国の特別天然記念物のトキ10羽が放鳥された新潟県佐渡市で、新種の可能性の高いカエルが発見された。本州以南に分布するツチガエルに似ているが、腹部が黄色で鳴き声も全く異なるため、佐渡の固有種とみられる。放鳥トキの大切な餌になっている。脊椎(せきつい)動物の新種が国内で発見されることは珍しい。(田中幸美)
≪調査13年≫
厳寒期のトキの餌場を調査している元新潟大助教の関谷国男さん(66)(両生類学)が発見した。最初の出合いから13年。生息地域の確認や遺伝子解析など丹念な調査が実を結んだ。関谷さんは「貴重な種。トキに食べられてもいいくらいに増やしてほしい」と話す。
関谷さんは平成15年度から始まった同大の地域支援活動「トキ・プロジェクト」のメンバーとして、トキのために復元した水田での両生類の生息状況や、放鳥後の冬場の餌場の調査を行っている。
2月10日、カエルやイモリを精力的に食べるトキの姿を目撃、その中に腹の黄色いカエルを確認。18日に加茂湖周辺にある餌場を調査したところ、放棄水田の側溝の周辺3メートルの範囲で40匹を発見。冬場は、水温が高い場所に集まるため、大量発見につながった。
≪奇妙な声≫
新種のカエルとの出合いは8年にさかのぼる。学生を連れて佐渡島内の同大臨海実験場を訪れた際、両津港から近い水田で腹が黄色いカエルを見つけた。普通のツチガエルは全体に灰色で背面はざらざらとして大小のこぶがあり、「ギュッギュッ」と鳴く。佐渡には腹部の黒いアカハライモリがいるなど独自の生物がいるため、最初は黄色いカエルを見ても、「地域的な変種かな」と、さほど気に留めなかったという。
ところが、その翌年、島の北西部で「ビューンビューン」と奇妙な声で鳴いているのに気付き、「鳴き声が違う変種はない。新種と確信した」と関谷さん。
≪特定分布≫
その後も毎年調査を続け、島の特定の緯度上のため池や水田に多く分布していることがわかった。北部の大佐渡と南部の小佐渡をそれぞれ横断する山脈を越えて生息しているという興味深い事実も突き止めた。
さらに新種の裏付けには遺伝子的な知見が必要なため、広島大大学院理学研究科両生類研究施設の三浦郁夫准教授(50)に遺伝子解析を依頼。その結果、三浦准教授は「関東のツチガエルのグループと似ているが、遺伝子的には明らかに異なる」と分析。(1)鳴き声が全く違う(2)新種は腹部が黄色で背面はすべすべなど色と形状も違う(3)両者を交配させると生殖能力が非常に弱い上、子はすべて雄-などを根拠に挙げ、「新種と推定される」と話す。
研究の一部を日本爬虫(はちゅう)両棲(りょうせい)類学会で発表。昨年3月には、三浦准教授らと共同論文をまとめ、同学会刊行の英文専門誌「カレントハーペトロジー」に提出した。同誌への掲載を待ちながら、現在、新種記載論文をまとめている。関谷さんは「偶然の発見から13年もかかったが、トキとともに保護してほしい」と話す。
(産経新聞、YAHOO!JAPAN)