佐々木俊尚の「ITジャーナル」

佐々木俊尚の「ITジャーナル」

東欧のプログラマ事情

2005-08-01 | Weblog
 少し旧聞になるが、VISAやMASTER、Dinersなどのカードの情報が米国のカードシステムズ・ソリューションズから漏洩し、6万8000枚ものカードが不正利用されてしまうという事件があった。日本の利用者のカード情報も少なからずが流出しており、実は私が使っているカードのうちのSuicaビューカードからも「お客様のカード情報が流出してしまいました」と連絡があった。もちろんカードは再発行され、実害はまったく生じなかったのだが、カード番号が変わってしまったことによる不都合はいくつかあった。

 それはともかく、これらの流出カードの多くは、ロシア・東欧圏に流れていることが各国の捜査当局で確認され、メディアでも報道されている。かつてアイデンティティセフト(なりすまし)事件が大流行したころから、カード情報の闇市場といえばロシア・東欧圏が中心だった。東欧あたりに置かれているウェブサーバには、ウェブベースのクレジットカード泥棒市場が存在し、カードの情報が高値でやりとりされている。もちろんこれらのウェブページにはURLなんてものはなく、IPアドレスだけで居場所が確認され、しかもそのIPアドレスは転々と変わるから、泥棒市場の関係者でなければなかなか追跡するのは難しいようだ。

 また昨年末、日本で初めての本格的なフィッシング詐欺が発生し、VISAカードを騙るメールがばらまかれる事件があったが、この時もフィッシングサイトが置かれていたのは、ポーランドのワルシャワ近郊に実在するサーバ上だった。

 それにしても、なぜ東欧なのだろうか。クラッカーの本場といえば、米国じゃないのか?

 実はロシア・東欧には、きわめて優秀なプログラマが非常に多い。これはプログラマの世界では、有名な話である。

 たとえば、IBMが毎年実施している国際大学対抗プログラミング・コンテストというイベントがある。このコンテストの上位には、常にロシア・東欧圏の大学がずらりと並んでいる。今年4月に上海で開かれた第29回コンテストでは、地元の上海交通大学が優勝したが、上位12位は次のようだ。

上海交通大学(中国)
モスクワ州立大学(ロシア)
サンクトペテルスブルグ精密機械光学大学(ロシア)
ウォータールー大学(カナダ)
ヴロツワフ大学(ポーランド)
復旦大学(中国)
スウェーデン王立工科大学(スウェーデン)
ノルウェー工科自然科学大学(ノルウェー)
イジェフスク州立工科大学(ロシア)
ブカレスト工科大学(ルーマニア)
北京大学(中国)
香港大学(香港)

 ロシア・東欧圏が5校も入っている。あとは中国・香港が4校、北欧が2校。北米はカナダの大学が1校だけだし、日本や韓国は入賞していない。

 そしてロシア・東欧圏は、韓国やアイルランド、インドなどと比べれば、IT産業の発展はやはり遅れている。東欧圏でオフショア開発を行っている日本の技術系企業の関係者は、「大学などに行けばスーパープログラマがゴロゴロいるのにもかかわらず、彼らには案外といい就職先はないんです。そうした人材の一部が、結果的にカネ目当てに闇マーケットへと流れ込んでしまってる可能性が高い」と話す。

 逆に言えば、日本にはきわめて優秀なプログラマーや技術者がたくさんいるのにもかかわらず、裏社会と結びついたり、カネ目当てに不正侵入事件を起こすようなケースがあまりないのは、彼らが表社会できちんと遇され、社会的位置も高いということがあるのだろう。