昨日も、夜半から雨が降り出した。
朝になっても小雨が続き、朝飯を食べる頃にはまた雨脚が強くなる。
それでも、寒さは日ごとに緩んでくるようで、
「春の雨は優し~い筈なのに♪」
小椋桂の歌なんぞ口ずさみつつ、裏庭で倒れたバナナの幹を切る。
ところが、9時過ぎになって雨があがると、空気が急に冷たくなってきた。
10時になっても、気温は17℃くらいである。
うう、さぶ。
あわてて靴下を履き、厚いズボンに履き替えた。
*
ところで、今日は完全な寝不足である。
寒がりのラーと一緒に薪を焚きながら炉端で寝ていた3男のポーが、明け方になって突然泣き出したのである。
そして、なにやらふたりが騒ぎ始めたかと思うと、今度はラーが仏壇(タンスの上に仏像を載せているだけだが)に向かってお祈りを始めた。
「ん、なんだ、なんだ?」
ねぼけ眼で話を聞くと、ラーが誰かに蛮刀で襲われたというのである。
「メー(母ちゃん)を殺すなら、僕を先に殺せ!」
彼は健気にも暴漢の前に立ちはだかったのだが、その甲斐なく、ラーの首は宙に飛んだ。
そこで、「ギャーッ!」となって目が覚めたらしい。
*
夢とはいえ、どうにもすさまじく不吉なシーンである。
ラーがなだめても、ポーはなかなか泣きやまない。
ラー自身も、なんだか怖くなってきた。
そこで、すかさず仏様にお祓いを願ったというのである。
*
小遣いを手にしてすっかり立ち直った彼を学校に送り出してから、彼の悪夢の原因を探ってみた。
「お前さん、豊穣祈願祭のあとの宴会で酔っ払って、誰かと言い争いでもしなかったか?それを、ポーが見たんじゃないのか?」
「言い争いなんか、していないよ。ただ、悪酔いしてからんできた従兄の嫁さんを、軽く突き飛ばしただけだよ」
な、なんだとお?
その方が、よっぽど悪い。
「でも、そのときポーはそばにはいなかったよ」
「ふうん、じゃあピー(幽霊)ものの映画でもどこかで見たのかなあ?」
タイのピーもの映画は、かなり残虐である。
だが、描写は稚拙なことが多く、子供たちはたいてい笑いながらそれを眺めている。
「それとも、学校で誰かにお前さんの悪口を言われて喧嘩になったとか。あるいは、お前さんがきつく叱り過ぎるから、彼の深層心理の底になんらかの怨みが溜まっているとか。でも、それなら12歳にもなってお前さんと一緒に水浴びをしたり、寝たりはしないよなあ。うーん・・・」
昔聞きかじったフロイトの『夢判断』などを思い起こしつつ、あれこれ首をひねってはみたものの、朝飯を食べ終わる頃には、そんなことすっかり忘れてしまう暢気なポー(父ちゃん)とメー(母ちゃん)であった。
*
ひとりになって机に向かうと、ふと脳裡に衝撃的な映像シーンが浮かび上がった。
「ひょっとして、ジャック・バウアーか?」
周知のように、ジャック・バウアーというのは、かつて米国で一世を風靡したテレビドラマシリーズ『24』の主人公で、ルール無用のテロ対策要員だ。
時には、大統領の命令にも逆らって、残虐非道な行為に走る。
昨年、メーサイに行ったとき、対岸のタチレク市場でこの8シーズン分のDVDを格安で手に入れ、このところ毎晩のように眺めている。
そして、2~3日前には、ジャックが敵の敵の首を切り落とし、バッグに詰めたそれを手みやげに潜入捜査に入ったのだった。
たまたま、この回にはタイ語字幕が入っていなかったので、子供たちは別のことをしながらアクションシーンで画面が賑やかになると覗きにくるという風で、すっかり油断していたのだったが、もしかしたら、ポーはバッグから生首が転がり出るシーンを横目で眺めていたのかもしれない。
うーん、参ったなあ。
悪夢の原因を作ったのは、俺だったのかあ?
*
テレビでも映画でも、濃厚なラブシーンになると、高校生以下の村の子供たちはどういうわけか、首をうつむけたり顔をそらしたりして、愛らしいほどに見事な“自主規制”をするのであるが、暴力シーンや残虐なシーンには、その自主規制は働かない。
そして、日本や米国の映像描写のリアルさは、私の知る限り、タイのそれとは比較にならない。
タイのテレビでは、頭や体に突きつけられた拳銃やナイフにはボカシが入るし、喫煙や飲酒シーンも同様である。
そうした映像に慣れた子供たちの前に、リアル過ぎる日本や米国の映画・ドラマを持ち込んだのは、他ならぬこの私なのであった。
まあ、ジャック・バウアーが切り落とした生首が、ポーの夢の中で宙を飛んだラーの生首に転じたのかどうかは定かではないのだけれど、その可能性は十二分にある。
なぜなら、普段はあまり夢を見ることのない私が、このところ毎晩のようにジャック・バウアーになって、テロリストとの闘いに駆けずり回っているのだから。
*写真は、本文とは関係なく昨日掲載し損ねた庭の丸ナスである。生、あるいはゆがいてナームピッ(唐辛子味噌)につけて食す。
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試験に失敗する夢、私もよく見ました。一番多かったのは空を飛ぶ夢ですが、これが平泳ぎスタイルなので疲れてかなわん。やっぱり、うっふんと大金持ちが一番幸せかなあ。後が、ちと虚しいけど。