今日は、村長選挙の投票日である。
候補者は、4年の任期を務めた現職を含む4名だ。
いずれも、30~40代と若い。
数日前から、わが家にも各陣営の世話役が押しかけては、
「親戚や友人、知人の票を20人ほどまとめてはくれまいか」
といった根回しが行われた。
「あとが面倒だから、相手にするんじゃないぞ」
ラーにそう言い含めておいたせいか、私の目の前で札ビラをちらつかせる者はいなかったが、水面下では1票100バーツとも300バーツとも噂される実弾買収や盛んな饗応が行われてきたらしい。
わが家で20人をまとめ、すべての陣営にいい顔を見せれば、もしも300バーツなら2万4,000バーツの実入りである。
ラーの奴、ひそかに臍繰ってはおるまいな?
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40代前半の現職村長とは、村に移り住んで以来の付き合いである。
4年前の選挙では、「若さ」を謳い文句にして人望の厚い経験豊富な元村長を破ったらしい。
ロイクラトーン(灯籠流し)のカブト虫を使った“闘虫”の場で資金をねだられたり、タバコやビールを随分と奢らされたりもしたが、基本的にはいい奴で、わが家が抱えた揉め事などはいつも好意的に処理してくれたものだ。
だが、彼はカレン族の女性と結婚したタイ人で、ラーに言わせれば、カレン族の本当の心が分かっていないという。
自らも阿片を吸うらしく、当然のごとくわが村で一番の問題である麻薬撲滅や経済的自立に対しても、まったく成果をあげていない。
野焼き取り締まりの際には、自ら軍服もどきを着てごつい猟銃を肩に副村長などを引き連れて山をのし歩くという“武闘派“でもあり、話の隅々に自分の権力を誇示するようなきらいもある。
その点がどうにも軽く、頼りない。
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3人の新人候補は、いずれもわが家の近所から出た。
ひとり目は、いま自力で家を建てている隣家の旦那である。
ラーの従妹のひとりと結婚して、村の田んぼに山から導水パイプを引く仕事をしている。
昔は阿片を吸っていたらしいが、いまはすっぱりやめて、焼酎も適度にしか飲まない。
物静かな仏教徒であり、自らの体験から麻薬撲滅にも熱心で、ラーや近隣の衆は、もちろん彼の当選を熱望している。
だが、政治力に関しては未知数である。
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2人目は、稲刈りを終えた田んぼでトマト栽培などをやっている30代の穏やかな人物である。
彼からは米を買ったことがあるが、他の村人のように前払いは求めず、現金との交換だった。
童顔をいつも笑顔で満たし、会うたびに赤児をあやしている。
好人物という評判で、相談事にも熱心に応じてくれそうである。
クリスチャンだから、麻薬や飲酒には厳しい。
しかし、ラーを初めとする仏教徒とは価値観が違うので、クリスチャン以外は支持しないだろうという。
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3人目は、驚いたことに札付きの阿片常習者である。
こいつ、以前は金がなくなるとわが家になにやかやと売りつけにきた。
一去年は、米を売り込みにきて前払いを求めたものの、稲刈り後に回収に行くと、逃げまわってばかりいる。
どうやら、あちこちに米代の債権を負っているらしく、代金分の米の半分を回収したのは一年後の稲刈りのあとだった。
そういえば、去年はこいつの女房がオボートー(地区行政事務所)の理事選挙に出馬したのだが、見事落選した。
夫婦して、何を考えているのか。
おそらく、誰も相手にしないだろう。
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私の個人的な感触からいえば、やはり現職が強みを発揮しそうだ。
根回し資金も、一番潤沢である。
夕べもわが家にやってきて、かなり余裕を見せていた。
対抗馬は、仏教徒カレン族の期待を集める隣家の旦那か。
しかし、クリスチャンの数も多く、組織票は侮れない。
阿片吸いの米代踏み倒し男が当選した日にゃあ、わが村の未来は真っ暗である。
そうなったら、ゴルゴ13でも雇うしかない。
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理想的な展開は、麻薬没滅や経済的自立に熱心で、なおかつ人望も厚いカレン族の元村長が再出馬してくれることだったのだが、彼は60歳を過ぎて立候補ができないのだそうな。
当人も、今なお絶え間ない各種の相談ごと、揉め事の対応に疲れ果てており、山の中で水牛を相手にのんびり暮らしたり、旅を楽しんだりすることを望んでいるという。
村人にとっては、残念かつ不幸な話ではある。
さて、どんな結果が出る事やら。
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結果が楽しみです。
まあこれは、クンターさんの人物描写のおかげですけどね。
生活に影響しますね。クンポーさんはときどきチェンマイに泊まられますね、そして奥様もDVDが好きだとか。チェンマイに来られたときに一度お会いしたいです。昨年のNHK朝の連続ドラマ「ゲゲゲの女房」がとても面白かったです。録画したものですがお見せしたいです。
選挙の結果は、本日の記事にて。私にとっては意外な結果でしたが、村がどんな風に変わっていくのか、楽しみです。
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uraさん
意外な結果でしたが、今朝会った新村長には後光が差しているような感じで、なにか期待できそうです。
「ゲゲゲの女房」、私もぜひ観てみたいものです。今度、チェンマイに出るときは、ご連絡差し上げます。当ブログ右側の「メッセージ欄」を使って、メルアドや連絡先をいただければ幸いです。