【タイ山岳民族の村に暮らす】

チェンマイ南西200キロ。オムコイの地でカレン族の嫁と綴る“泣き笑い異文化体験記”

【ポーの悪夢判断】

2011年02月01日 | オムコイ便り

 昨日も、夜半から雨が降り出した。

 朝になっても小雨が続き、朝飯を食べる頃にはまた雨脚が強くなる。

 それでも、寒さは日ごとに緩んでくるようで、

「春の雨は優し~い筈なのに♪」

 小椋桂の歌なんぞ口ずさみつつ、裏庭で倒れたバナナの幹を切る。

 ところが、9時過ぎになって雨があがると、空気が急に冷たくなってきた。

 10時になっても、気温は17℃くらいである。

 うう、さぶ。

 あわてて靴下を履き、厚いズボンに履き替えた。

      *

 ところで、今日は完全な寝不足である。

 寒がりのラーと一緒に薪を焚きながら炉端で寝ていた3男のポーが、明け方になって突然泣き出したのである。

 そして、なにやらふたりが騒ぎ始めたかと思うと、今度はラーが仏壇(タンスの上に仏像を載せているだけだが)に向かってお祈りを始めた。

「ん、なんだ、なんだ?」

 ねぼけ眼で話を聞くと、ラーが誰かに蛮刀で襲われたというのである。

「メー(母ちゃん)を殺すなら、僕を先に殺せ!」

 彼は健気にも暴漢の前に立ちはだかったのだが、その甲斐なく、ラーの首は宙に飛んだ。

 そこで、「ギャーッ!」となって目が覚めたらしい。

     *

 夢とはいえ、どうにもすさまじく不吉なシーンである。

 ラーがなだめても、ポーはなかなか泣きやまない。

 ラー自身も、なんだか怖くなってきた。

 そこで、すかさず仏様にお祓いを願ったというのである。

     *

 小遣いを手にしてすっかり立ち直った彼を学校に送り出してから、彼の悪夢の原因を探ってみた。

「お前さん、豊穣祈願祭のあとの宴会で酔っ払って、誰かと言い争いでもしなかったか?それを、ポーが見たんじゃないのか?」

「言い争いなんか、していないよ。ただ、悪酔いしてからんできた従兄の嫁さんを、軽く突き飛ばしただけだよ」

 な、なんだとお?

 その方が、よっぽど悪い。

「でも、そのときポーはそばにはいなかったよ」

「ふうん、じゃあピー(幽霊)ものの映画でもどこかで見たのかなあ?」

 タイのピーもの映画は、かなり残虐である。

 だが、描写は稚拙なことが多く、子供たちはたいてい笑いながらそれを眺めている。

「それとも、学校で誰かにお前さんの悪口を言われて喧嘩になったとか。あるいは、お前さんがきつく叱り過ぎるから、彼の深層心理の底になんらかの怨みが溜まっているとか。でも、それなら12歳にもなってお前さんと一緒に水浴びをしたり、寝たりはしないよなあ。うーん・・・」

 昔聞きかじったフロイトの『夢判断』などを思い起こしつつ、あれこれ首をひねってはみたものの、朝飯を食べ終わる頃には、そんなことすっかり忘れてしまう暢気なポー(父ちゃん)とメー(母ちゃん)であった。

     *

 ひとりになって机に向かうと、ふと脳裡に衝撃的な映像シーンが浮かび上がった。

「ひょっとして、ジャック・バウアーか?」

 周知のように、ジャック・バウアーというのは、かつて米国で一世を風靡したテレビドラマシリーズ『24』の主人公で、ルール無用のテロ対策要員だ。

 時には、大統領の命令にも逆らって、残虐非道な行為に走る。

 昨年、メーサイに行ったとき、対岸のタチレク市場でこの8シーズン分のDVDを格安で手に入れ、このところ毎晩のように眺めている。

 そして、2~3日前には、ジャックが敵の敵の首を切り落とし、バッグに詰めたそれを手みやげに潜入捜査に入ったのだった。

 たまたま、この回にはタイ語字幕が入っていなかったので、子供たちは別のことをしながらアクションシーンで画面が賑やかになると覗きにくるという風で、すっかり油断していたのだったが、もしかしたら、ポーはバッグから生首が転がり出るシーンを横目で眺めていたのかもしれない。

 うーん、参ったなあ。

 悪夢の原因を作ったのは、俺だったのかあ?

      *

 テレビでも映画でも、濃厚なラブシーンになると、高校生以下の村の子供たちはどういうわけか、首をうつむけたり顔をそらしたりして、愛らしいほどに見事な“自主規制”をするのであるが、暴力シーンや残虐なシーンには、その自主規制は働かない。

 そして、日本や米国の映像描写のリアルさは、私の知る限り、タイのそれとは比較にならない。

 タイのテレビでは、頭や体に突きつけられた拳銃やナイフにはボカシが入るし、喫煙や飲酒シーンも同様である。

 そうした映像に慣れた子供たちの前に、リアル過ぎる日本や米国の映画・ドラマを持ち込んだのは、他ならぬこの私なのであった。

 まあ、ジャック・バウアーが切り落とした生首が、ポーの夢の中で宙を飛んだラーの生首に転じたのかどうかは定かではないのだけれど、その可能性は十二分にある。

 なぜなら、普段はあまり夢を見ることのない私が、このところ毎晩のようにジャック・バウアーになって、テロリストとの闘いに駆けずり回っているのだから。

*写真は、本文とは関係なく昨日掲載し損ねた庭の丸ナスである。生、あるいはゆがいてナームピッ(唐辛子味噌)につけて食す。

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2 コメント

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オラの夢 (しんちゃん)
2011-02-01 23:01:35
この単位を落とすと卒業出来ないのに答案用紙に書く文字が消えていくとか、試験の日に寝坊して遅刻で受けられんとか、オラも夢を見て起きるぞ。一年に3,4回はあるぞ。大昔のコトで目が覚めホッとしてから小便して又寝るぞ。オラ、カワイイオネエチャとうッフンとか、競馬や宝くじで大金持ちの夢が見たいな。ワッハハハ
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正夢なら (クンター)
2011-02-02 13:05:50
しんちゃん

 試験に失敗する夢、私もよく見ました。一番多かったのは空を飛ぶ夢ですが、これが平泳ぎスタイルなので疲れてかなわん。やっぱり、うっふんと大金持ちが一番幸せかなあ。後が、ちと虚しいけど。
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