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北海道大学大学院教育学研究科井出研究室(福祉臨床心理)のブログです。

日本福祉心理学会第15回大会

2017-07-11 09:39:36 | 学会
日本福祉心理学会第15回大会が九州女子大学で開催されました。


今回の大会テーマが「福祉現場の『実践』と『理論・研究』をつなぐ福祉心理学」だったことや私が長く活動してきた九州での学会だったということもあり,九州の“愉快な仲間たち”に話題提供をしてもらい,『社会的養護を要する子どもの成長を支える(3)~成長を支えるコラボレーション~』というテーマで自主シンポジウムを開きました。毎回,九州女子大学の大迫先生,国立武蔵野学園の大原先生と一緒にやってきたシンポジウムです。


話題提供してもらった“愉快な仲間たち”を紹介しましょう。

1人目は大西清文さん(ジミー)。九州ぼうけん王代表,北九州大学非常勤講師。
施設の子どもや里親家庭の子どもとのアドベンチャーカウンセリングについて話題提供していただきました。
私も一緒に活動してきたのですが,里親さんたち向けのリフレッシュキャンプや子どもだけが参加する10日間の無人島キャンプなど,アドベンチャー(野外体験)がどのように社会的養護を要する子どもの支援につながるのかについて紹介してもらいました。

2人目は橋本愛美さん。SOS子どもの村JAPAN。
橋本さんは福岡市にあるSOS子どもの村JAPANで,里親さんたちの支援に関わってこられました。いろんな話をしてもらいたいところでしたが,今回は,地域のリソースをいかにしてコラボレートするか,ということ焦点を当てて話してもらいました。企業や市民ボランティアなど,様々なリソースを開拓し,活用していく取り組みは児童福祉施設には弱いところだなと痛感しました。

3人目は重永侑紀さん。にじいろCAP代表。
私が大学生の頃からのお知合いです。当時,CAPをはじめられた重永さんは今ではCAPだけではなく,予防教育を広く実践されています。
市民の視点から,子どもたちの視点から子どもの虐待について考える視点を提供してくださいました。「私たちは間(はざま)を埋める活動をしている」とおっしゃっていたのが印象に残りました。

4人目は大迫秀樹先生。九州女子大学の先生です。
大迫先生は乳児院と児童養護施設における子育ての連続性について研究をされていますので,その研究の成果についてご紹介いただきました。家庭支援専門相談員や里親支援専門相談員など“つなぎ”を専門とする人たちの活用,事前事後の慣らし保育など施設間連携による取り組み,心理職の活用などが子育ての連続性を担保するために有効な手立てとなりえるというお話をしていただきました。

それぞれの実践に基づいたお話はインパクトがあり,もっと長い時間,お話を聞きたかったと思いました。



2日目にはポスター発表も行いました。
今回は,「乳児院の養育単位小規模化による業務内容と業務負担の変化」というテーマでした。


次回の福祉心理学会第16回大会は静岡大学で主催する予定です。




日本保育学会第70回大会のご報告と保育士養成についての云々

2017-05-22 08:34:13 | 学会
岡山県の川崎医療福祉大学で開催された日本保育学会第70回大会に参加してきました。
保育学会への参加は初めてでしたが,いろいろな事情もあり,自分たちの発表する時間帯くらいしか会場に滞在できませんでした。





今回の研究報告のテーマは『保育所における自然体験を中心に据えた保育の実態と効果について』でした。
以前にこのブログでも紹介した「平成27年度植山つる児童福祉研究奨励基金(研究A・自主研究)」の助成を受けた研究でした(http://blog.goo.ne.jp/idtomoro/e/476d24417f85a8ebfb06847f0997954f)。臨床心理士の八木先生との共同研究です。



研究としては2つの研究から構成されています。
1つ目は,どれくらいの保育所が自然体験を中心に据えた保育を行っていて,そうした保育所はどういうことを”めあて”として自然体験を保育の中に取り入れているのかを,保育所のホームページを分析することから検討しました。2つ目は,第一研究で明らかになった自然体験活動の”めあて”が,本当に効果がある取り組みとなっているのかを,幼少期の自然体験,通っていた保育所・幼稚園の方針,親の養育態度などとおとなになった時の心理的特性の関連を比較することで検討するというものでした。

調査の結果,若干の地域差はありますが,おおむね30%くらいの保育所で何らかの自然体験を取り入れた保育を行っていることをその園の1つの特徴として明示しており,そうした保育実践は以下の図のような”めあて”のために行われているということがわかりました。



さらに,そうした”めあて”が本当に自然体験を多く体験することによって達成される可能性があるのかということを検討した結果,例えば自然体験を推奨する園に通っていた人たちはおとなになった時に推奨する園に通っていなかった人たちよりもレジリエンスが高いということが示されました。また,園だけではなく,親の養育態度や幼少期の自然体験の量の影響も見られました。結論から言うと,保育所や幼稚園で自然体験活動を取り入れることで,その園が”めあて”として設定していることは確かに達成される可能性があるということが示されました。しかし,それは園だけではなく,家庭での体験や親の養育態度との関連の方が強いことも示唆されました。
もし,自然体験を推奨して保育活動を行う場合,園で子どもにどのように自然体験活動を提供するかということだけではなく,保護者が子どもと自然体験活動を行うためのサポートについても考えてみると良いのではないか?ということですね。


さて,先に書いたように,保育学会への参加は初めてでした。
どんな学会かな?と楽しみにして行きましたが,強く興味をひかれたのは物販のブースでした。
通常,学会にはいろいろな出版社が本の紹介を兼ねて簡易販売書を開設してくださるのですが,保育学会では書籍だけではなく,乳幼児のためのおもちゃや画材などいろいろなものが販売されていました。それぞれ,いろいろな保育活動の目的に沿うような形で作られていて,やってみると楽しいし,インテリアとして部屋に置いておいてもおしゃれに見えるようなものがたくさんでした。

研究発表に関しても他の学会と少し違うなという印象を受けました。
それは「研究発表」と言いながら,中身としては「研究発表」と「実践報告」が混在しているんだなということです。
私たちは「問題目的」「方法」「結果」「考察」という研究報告の流れに沿って論文を書いたり,発表をしたりします。もちろん,保育学会でもそうした報告もたくさんありました。一方で,「こんなことやっています」というような報告を行うものもたくさんあって,「ん?目的は?」「考察は…?」と見慣れた形式とは違う発表に戸惑いも感じました。おそらく保育現場の方たちは私たちのような「研究」の形式で書かれた発表を見て,逆のことを感じられているんだろうな,と思いました(「研究って数字ばっかりで,役に立たない」的な…)。

他の学会でもそうした実践報告を行う者もありますが,例えば「ポスター発表」と「パネル展示」という形で研究と報告は分けられていたりします。どちらが優れているというようなものではなく,それぞれ性質の違うものなので整理したらいいのに,と思いました。

実はこのあたりのことはずっと以前から感じてきたことでもありました。
(ここからはちょっと思い切ったことを書きます)
私は以前,保育士養成の短大で教員をしていましたが,保育士の養成に当たっている教員にも研究と報告を混同しているのかなと思うような教員がおられました。引用文献のないもの… wikipediaが引用文献のもの… 論文の形式で論が展開されないもの… 
そういうものを目にするたびに,この先生たちは何を土台に学生に授業をやっているんだろう?と疑問に思ったことを思い出します。
おそらく,ご自身の経験だとか,身近な(それもたぶん多くの場合,自分と関係が近い;要はお気に入りの)人の言っていることだとかをもとにお話をされていたのかな,と思います。もちろん,現場経験はとても大切なものなのでそれ自体に問題があるとは思いません(研究者が現場の感覚を忘れて研究の話ばかりしてしまうと実践と研究のかい離が起きてしまいます)。しかし,そうしたある種の,精神論,経験論だけで学生教育を行うことは大きな問題を残してしまうとも感じます。

これは保育学会の夜に知り合いの先生と話をしていたことですが,最近,保育士の待遇を向上させなければということが議論になっています。それは間違いなくそうです。短大の教員時代,学生たちに来る求人票の給与欄を見て,正直驚きました。「専門職」への対価とは言えないような金額でした。ただ,その「専門性」ということを考えた時,保育士養成は本当に「専門職養成」と言えるのかということは問い直す必要があると思うのです。その時に大切になってくるのは,精神論や経験論よりも,研究なのです。どうしても「保育士の待遇向上」という話が出てきたときに,「こういう専門性があるから」「こういう実践が必要だから」という話よりも,「今のままであんまりだ」「保育士がかわいそう」というような感情論で話を進めようとしているような気がしてしまうのです。
保育士自身も,自分たちの「専門性」について科学的な根拠を示すよりも,精神論や感情論で訴えるしか手段がありません。これが,保育士養成が精神論,経験論だけで行われてしまうことのリスクです。しかし,保育園の管理職の中にも,「下手に知識を持って就職してこられても,こちらの言うことをちゃんと聞かなくなるから困る」「知識なんかいいから,素直さだけでいい」というようなことを平気でおっしゃる方がいるのも事実です。「素直さ」はもちろん必要です。でも,それはあなたが思い通りに操作するための「素直さ」ではありませんよ。


保育士の待遇を向上させるためには,保育士養成に携わる教員の質を向上させる必要があります。
特に短大の経営はなかなか厳しいご時世なので,若い教員が期限付きで多くの授業を担当し,それ以外の時間は次の仕事にアプライするための書類を書いていて,研究ができないという状況があります(あ,これは保育に限ったことではないですね…)。

現場の方からすると「研究って難しいことばっかり書いて,現場の役には立たない」と思われるでしょうが,ぜひ,「この先生,ちゃんと研究やっているの?」という視点でその先生を見てほしいなと思います。その大学の紀要(研究報告)だけではなく,学会誌に投稿しているのか,学会で発表しているのかなど見てみてください(ちなみに,最近は大学の教員には研究することだけではなく,そうした業績を大学のHPなどにちゃんと載せなさいということまで求められます)。大学の教員が現場の保育士を育てるということもそうなんですが,実は現場の保育士が大学の教員を育てる,という側面も強いんですよね。

偉そうにしているばかりではなく,「ちゃんと研究やれ!」というお話でした。
(あ,誰かに向けて言っているのではなく,自戒も込めての一言です。誤解なきよう…)

日本人間性心理学会 国際交流助成プログラム

2016-10-19 12:18:54 | 学会
7月に参加したNew York Cityでの学会発表(the World Association for Person Centered & Experiential Psychotherapy & Counselling)について,日本人間性心理学会の国際交流助成を頂くことになりました。



ありがとうございました。
学会での発表資料⇒http://www.ipc.shizuoka.ac.jp/~etide/works.html
(学会発表の該当の発表記録からご覧いただけます)

自尊感情は虐待を受けた子どものレジリエンスを高めるのか?

2016-09-05 15:29:37 | 学会
横浜で開催されている日本心理臨床学会に来ています。



7月の日本福祉心理学会を皮切りに4つ続いた学会での発表もやっとこれで締めくくりです。
心理臨床学会は規模も大きくたくさんの人が参加します。それだけ発表も多くて刺激的です。

今回はポスター発表をしました。
テーマは『児童養護施設児童のレジリエンス促進要因としての自尊感情 ‐多母集団同時分析による家庭で暮らす子どもとの比較検討‐』でした。要するに,施設で暮らす子どものレジリエンスを高める時に自尊感情はどのような役割を果たすのか?という研究です。
これまでの研究成果から,施設で暮らす子どもはレジリエンスが低く,困難に直面した時にその困難を何とか乗り切ろうとする傾向が低いことが明らかになりました。また,自尊感情も低く,自分を肯定的に捉えることができにくいということが示されています。

そんな中で子どもたちが社会に自立していく際にはレジリエンスを高め,直面するであろう困難を何とか乗り越えていく力を身に着けてもらうことが必要になります。
海外の研究ではレジリエンスを高めるためにはどのようなことが効果的なのかということ(保護要因,促進要因)についての研究が行われてきましたが,日本では全くと言っていいほど行われていません。海外の研究の中に自尊感情を高めることが,特に施設の子どものレジリエンスの中でも自分の力で何とかしよう(自己志向性)を高めるという研究があります。そこで,今回の研究では日本の施設で暮らす子どものレジリエンスに自尊感情がどのような影響を与えるかについて検討しました。

結果は家庭で暮らす子どもも,施設で暮らす子どもも自尊感情が高まるとレジリエンスが高まり,困難を乗り越える力が高まることが示されました。しかし,その影響の強さには違いがあり,施設児童では自尊感情が高まると自己志向性がより高まるという結果が出ました。海外の研究の知見を確認する結果になりました。

施設で暮らす子どものケアをするとき,自尊感情を高めることを1つの目標にすえるとレジリエンスが高まりやすい。つまり,施設の子どもの自立を考えた時,自尊感情を高めることが有効な道筋になる得るという結果です。

では,どうやったら自尊感情を高めることができるのか?
そのことについてはこれからの実践的研究が必要になってきますが,今のところ,自尊感情を高めることが確認されているのはService Learningや生い立ちの整理,キャリア・カウンセリング,精神的健康に関する心理教育などです。一方で,TF‐CBTはトラウマの除去には効果があるが,自尊感情を高めるということについての効果はまだ示されていません。

CBTは効果的な支援の方法だと思いますが,「より良く生きる」ということに焦点を当てると必ずしも十分とは言えない介入の方法なのかもしれません。問題を消去する支援と「より良く生きる」支援の双方を提供することが施設で暮らす子どもの自立には必要かもしれないということを示唆する研究でした。

知り合いも含めてたくさんの方に発表を見に来てもらいました。他の方の発表も拝見して,勉強になることもありました。これから一緒に研究する機会が持てたらいいなぁと思う研究をされている方にも会うことができました。


過去に私がやった研究を読んでくださっていて話しかけてくださったり,「お会いしたかった」と言ってくださる方も多くいらっしゃいました。
はや40歳。大学院生の頃は先生や先輩たちの発表を見てドキドキワクワクしていたのを思い出します。その時の私のように,私の発表を見に来て下さる方がいらっしゃると思うとうれしいなと感じました。
何よりも施設や社会的養護に関する研究がたくさん発表されるようになったのに時間の流れを感じます。

これからまたレジリエンスに関する新しい,大規模な研究を始めます。
子どもたちのためになる研究になるということはもちろんですが,またこうした場でいろんなご意見をうかがえるといいなと思います。

足を運んでくださった皆様,ありがとうございました。


日本人間性心理学会@福岡

2016-08-29 09:46:51 | 学会
福岡市の九州産業大学で開催された日本人間性心理学会に参加しました。 博士課程に通った大学なので懐かしい場所でしたが私立大学はちょっと来ないといろんな所が改修されてきれいになってます。うらやましい。





今回は発表に加えて、座長のお仕事も頂いたのでいつもよりしっかり学会に参加しました。

発表は児童養護施設の方とずっと一緒に取り組んできた、施設で暮らす子どものキャリアカウンセリングについてのお話でした。今回は座長が児童福祉領域の方ではなく、企業のキャリアカウンセラーの方だったのでいつもとは違った視点から実践を見ていただけました。

企業で、社会で使える人材か?

う~ん。いつも意識しているつもりだけど、なかなかそこまでの取り組みはできていないなぁと思います。でも、そこも考えておかないといけないと思うし、現実を考えると子どもたちに優しい社会の仕組みも作っていかなきゃいけないなぁとも思うし。

宿題(これからの展望)を頂いたなぁと思います。



座長の役割は人の発表をしっかりと聞く機会なので楽しい。座長が取り仕切りすぎたり、発表者を批判することに終始したという話も聞くけど、そうならないようにしたいなぁと思います。


今回の大会のテーマは“多様性“。
いろんな環境で活躍する多様性を大切にしている大学院時代の恩師や仲間にも会えたし、いい時間を過ごしました。