【タイ山岳民族の村に暮らす】

チェンマイ南西200キロ。オムコイの地でカレン族の嫁と綴る“泣き笑い異文化体験記”

【コンクルン対決】

2010年05月28日 | オムコイ便り
 
 今日は、ヴィサカブーチャ(仏誕節)で国民の祝日だ。

 朝6時半に店にやってきて、釣りの支度をしている3男のポーをラーが叱りつけた。

「今日は仏さまの誕生日なんだから、生き物を殺しちゃいけないんだよ!」

 ポーが泣きそうになって店の裏でぐずぐずしていたが、いつの間にか姿が見えなくなった。

 見ると、釣り竿が消えている。

 うーん、やっぱり行っちまったか。

      *

 ポーが幼いころ、ラーはチェンマイで家政婦をしていたから、その世話は次姉が引き受けていた。

 クリスチャンの次姉に連れられて教会に通っていたポーは、ラーの期待に反していつの間にかクリスチャンになってしまったのである。

 だから、彼は敬虔な仏教徒であるラーの教えとキリスト教の教えとの間で、しばしば揺れ動くことになる。

「クンター、ポーを叱ってよ」

 だが、正直なところ、私にはこの問題にどう対処していいのか、よく分からない。

 ちなみに、ラーは4人兄姉の末っ子だが、亡くなった長兄と次姉はクリスチャンなのである。

      *

 だが、数分もすると、ラーはすでにそんなことはすっかり忘れてしまっている。

「あ!ということは、今日は豚骨も手に入らないんだ。クンターお店、どうする?」

「お前さんの魂胆は分かっているよ。茸狩りに行きたいんだろ?作りおきのスープがあるから問題ないよ。俺が店番してるから、5キロくらい採ってこい」

 ちなみに、今日の茸の買い取り価格はキロ110バーツと、普段より10バーツ高い。

 すでに、ほとんどの村の衆が山に向かっており、店前の通りは閑散としている。

 昨日は、茸がよく採れる山の一帯に200人ほどの村の衆が集まって、「まるでパーティーみたいだった」のだそうな。

 だから、遅れをとってはならじと、仕込みをやりながらラーは気もそぞろだ。

「あれ、掘り道具はどこにいったんだろう?」

「えーと、帽子、帽子。クンター、あたしの山歩きサンダルはどこ?」

 うるさくて仕方がない。

 7時半頃になって、ひと通りの準備を済ませると、待たせていた甥っ子のひとりと一緒に店を飛び出して行った。

「クンター、1~2時間で戻ってくるからね」

「そんなこと、誰も信じないよ」

 たぶん、夕方まで戻ってこないだろう。

 やれやれ、やっと静かになった。

     *

 今日は、家主の雑貨屋も店を閉めている。

 たぶん、クッティアオはさほど売れないだろう。

 ちょっと離れたオボトー(地区行政事務所)所長の妻が営む雑貨屋まで買い物に行くと、途中でカレン服を着た数人の少女とすれ違った。

 微笑みかけると、全員が丁寧なワイ(合掌礼)を送ってきた。

 雑貨屋に行くと、村の衆から買い取った大量の茸の袋詰めに追われている。

「クンター、この茸おいしいよ。キロ150バーツ」

「いらない、いらない。ウチも毎日茸食ってるんだ。ラーが山に行ったから、今夜も茸料理だよ」

 買い物を済ませのんびり歩いて戻ると、店の前にさっきの少女たちがしゃがみ込んで私の方を見ている。

「クッティアオ、ありますか?」

 時計をみると、8時である。総勢6人。

 わが麺屋としては、空前のことだ。

 ちと焦ったが、食材は揃っている。

「いくつ?」

「持ち帰りをふたつ」

 ホッとした。

「水、いただいてもいいですか?」

「どうぞ、どうぞ」

 全員が、再びワイをして礼を言う。

 気持ちのいい少女たちだ。

 張り切って、調理にかかった。

 すると、もうひとりの少女が「わたしもひとつ下さい」

 さらに、別の少女が「あたしもふたつ下さい」

 えーと、全部で持ち帰りが5つか。

 こりゃ、大変だ。

 なにしろ、持ち帰りにはゆがいた麺・野菜・ルクチンとスープを別々にビニール袋に詰めるという作業がある。

 特にスープを詰めてゴムで縛るという作業が難しく、不器用な私はしばしば指に火傷をしてしまうのだ。

 あたふたと作業を進めていると、少女たちが揚げニンニク容器の蓋をあけたりと手伝ってくれる。

 ・・・ありがたいけど、おじさんは近くで作業を見守られると、かえって緊張してしまうんだよ。

     *

「おじさん、コンクルンはどこへ行ったんですか?」

 コンクルン?

 半分の人?

 ああ、嫁のことか。

 日本語に換えれば、パートナーということになるのだろう。

 深読みすれば、夫婦は一心同体ということだ。

 だから、連れ合いはコンクルン。

 なかなか、いい言葉だ。

「ラーはね、山に茸採りに行ったんだよ、我慢できなくてね」

「ああ、やっぱり」

 にっこり笑った。

 すっかり、読まれている。

 やっと、作業が終わった。

 売り上げ、100バーツなり。

「おじさん、どうもありがとう」

「こちらこそ、ありがとう。待たせて、悪かったね」

「じゃあ、さようなら」

 再び、丁寧なワイを送ってくれた。

 喋り方もおだやかで、とても愛らしい娘たちだ。

 いつもラーの様子を書いているので、読者の中にはカレン族の女はとんでもないじゃじゃ馬ばかりと思っている方がいるかもしれない。

 だが、たいていの娘たちは内気でしとやかで控えめだ(結婚後に豹変するのは、世の倣いであろう)。

    *

 と、ここまで書いたら、また若い娘がやってきた。

「持ち帰り3つ下さい」

 時計を見ると、10時半。

 そして、またひとり。これも、若い娘である。

 珍しい滑り出しだ。

 たいていは、昼前まで閑散としているのに。

「もしや、俺の作るクッティアオが娘たちの間で評判になっているのではあるまいな」

 アチチ!

 莫迦なことを考えていたら、指に火傷しちまった。

 さて、麺屋と茸狩りの“コンクルン対決”、どちらに軍配があがるか?

 *写真は、必勝祈願した麺屋の守り神(仏)たち。

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3 コメント

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Unknown (ishi)
2010-05-28 23:21:52
あはは.さい先のいい滑り出しですね.せっかくですから,村娘さん達の写真が見たかった(^^).カレンの白いワンピースに身を包んだ娘さん達は,さぞ可憐でしょうね.
少年も,おじさんになるのは世の倣いですか.
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やられました。 (クンター)
2010-05-29 21:07:54
ishiさん

 「カレン族の娘」は「可憐」。うーん、やられました。
 今まで、このギャグを思いつかなかったのは、きっとラーのせいでしょうね。

 
返信する
コンクルン (バンコクジジイ)
2010-05-30 21:20:27
なんかぴったりくる日本語は伴侶ですかね。
良い言葉が有りますね。
こういう素敵な言葉はしっかり覚えておきたいですわ。
返信する

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