々の牛追い】

2010年05月29日 | オムコイ便り

 昨日の“コンクルン対決”は、わが麺屋の圧倒的な勝利に終わった。

 愛らしい少女たちが去ったあとも客足は途切れることなく、昼前にはスープ切れの非常事態。

 補充している間に数人の客を逃したが、常連の子供たちは気長に待ってくれている。

 午後2時になって、やっとクッティアオの朝飯兼昼飯にありついた。

      *

 そこへ、ラーが戻ってきた。

「クンター、売れ行きはどう?」

「普段の2倍の売り上げだ」

「えー、信じられない!」

「スープは補充したけど、ニンニク揚げがなくなったから、もう店を閉めるしかないな」

「待って、待って。すぐに作るから」

 山に同行したアッシーくん(従姉の長男)に、さっそくニンニク搗きを命じた。

 自分は、切れかかった野菜やネギ、パクチーの補充に走る。

 その間にも客がぽつぽつやってきて、ついには麺も売り切れそうだ。

「ラー、麺を買って来い」

「今日は市場も休みだよ」

「なんで、もっとたくさん仕入れておかない?」

「だって、いつもはこんなに売れないもん」

 うーん、残念。

 せっかく、俺のクッティアオのうまさがオムコイ中の若い娘たちの間に響き渡ったというのに・・・。
    
      *

 ひと休みしていると、ラーが再び茸狩りに行く準備を始めた。

「また行くのか?」

「だって、さっきまでの収穫は1キロ足らずだから、まだ100バーツにしかならない。クンターには、負けられないよ。」

「そうか。じゃあ、せいぜい稼いできなさい」

 勝者の余裕を見せてやった。

「うん、あたし明日からはずっと茸狩りに行こうかな。クンターひとりの方が、クッティアオがたくさん売れるみたいだから」

「・・・」

      *

 午後4時になって、甥っ子のジョーが店に迎えにやってきた。

 一頭の雌牛の尻がただれて、ちょっとひどいことになっているというので、ラーと一緒に見に行く約束をしていたのである。

「あれ、ラー叔母さんは?」

「また、茸採りに行ったよ」

「ナッケー」

 ジョーが、苦笑しながら呟いた。

 スプレー薬と岩塩をあがなって、実に久しぶりに山に入った。

 見慣れた小川沿いの巨木が、完全に倒壊している。

 先日の大雨で、根のまわりの土が流されてしまったらしい。

 棚田のあちこちにしつらえられた苗代の緑が、鮮やかだ。

 もうすぐ、田起こしが始まる。

     *

 先導していたジョーが足を止めて、草の上に吐かれた牛の唾を見つけた。

 そして、遠くから聞こえてくるカウベルの音に耳を澄ます。

「クンター、ウチの牛たちはここでさっきまで草を食べてたはずなんだけど、今は向こうの田んぼの方に移動したみたいです」

 おいおい、唾で牛の見分けがつくのかよ。

 その通り、ジョーが一直線に向かった場所にわが家の牛たちがせっせと草を食んでいる。

 長かった乾季の間に草が枯れて、村の牛たちはたいていあばら骨を浮かせているのだけれど、ジョーの世話は相変わらず行き届いて、どの牛もよく太っている。

 この間生まれたばかりの黒毛も、ずいぶん大きくなった。

 足を傷めていた仔赤毛も、もう足を引きずってはいない。

 7頭の雌成牛がすべて孕んでいるので、ボスの“ハーレムキング”は別の場所に引き離しているのだという。

 よく頑張ったなあ、ハーレムキングよ。

 「アオ、アオ、アオ!」

 そう声をかけながら、山道を歩く総勢11頭の牛を追って行くのは、なかなか気分がいい。

     *

 柵で囲った寝場所に追い込んでいると、遠くからラーの笑い声が聞こえてきた。

 姿を消していた飼い犬の元気と雄太が、ラーのところへ駆け寄ったらしい。

 〈なんだ、この奥の山に入っていたのか〉

 同行していたふたりの甥っ子に続いて、自慢げなラーの顔が現れた。

「クンター、ほら、見て、見て。また、いっぱい採れたよ」

 カレンバッグの中を覗くと、1キロはありそうである。

 総計2キロ弱、200バーツか。

 麺屋の売り上げと合わせると、なかなか悪くない。

     *

「それじゃあ、雌牛の傷にスプレーをかけるので、クンターとラー叔母さんは他の牛に塩をやって引き離してください」

 柵の外から手のひらに載せた塩を差し出すと、首ひもをかけられていない牛たちがワッと集まってきた。



 黒っぽい舌はざらざらして、ときおり指を軽く噛む。

 とりわけ、仔牛たちは鼻面を撫でてても全く警戒しないし、いつまでも側から離れようとしない。

「よしよしよし、お母さんが来たよ。もっとしっかり舐めて、元気に育つんだよ」

 ラーが、うっとりとしながら黒毛の顔に自分の顔をくっつけている。



 その向こうでは、2人の甥っ子が雌牛の前に立って気をそらし、背後からそっと近寄ったジョーがスプレー薬を振りかけた。

 そのたびに、角を突っかけたり、後ろ足で蹴ろうとするので、なかなか簡単にはいかない。

 尻の傷は何かにえぐられたようになっており、出血もある。

「獣医に相談して、注射してもらった方がいいんじゃないか?」

「それじゃあ、高くつきます。しばらく、このスプレー薬で様子を見ましょう」

 ジョーは、相変わらずわれわれに無駄金を使わせようとはしない。

 最後に、ぐい飲みに注いだ焼酎にラーが“言霊”を吹き込み、それを甥っ子のひとりが背後に回って、傷口めがけて振りかけた。

     *

 3人の甥っ子は、山の中に停めておいたバイクに分乗してオフロードを下るという。

 私とラーは、運動も兼ねて歩くことにした。

「クンター、ラー叔母さん、歩いたら1時間かかりますよ」

「莫迦なこと言わないで。30分で充分だよ」

「無理、無理」

 そういうことなら、彼らの鼻を明かしてやろうじゃないか。

 私が先導してぐんぐん下ると、なんと20分で家にたどり着いた。

 ラーは、かなりへたばっている。

「クンター、チェンマイにいたときはずいぶんお腹が出てたけど、村に戻ったらすっかり元に戻ったね。それに、歩くのすごく早いし」

「チェンマイじゃあ、机の前に座りっぱなしだったからなあ。俺はやっぱり、山の方が性に合ってるみたいだ」

 つまり、そういうことなのだろう。

 たまにする家出は、嫁の教育上とても効果的だとはいえ・・・。

     *

 遅い晩飯を食っていると、朝から姿を見せなかった次男のイェッがふらふらになって戻ってきた。

 昼飯も食べずに茸を採って雑貨屋に売り、100バーツの小遣いを稼いだのだという。

 そのあとに戻ってきたポーは、巨大なプラドゥック(鯰)を釣り上げてきた。

 放ったらかしの息子たちの自給自足態勢も、万全であるらしい。

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