ヒデ系の瞳

平和憲法尊守

しんぶん赤旗日曜版 座談会「知る権利」と報道のあり方を問う 

2013-01-05 | メディア
北斗の拳 OP1 愛をとりもどせ!!


テレビ 何をどう伝えたか

座談会 「知る権利」と報道のあり方を問う

岩崎貞明さん・須藤春夫さん・桜井均さん

80年代が転機に

 テレビはどこまで国民の「知る権利」にこたえてきたか。テレビ60年にあたり、メディア研究者の須藤春夫さん、元NHKプロデューサーの桜井均さん、『放送レポート』編集長の岩崎貞明さんが、テレビとジャーナリズムについて語り合いました。

― まず、それぞれのテレビとの関わりから。

須藤春夫 現在、大学でメディア論を教えています。1970年代に民放連(日本民間放送連盟)の放送研究所に10年ほど勤めていました。テレビが広告媒体として成長していった時代と重なっています。
 60、70年代は、それでもローカリズムの重要性が盛んに指摘され、テレビは地域社会の中での役割を担えていました。それが70年代末以降、衛星放送やケーブルテレビといったニューメディアが成長してくると、自分たちが独占してきた広告費を奪われるのをどう食い止めるかという議論になりました。
 キー局支配が強まったのもこの時期です。ジャーナリズムとしての継続性、専門性を育てることが整わないまま、産業的性格だけが強まり、ジャーナリズムの発展の芽が摘み取られました。
 近年では、テレビジャーナリズムが権力側のPR役に変質しているのが顕著です。典型的なのはイラク戦争の報道でみられた愛国報道でしょう。ジャーナリズムの本来の役割は権力の監視であるのに、政府の発表をそのまま報道してしまう。正義の戦争だとするPR機関になっている。
 アジア・太平洋戦争の際は、報道は時の政府から徹底的に検閲され、その宣伝機関になりました。戦後は自由な報道ができるはずなのに、そうなっていません。

桜井均 僕は66歳ですが、NHKに入局して30年以上、ドキュメンタリーをつくってきました。70年代は上司とぶつかりながらも社会問題を扱えた。それが84年に札幌から東京に転勤してきて企画が通らなくなった。日中戦争時代の日本の重慶爆撃、熱帯雨林の破壊、ベルリン五輪で日の丸を胸に走った孫基禎・・・、すべてです。バブル期に入った頃で、「君の企画は3K(きつい、汚い、危険)だ。もうそんな時代じゃない」と言うんです。
 アーカイブを調べるとNHKの放送の変わりようがわかります。60、70年代は「公害」問題が多いのですが、いつの間にか消え、責任のぼやけた「環境」という言葉になる。病巣は、NHKが肥大化した80年代にあるという気がします。

岩崎貞明 私は今年50歳で、テレビ60年を語るのには少し若いのですが・・・(笑)。86年にテレビ朝日に入社して15年間、報道の仕事をしてきました。
 テレビの60年は「表現の自由」を縮小させてきた歴史のように思います。村木良彦さんたちがTBS時代につくった「あなた・・・」(66年)という番組を見たことがあるのですが、女子大生が街で会った人に「天皇」などについて次々、質問をぶつけるんですね。いまは放送局側の自主規制と社会の不寛容で、テレビの表現は貧しくなる一方です。
 お二人から80年代が転機というお話がありましたが、その時期は「ニュースステーション」が生まれ、ニュースを演出で見せる手法が開発された時期でもあります。これを機に、夕方の2時間枠など生の報道枠が拡大していきました。
 しかし、私もデスク時代、経験がありますが、ニュースの現場も視聴率最優先です。2時間枠のうち半分は「行列のできるラーメン屋」といった企画ものです。万引き逮捕の瞬間を撮るのが得意なプロダクションがあって、そこが各局に企画を出すと、どこも同じような番組になる、といった問題もあります。

原発報道のあり方も問われました。

桜井 実態に迫る番組で注目されたのが、ETV特集「ネットワークでつくる放射能汚染地図」です。NHK取材班が研究者と一緒に福島に入ったのは、福島第1原発事故から4日後。30キロ圏内に入り、放射能の測定を始めます。戻れと言われるんですが、この分野の専門知識を持つ取材班は、貴重なデータを集め、高濃度の放射線地域に放置されていた人たちを避難させました。NHK幹部は何を思ったか、「30キロ圏内に入ったのはけしからん、行儀が悪い」などの理由で取材班を注意処分したといいます。もしそれが本当ならОBとして実に恥ずかしい。この番組はNHKの原発報道の評価を上げた。現場は萎縮せず頑張ってほしいと思います。

視聴者が支える

須藤 この番組は芸術祭大賞も受賞し、命にかかわる情報を提供してくれました。本来は行政がやるべきことを代わりにやったわけです。それをコンプライアンス(法令順守)違反で処分するというのは、番組を支持してきた人たちを裏切ることになります。
 公共放送は、さまざまな形で権力からの介入がある組織です。それを支えてくれるのは、視聴者、市民でしかない。そのつながりは、個々の番組を通してしか生まれない。本来、経営者がそういった番組を励ますことで、おのずと市民からの信頼を得られるんです。

岩崎 原発報道で象徴的なのは、爆発映像の扱いです。福島第1原発の1号機、3号機の爆発の瞬間をとらえたのは、福島中央テレビの廃棄寸前のお天気カメラでした。カメラを使い終わったら必ず第1原発の方に向けておくという申し送りがあった。それを守っていたから、地震でリモコンが壊れても撮ることができたんです。
 しかし、それをキー局の日本テレビが報じたのは爆発から1時間半後。日テレの人に言わせると何が起きているのか説明できない映像を見せるわけにはいかない、と。
 ローカル局は、地元の視聴者とはるかに近いから、この情報を誰が必要とするか、考えざるを得ない。しかし、キー局などのマスメディアは報道して混乱が起きることを気にする。【愚民思想】なのかもしれませんね。

須藤 爆発の映像は、細かく分析すれば、いろいろなことが分かってくる。特定のテレビ局の所有物ではなく、重要な公共財として自由に使えるようにすべきです。

― 視聴率至上主義の弊害もありますね。

岩崎 どのニュース項目のときに視聴率が上がったか、毎分のデータが翌日には出て、蓄積されます。視聴率至上主義がニュースの価値判断を侵食してしまう。

突き刺さる番組

桜井 高視聴率の番組が、どれだけ視聴者に突き刺さり、記憶に残ったか。答えは否です。
 2006~07年にNHKで「ワーキングプア」というシリーズがありました。古典的なルポルタージュでしたが、視聴者の反応から、非正規雇用や女性の貧困など次々に明らかにし、インパクトを与えました。
 自民党の議員が予算審議の場で「NHKはいつまでこんな番組をやるのか」と言ったんです。僕はこれは痛いところに当たったんだと思った。北海道のある女性が施設で給食を作っていて、時給を上げたいと、寝る間も惜しんで調理師の免許を取得した。しかしそれで上がったのはたった10円ですよ。これが安倍政権(当時)の「再チャレンジ」の内実を暴くことになった。

テレビジャーナリズム再生のために求められることは。

桜井 メディアの横のつながりが大事ですね。加藤周一さんが言っていたことですが、政治家が公共放送に介入しないことはありえない。密室でやるから証明できないんだと。ほかのメディアも巻き込んで何とかオープンにする。こちらが挫折したら、別のところがやるとなれば違ってくる。
 もう一つは市民メディアとの連携です。マスメディアは大きいから動きが鈍い。現場への接近の仕方では市民メディアに負けていることを認めて市民メディアをウオッチする。その方がずっと効率的です。

岩崎 現実はなかなかそうなっていません。市民メディアの「ОurPlanet-TV(アワプラ)」が、官邸前行動を国会記者会館の屋上から撮らせてほしいと申し入れて拒否され、裁判になっています。マスメディアが既得権益のために、ニューメディアを排除しているんですね。むしろ市民メディアにチャンネルを開放するくらいの度量を見せていい。

安保に縛られて

須藤 KBS京都では市民がお金を出してラジオ番組を企画し、放送する試みが続いています。市民のメディア・アクセスが番組に多様な視点をもたらしている。マスメディアの中の人たちも市民と関わりを持つことで視野が広がるはずです。

岩崎 派遣労働の問題にも目を向ける必要があります。いま夕方のニュースは混成チームでやっています。プロダクションが番組の完成まで任される場合はまだいいのですが、派遣の場合はディレクターとカメラマンなどがバラバラに集められるので、チームワークが取りにくい。プロダクションの実入りも少なく、とても会社を経営できないといいます。ノウハウも蓄積できず、ジャーナリストとしての訓練も受けられません。

須藤 ジャーナリズム、放送文化が根っこのところで崩れていっている感じがします。放送局とプロダクションの対等な関係がなければ、テレビを支える労働者はいなくなるでしょう。
 大きな問題として安保タブーがあります。オスプレイの強行配備にしても、TPP(環太平洋連携協定)にしても、改憲の問題にしても、根源には安保がある。しかし、例えばオスプレイの危険性を訴えても、なぜそれでも配備されるのか、メディアが安保に言及することはありません。安保をどう見るか、提示しない限り、根本的解決にはたどりつかない。

桜井 集団的自衛権行使の問題、歴史認識、領土問題など、根本のところで日米安保体制に絡め取られています。メディアは、憲法の精神を理解して、この歪んだ構造を東アジアの平和に向けて変換するために仕事をしてほしい。さもないと、日本は日米安保もろとも世界の孤児になると思います。

(しんぶん赤旗日曜版2012年12月30日・2013年1月6日合併号)

岩崎貞明さん
いわさき・さだあき=1963年生まれ。『放送レポート』編集長。テレビ朝日で「ザ・スクープ」ディレクターや「スーパーJチャンネル」デスクを経て現職。共著に『放送法を読みとく』。

須藤春夫さん
すどう・はるお=1943年生まれ。法政大学教授。前メディア総合研究所所長。共著に『21世紀のマスコミ第3巻広告編』『電子情報ネットワークと産業社会』、編著書『デジタル放送で何が起こるか』など。

桜井均さん
さくらい・ひとし=1946年生まれ。立正大学教授、東京大学情報学環特任教授。元NHKプロデューサー。番組に「埋もれたエイズ報告」「東京裁判への道」など。著書に『テレビは戦争をどう描いてきたか』など。

しんぶん赤旗日刊紙月3.400円 日曜版月800円。

【しんぶん赤旗】はあくまで日本共産党機関誌という位置づけですが、党員約32万人を含む約130万人の方に支えられています。
ただ日本共産党はご存知の通り、政党助成金・企業献金を一切受け取らず国民有志の浄財で財政を賄っている政党なので、しんぶん赤旗の発行は、実は結構(かなり)厳しい状況なのです
日本共産党に期待されている方は是非、しんぶん赤旗ご購読をよろしくお願いします。
申し込みは、お近くの日本共産党地区委員会事務所へお気軽に

日本共産党ホームページ
http://www.jcp.or.jp/

携帯版
http://www.jcp.or.jp/i/index_i.html

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。