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IDE Lab.

北海道大学大学院教育学研究科井出研究室(福祉臨床心理)のブログです。

キャリア・カウンセリング・プロジェクト立ち上げのお手伝いについて

2019-06-04 15:48:50 | 児童養護施設におけるキャリアカウンセリン
ここのところ,立て続けに遠く離れた地域の児童養護施設の方から「CCPに取り組み始めました」という連絡をいただいてます。
(CCP;生い立ちに困難を抱える子どものキャリア・カウンセリング・プロジェクト




最初はいろいろと手さぐりになると思うので,できるだけ足を運んで伝えられることは伝えたいなと思っています。
まずはご連絡(メール)ください。

メールアドレスは研究室ホームページより,ご確認ください。

【研究論文】『児童養護施設における将来展望を育む自立支援についての実践研究』

2019-02-26 09:32:19 | 児童養護施設におけるキャリアカウンセリン
CCPの実践について,その効果を検証した論文『児童養護施設における将来展望を育む自立支援についての実践研究』が子どもの虐待とネグレクト,20(3)に掲載されました。




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(抄録より)
本研究では,児童養護施設児童に対する自立支援として,グループアプローチによるキャリア・カウンセリングの実践を開発し,5年間にわたる実践をもとに.その効果と意義を検討した。効果の測定には時間的展望尺度と自尊感情尺度を用い,参加群と統制群の事前.事後の得点を二要因分散分析により分析した。その結果,「将来への希望」因子得点の高まりは認められなかったが,将来への志向性が強まると共に現在の生活に対する空虚感が低減する効果があることが認められた。キャリア・カウンセリングを通して,子どもが自分の将来展望やキャリア形成について語るようになることは彼らの意見表明を促進し,子ども中心の目立支援を進める意義があることが示唆された。また, グループアプローチの方法を用いて施設内の集団力動を活用することにより,将来について考える作業への取り組みに消極的な児童の自立支援への参加に役立つ可能性があることが示唆された。(子どもの虐待とネグレクト, 20(3); 359-368, 2019)

新刊本のご案内『子どもの未来を育む自立支援 -⽣い⽴ちに困難を抱える⼦どもを⽀える キャリア・カウンセリング・プロジェクト-』

2018-10-25 09:29:03 | 児童養護施設におけるキャリアカウンセリン
ここのところ取り組んできた生い立ちに困難を抱える子どものキャリア・カウンセリング・プロジェクトについての本を書きました。
もうすぐ発刊される予定です。

それに先立ち,チラシができました。






社会的養護に関わる支援者だけではなく,様々な困難に直面する子どもの治療や養育に関わる方にも参考にして頂けると思います。
実は,大学生やおとながやっても結構楽しめます。自分のこれからを考える機会にしてみてください。

実践的な内容だけではなく,理論にもしっかりと触れています。


(2019.2.26 追記)

その後,無事に出版されました(笑)


子どもの未来を育む自立支援―生い立ちに困難を抱える子どもを支えるキャリア・カウンセリング・プロジェクト』井出智博・片山由季編著(岩崎学術出版社)

【論文の紹介】里親家庭におけるキャリアカウンセリング

2018-01-12 19:17:35 | 児童養護施設におけるキャリアカウンセリン
里親家庭から巣立つ若者へのキャリアカウンセリングについての研究論文を読みました。
これまでなかなかなかった論文なので興味深かったです。

Stevenson, B. J.(2017)Developing a career counseling intervention program for foster youth, Journal of employment counseling, 52(2), p75-86.



http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/joec.12055/abstract

実証研究というより,貧困家庭や人種的なマイノリティの家庭から自律する若者へのキャリアカウンセリングを里親家庭から巣立つ若者にも適用しようという理論的な検証をした論文です。
世界的に見ても,里親家庭や施設から巣立つ若者のキャリア形成に目を向けた研究はほとんどありません。そんな中で,個人的にはとても興味深く読めた論文でした。
この論文の舞台であるアメリカでも,論文の中で引用されているオーストラリアでも,里親家庭や施設の若者は将来展望が描けなかったり,就労に関する意欲が乏しかったりするようです。これは日本で私がやってきた研究の成果でも同様です。

著者は,里親家庭の若者のキャリア形成の特徴と貧困家庭,人種的マイノリティの若者のキャリア形成の特徴を照らし合わせながら,里親家庭から巣立つ若者へのキャリアカウンセリングの内容について提案をしています。
その要点は以下のような内容です。

(1)キャリアに目を向けること
キャリアというものに目を向けること自体が,キャリア形成を進めるうえで重要な要素となるとされています。しかし,里親家庭で暮らす若者は職業選択の幅が狭いという認識を持っているために,キャリア形成に関する正しい知識と情報を提供することが必要であるとしています。

(2)キャリアを探索する
自分のキャリアを探索しようとすることはキャリア形成において重要な要素です。青年期には自己理解を深めると共に,自分に向いている職業などについて考えたりし始めます。そうした時,家族関係がキャリアを探索することに影響を与えていることが先行研究によって示されています。親子の良好なアタッチメントや幼少期に養育者と子どもが一緒に活動したりすることとキャリアプランニング行動には正の相関があるという先行研究に基づくと,里親家庭の子どもはキャリアプランニングの経験が少ないと考えられるために,キャリア探索を進めるような介入が必要だとしています。

(3)職業的な志や期待を育む
里親家庭の子どもは一般家庭の子どもよりも職業的な志や期待が低いことが示されています。同様に,有色人種の貧困家庭の子どもも職業的な期待が低いようです。職業的な志や期待は勉強や仕事における成功を予測する要因になるにも関らず,里親家庭の子どもの職業的な志や期待が低いことから,職業的な志や期待について話し合ったりすることが必要であるとしています・

(4)職業的な興味を育む
職業を選択する時,その人の職業に対する興味を考慮する必要があり,興味と一致した職業に就くことは仕事への満足度や心理的な幸福につながるとされています。しかし,里親家庭の子どもの職業的興味は限定的なものなので,キャリアカウンセリングでは,職業的な興味を育むことが目標の1つに据えられます。

(5)アルバイトの経験
アルバイトの経験は,キャリア発達において重要な役割を果たすとしています。アルバイトをすることは職業的なスキルや対人関係のスキルを身に付けるだけではなく,自己価値を高めることにもつながるため,お金を貯めるという目的以外でも,アルバイトを経験するということは重要であるとしています。


理論的な検証が目的の論文で,実践についての効果検証はこれからのようです。効果を測定することはなかなか難しいと思いますが,楽しみだなと思います。
個人的に連絡を取ってみようかな…

「おとなになるってすてたもんじゃないな」「将来のことについて考えてみるって面白いな」と思えるような自立支援に取り組みはじめて5年ほど経ちました。社会的養護の若者の支援をしている取り組みの中にも「おとなになるってすてたもんじゃないな」「将来のことについて考えてみるって面白いな」という取り組みをやりましたよ,というような報告が見られるようになってきました。良いことだなと思うと同時に,きちんと理論的な支えを示していかなければいけないなと思いました。今年の目標の1つです。


キャリアカウンセリングと当事者中心の支援

2017-12-06 11:36:53 | 児童養護施設におけるキャリアカウンセリン
社会的養護の子どもたちのキャリア・カウンセリングをやっていると,「でも,そんなに子どもに実現もできないような夢を見させて,子どもができもしないような目標を立てたらどうするのか?」という指摘をする人(専門職)がいらっしゃるのですが,その考え,その言葉自体が,子どもたちの可能性を摘み取ってきたという自覚を持ってほしい。それが社会的養護の子どもたちが直面している”壁”であり,”限界”を作っているのだと思います(そもそも夢を見させているのではない)。



実現できるかわからないけれど,子どものこうなりたい,こういうことやってみたいという声を拾って,可能な範囲でそれを実現できるように支援していくことがあなたの役割でしょうよ?と問いたくなる。もうちょっと当事者の声を中心に据えた支援について考えてほしい。

怒りながらも,キャリア・カウンセリングを通じて,子どもたちが「こうなりたい」という考えを持てるようになることは,当事者中心の支援を作っていくことにもつながっているんだということに気付かされました。