今日の一貫

TPP閣僚会合 7月28日からハワイにおいて

●来週28日からハワイでTPP環太平洋パートナーシップ交渉閣僚会合が開催される。交渉は大詰めを迎えている。TPP協定交渉では21分野が扱われているが我が国では特に農業分野での交渉が関心の的となっている。 

● TPPの農業への影響は非常に大きいと言われており、交渉は「関税を撤廃しない」という前提で進んでいる。

A 「関税を撤廃しない」という国会決議がある。TPP交渉が話題となってきたのは2010年でしたが、当初「TPPは例外なく関税を撤廃するもの」という説明がなされました。関税を撤廃した場合には、農業産出額が3兆円減ってしまうといった数字が農水省から出され、そのことによってこれは大変なことだと言った心配が一人歩きし、農業団体の反対運動もこれを根拠にヒートアップしました。そうしたことから、国会でも特に農業団体からの要請によって「「関税を撤廃しない」という決議がなされたんですね。2013年4月に参議院と衆議院で「関税撤廃からの除外又は再協議の対象とすること。段階的な関税撤廃も含め認めないこと」と、決議したんですね。交渉はこれに大きく縛られることとなりました。 

● 農業の交渉では5品目といわれる“聖域”部門をどうするのかが課題となっています。「関税は撤廃しない」というのが聖域化です。5品目とはコメ、麦、牛・豚肉、乳製品、それに砂糖などの甘味資源です。そうした中でも焦点となっているのがコメ、牛肉、豚肉で、農業者団体がもっとも心配しているのがコメの関税だと思うのですが、これに関して大泉さんはどのようにお考えでしょうか?

A 私はコメに関しては競争力があると考えています。それを説明するためには、まず関税に関して整理しておく必要があると思いますね。コメにはkg341円(778%)の関税がかかっています。この関税を下げない交渉が行われています。多くの方は、この341円という関税がどのような意味を持っているのか理解しづらいのではないでしょうか。

関税キロ341円というのは、外国米がただでも関税をのせればキロ341円になるということです。日本のコメは卸売価格でキロ当たり200円強ですが、日本のコメはどんなに安い外国のコメよりも安くなる仕組みです。ですが現実に日本に入ってきているコメの原料価格はキロ170円前後(SBS)で、日本米と外国産米の価格は年々限りなく近づいています。ですから関税を大幅に下げても何にも変化は起きないんですね。

ところが、ここに問題があります。関税を維持する交渉を行と、代わりに「コメの輸入枠(ミニマムアクセスの枠を)」を増やすことで折り合いをつける交渉になってしまうんですね。これは、普通の経済活動では入ってこないコメを、政府が入れることを約束するというもので、通称ミニマムアクセス米というものです。日本はこれまでも流通量の1割以上に相当する77万トンのミニマムアクセス米を毎年輸入していますが、さらに5万~10万トン増やす方向に向かいつつある。 

●コメが余っているために生産調整までしている日本にとっては、需給動向に関係なく輸入を増やすという自家撞着の交渉となっています。私は、関税を下げる方向で勝負する方が日本の農業にとっては得策だと考えていますが、国会決議によって「関税撤廃や段階的撤廃」を避けるための交渉を行っているために、日本農業にとって逆に不利な状況が浮き彫りになっていると言っていいでしょう。 

● そうしたことは牛肉や豚肉でも同様なのでしょうか?

A TPPで畜産農家が潰れるかと言えば、そうはならないと思います。

もともとアメリカ産牛肉と和牛は市場でお互いに競合するのではなく、棲み分けが可能なので、国産牛肉は全く心配ないでしょう。

さらに、円安があります。牛肉の関税率はいま38・5%です。ということは100円の牛肉は関税をのせて138.5円で国内に入っているわけです。他方、円はTPP交渉がはじまった頃より約5割も下がっている。100円だった輸入価格が約150円になっています。この時点で関税率が10%に下がろうが0%になろうが畜産農家に大きな損害はありません。しかも、交渉では10年単位の時間をかけて9%から10%に下げるというものになっているようですので、関税率を下げるのは遙か先のことです。 

●豚肉も関税を下げたとしても何の変化も起きないでしょう。「豚肉で、話題になっているのは値段の安い低級部位にかかっている高額関税です。それを高級部位と同様4.3%にするというものです。アメリカが日本に売りたいのは主としてハムやソーセージ加工用の関税率が高いこの低級部位の豚肉です。ですが、現在でも実際には低級部位だけで輸入すると言うことはあまりなく、輸入業者は高級部位と巧妙に組み合わせて全体で四,三%として輸入しています。また豚肉には、ある程度以上の輸入量になった場合には輸入をストップできるセーフガードという仕組みもあります。制度の変更はあっても実際にはそれほどの影響が出るとは考えられません。

 ●もともと経済交渉は、およそ三つの点に関する交渉となります。

①関税をどのような水準に落ち着かせるのか?、

②その水準は何年かけて実現するのか?(通常、これは10年とか20年とか長い期間がとられるのが普通ですが)、

③輸入が増加しすぎたときに発動するセーフガードをどのぐらいの輸入量の時に発動するのか?

 

● TPP参加で日本農業への影響を総合的に見るとどうなりますか?

A  先ほどTPPで農業産出額が3兆円減るという農水省の試算の話をしました。ただ、農水省のこの試算は、即時関税撤廃、国内措置なし、の下での影響予測であり、(即時でなく10年、国内措置など様々に)条件を変えれば様々に変わる数字です。

それに、3兆円といった額は奇しくもこの15年の農業産出額の減少に相当。TPPがあろうがなかろうが農業産出額は減少。これをどうするかは農政の重要課題。農業問題の多くは国内の課題。

多くの農業経営者は、比較的冷静に捉え、強い農業を作らなければならないと考えています。

農業団体もこの間の農協改革等を経て、本気になって農業振興を考え実行する団体に立ち戻らなければならないと反省を込めて語るようになってきました。

政府はTPPを契機に農業の産業化を一層進めたいと主張しています。

TPPによって農業が衰退すると言うよりも、むしろ産業化が進むのではないかと私は期待しています。

 

 

 

 

 

・国会決議    (2013年4月18日・参議院、19日・衆議院)

・ TPP交渉は、原則として関税を全て撤廃することとされており

「米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物などの農林水産物の重要品目について、引き続き再生産可能となるよう除外又は再協議の対象とすること。十年を超える期間をかけた段階的な関税撤廃も含め認めないこと。」

・ 「交渉に当たっては、ニ国間交渉等にも留意しつつ、自然的・地理的条件に制約される農林水産分野の重要五品目などの聖域の確保を最優先し、それが確保できないと判断した場合は、脱退も辞さないものとすること。」

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